表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/33

第十三話 規制の影響(エルヴィス視点)


リリアが屋敷を出てから――。


公爵邸の空気は、妙に静かになった。


騒がしいわけでもない。

仕事が減ったわけでもない。


むしろ逆だ。


それでも、どこか足りない。

廊下を歩けば、使用人達がわずかに視線を交わす。


「最近、屋敷が落ち着いていますね」


侍女の一人が、ぽつりと漏らした。


「……そうか?」


「ええ。以前は、廊下で転びそうになったり、荷物を抱えて走っていたり……賑やかでしたから」


リリアのことだ。


エルヴィスは何も言わなかったが、使用人達の顔はどこか寂しそうだった。


――あいつは、屋敷の空気まで変えていたのか。


小さく息を吐く。


考えても仕方のないことだ。



---


そんな折だった。


「エルヴィス様。王室より連絡が入っております」


イオリが淡々と告げる。


「……またか」


マジックアイテム規制による混乱は、想像以上に広がっていた。


「今回は、旦那様と奥様もお呼びだそうです」


「……父上と母上が?」


思わず眉が動く。


あの二人が王に呼ばれて出向くなど、滅多にない。


むしろ――ほとんどない。


「珍しいな。王が直々に謝罪でもするのか」

皮肉めいた冗談を言う。


「いえ」


イオリはわずかに口元を緩めた。


「リリア様の話をしたところ、一度会ってみたいと」


「……は?」


「それで来訪を決められたそうです」


「……」


エルヴィスは額を押さえた。


あの自由人達が、そんな理由で動くのか。


――心底、呆れていた。



---


だが感傷に浸っている暇はなかった。


騎士団は、かつてないほど多忙だった。


規制に対する抗議。


プレイヤー同士の衝突。


そして――


NPCを狙った犯罪。


「第二騎士団!通報だ!商業区北通り!」


伝令が飛び込む。


エルヴィスは即座に立ち上がった。



---


現場に到着した時、既に被害は出ていた。


商人NPCが地面に倒れ、商品が散乱している。

加害者のプレイヤーは、腕を組んで立っていた。


「やっと来たかよ」


苛立った声が響く。


「遅ぇんだよ。オレはプレイヤー様だぞ?」


騎士達の空気が張り詰める。


エルヴィスは淡々と歩み寄った。


「事情を聞かせてもらおう」


「は?事情?」


男は鼻で笑う。


「金払ったのに、売り物ねぇとか言いやがったんだよ。このNPC」


「だから?」


「ちょっと脅してやったんだ。それなのに抵抗しやがってオレが怪我しちゃっただろ?」


沈黙が落ちた。


「さっさとオレを助けろよ。それが仕事だろぉ」


部下の一人が剣に手をかけかける。

エルヴィスは、静かにそれを制した。


「……暴行罪で拘束する」


「は?お前、ふざけんなよ。こっちは被害者だぞ。」


吐き捨てられた言葉。

エルヴィスは表情を変えなかった。


ただ淡々と命じる。


「連行しろ」



---


処理を終えた頃には、夜になっていた。


屋敷へ戻る頃には、月が高く昇っている。


廊下を歩く。


そして、ふと足を止めた。


月光花が、まだ飾られていた。


淡い光を宿した花弁が、静かに揺れている。

――リリアが置いていったものだ。


あの日。


NPCのために泣いた姿。

そして――

抱きしめられた温もり。


無意識に指先が花へ伸びる。


「……」


プレイヤーにも、ああいう奴らがいる。


そう思えば。


「……まだ、守る価値はある」


小さく呟いた。



---


「エルヴィス様」


背後から声がする。

振り返ると、イオリが立っていた。


「リリア様から預かっていた物がございます」


差し出された包みを受け取る。

中には大量の菓子が詰まっていた。


「……こんなに」


「差し入れだそうです」


「……あいつ」


思わずため息が漏れる。


「だから金欠になるんだ」


だが、口元はわずかに緩んでいた。



---


「それと」


イオリが続ける。


「教会の様子がおかしいので、見に行ってほしいと伝言を」


エルヴィスの表情が変わる。


「詳しくは?」


「教会周辺に不審者がいるとのことです」


「……分かった」


すぐに踵を返した。



---


教会に到着すると、シスター達が慌ただしく迎えた。

夜分に申し訳ないが、事情を聞く。


だが――


「昨日、今日と姿を見かけなくなったのです」


「逃げた可能性もありますね」


「はい……」


エルヴィスは周囲を見回した。


不自然な気配はない。


「巡回を増やします。何かあれば即座に通報を」


「ありがとうございます」



---


騎士数名を伴い、屯所へ戻る途中だった。

夜の街は静まり返っている。


その時――


空気が震えた。


閃光。


次の瞬間。


轟音が、街を引き裂いた。


地面が揺れる。


遠くで、悲鳴が重なる。


エルヴィスは即座に振り返った。


爆煙が立ち昇る。


その方角は――


「……教会だ」


静かな声だった。


だが、その瞳には、凍りつくような光が宿っていた。


「総員、急行」


騎士達が一斉に駆け出す。


エルヴィスもまた、剣を抜いた。


胸の奥で、不吉な予感が脈打っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ