第十四話 爆破テロ
――エルヴィス視点――
教会が、炎に包まれていた。
瓦礫が散乱し、煙が空を覆う。 騎士団は現場へ雪崩れ込むように突入した。
「負傷者を救護へ回せ! 周囲の封鎖を急げ!」
怒号が飛び交う。
エルヴィスは剣を抜いたまま、教会正面を睨みつけた。
入口には―― 武装した冒険者達が陣取っていた。
「第二騎士団団長だ。武器を捨て、投降しろ」
低く告げる。
その瞬間――
「待て待てぇ」
教会の扉の奥から、一人の男が姿を現した。 にやけた笑みを浮かべている。
「おいおい、こっちに入ってくるんじゃねぇぞ」
男は指を鳴らす。
「一歩でも踏み込んだら――もう一発、ドカンだ」
騎士達の空気が凍る。
その時だった。
遠くで――
爆音。
地面が震え、煙が別方向から立ち昇る。 かすかに悲鳴が聞こえた。
「……何だと」
エルヴィスが振り返る。
男は楽しげに笑った。
「ほらほら、忙しいだろ? 今日は大サービスなんだよ」
剣を握る手に、力がこもる。
「目的は何だ」
「決まってんだろ」
男は大げさに肩をすくめた。
「マジックアイテム規制の撤廃だよ。制作会社への抗議ってやつさ」
吐き捨てるように続ける。
「まぁ、NPCをどれだけ殺したところで、制作会社は痛くも痒くもないだろ?」
背後の教会を親指で示した。
「だから占拠してんだよ。ここをな」
その言葉に、騎士達が息を呑む。
「蘇生を止めれば、プレイヤーも困るだろ?」
男は歯を見せて笑った。
「ほら、理解したなら交渉に行けよ」
さらに声を落とす。
「さっきの爆発で、プレイヤーも大量に死んでるぜぇ?」
沈黙が落ちた。
「……時間は」
「五時間だ」
男が即答する。
「今から五時間を過ぎても規制が撤廃されなかったら――どうなるか分かるよな?」
エルヴィスは唇を噛んだ。
「……分かった」
数名の騎士を残し、踵を返す。
背後で、男の嘲笑が響いた。
「期待してるぜぇ、騎士団様ぁ」
――リリア視点――
教会の方向から爆音が響いた。
「……っ!?」
胸が強く脈打つ。
セレナが――。
考えるより先に、足が動いた。
だが次の瞬間。
別方向から爆発が起きた。
煙が上がる。
悲鳴が広がる。
「何が起きてるんだ……?」
震える指でメッセージを送る。
――レイカ
――サラ
すぐ返信が来た。
『掲示板で規制撤廃の爆破予告出てる』
血の気が引いた。
その時。
人の波が押し寄せた。
「逃げろ!!」
群衆に呑み込まれる。
押される。
踏まれそうになる。
息が苦しい。
「……っ、通して……!」
だが動けない。
教会は目の前なのに、まるで遠かった。
やがて騎士団が到着し、避難誘導が始まった。
しかし――
それは想像以上に混乱していた。
怪我人。
泣き叫ぶ子ども。
荷物を抱えたまま動かない商人。
時間だけが過ぎていく。
一時間。
二時間。
三時間。
「……くそ……」
焦燥が胸を焼く。
そして――
ようやく、人の流れが分散した。
「こちらへ! 安全区域へ!」
騎士の声が響く。
だが。
リリアは逆方向へ走った。
「止まれ! 危険だ!」
腕を掴まれる。
「離してください! 友達がいるんです!」
押し問答になった、その時。
「……何をしている」
低い声が落ちた。
振り返る。
エルヴィスだった。
「さっさと避難しろ」
わずかに苛立ちが滲んでいる。
「嫌だ。シスターを助けたい」
「騎士団に任せろ」
冷たい声音だった。
その時――
「団長! 回収しました!」
騎士達が、大きな箱を運び込んできた。
箱の中から、電子音が響く。
「……それ」
「時限爆弾だ」
短い答え。
「……テロの?」
沈黙。
やがてエルヴィスは口を開いた。
「制作会社にログ解析を依頼した。爆弾の位置を特定し回収した」
「……」
一瞬、言葉を失う。
「それ絶対、従業員がめちゃくちゃ苦労してるやつじゃん」
騎士が困惑する。
「会議で『ここは根性で』とか言われてるやつ」
「……何の話だ」
「ブラック企業あるある」
「意味が分からん」
「絶対に就職したくない」
「はぁ……今はそこは重要ではない」
真顔で返された。
「タイムリミットまで、あと三十分」
エルヴィスが続ける。
「数が多すぎる。解体は不可能だ」
空気が張り詰める。
「テレポートで街の外へ転送するしかない」
エルヴィスは箱を見据えた。
「……俺が行く」
「団長!」
部下が叫ぶ。
「教会制圧には貴方が必要です!」
沈黙。
その時。
「……私が行きます」
前に出たのは、若い騎士見習いだった。
「万が一のことがあっても、私は孤児です」
拳を握り締める。
「団長にはずっと良くしてもらいました。役に立ちたいんです」
エルヴィスの表情が歪む。
「……分かった」
苦渋の声だった。
エルヴィスは懐からテレポートアイテムを取り出す。
その瞬間。
ぴぴぴぴぴぴ――――
電子音が加速した。
「まさか勘付かれた……!」
このままでは転送直後に爆発してしまう。
見習い騎士も躊躇した
その時だった。
「――っ!」
リリアが飛び出した。
エルヴィスの手からアイテムを奪い取り
爆弾箱にしがみついた。
「何をしている!!」
怒号が響く。
「お前はプレイヤーだろう!!」
リリアは叫び返した。
「…だからだよ!私は蘇生できる!」
騎士見習いを指差す。
「でも彼は違う!NPCは消えるんだ!」
エルヴィスが息を詰める。
リリアはまっすぐ彼を見た。
「エルヴィス……本当はNPCも守りたいんだろ」
「あの時」
声が震える。
脳裏に浮かんだ、公爵邸でのエルヴィスの笑顔。
「……笑ったのは、そういう意味だろ?」
ぴぴぴぴぴぴ――
「やめろ!!」
エルヴィスが叫ぶ。
リリアは微笑んだ。
「……後は頼んだぞ」
マジックアイテムの光がリリアを包みこむ。
次の瞬間。
リリアの姿が消えた。
そして――
遠く、山の方角で。
閃光が走る。
直後。
世界を揺らす爆音が響いた。
エルヴィスは、その方向を見つめたまま――
一歩も動けなかった。




