表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/33

第十二話 規制の影響


現実世界の淳。


「おー、荒れてるなぁ。」


先日、制作会社からプレイヤー全員へ、数十種類のマジックアイテム規制の通知が届いた。


その影響で、ゲームの掲示板は荒れに荒れている。


制作会社への怒り。

返金対応についての議論。

規制を擁護する声。


コメント数が多すぎて、とても追いきれない。


「これって……エルヴィスが王室に依頼した規制の件だよな……」


画面を見つめながら呟く。


「あんな事件があったんだし……仕方ない、よな」


そう言い聞かせながらも、少しだけエルヴィスのことが気になった。


「時間あったら……イオリさんのところ行ってみるかな」


そんなことを考えながら、オレは今日もいそいそとゲームへログインした。



---


ベッドで目を覚ます。

今日も経験値を上げるため、仕事へ向かう予定だ。


だが、その前に――


一つ、やっておきたいことがある。


教会への寄付だ。


この前、教会の小屋で一緒にいたNPCのことが、どうしても頭から離れない。


エルヴィスは言っていた。

あのNPC達には、教会に救われる役割があると。


ならば――

オレが教会に寄付をしたら、間接的に彼らを救えるのではないか。


そう考えたのだ。



---


教会に着くと、多くのシスターが祈りを捧げていた。

静かで、厳かな空気が流れている。


「……ちょっと待つか」


周囲を見回したが、すぐに対応してくれそうなシスターが見当たらない。


扉の近くで待つことにした、その時だった。


教会の敷地外を、数人の男達がうろついているのが目に入った。


「……入りづらいのかな?」


そう思い、声をかけようと一歩近づく。


「すみませ――」


男達はオレに気付いた瞬間、そそくさとその場を離れていった。


「……なんだったんだ?」


妙に気になったが、深く考えないことにした。



---


やがて教会の扉が開き、シスター達が外へ出てきた。


その中の一人に声をかける。


「あの、寄付をしたくて来ました」


シスターは柔らかく微笑んだ。


「それは、ありがとうございます。司祭様のところへご案内いたしますね」


「し、司祭様!?」


思わず声が裏返る。


「い、いや……そんな大した金額でもないので!ここで受け取っていただければ……!」


今の全財産ではあるが、給料一ヶ月分にも満たない。


するとシスターは、ゆっくり首を横に振った。


「金額の大小ではございません。例え銅貨一枚であったとしても、あなたの真心から捧げられたもの。無碍にはできません」


「……」


そこまで言われると、断れない。


「わ、分かりました……」



---


司祭は、とても感じの良い人物だった。


「この度は、誠にありがとうございます」


丁寧に頭を下げられ、こちらの方が恐縮してしまう。


「寄付をいただいた方には、お祈りを捧げております。こちらの書類をご記入ください」


差し出された紙には、


・プレイヤー名

・寄付の使い道


と書かれていた。


オレは少し考え――


小屋の修繕

モンスター襲撃で負傷した人達の治療費


と記入した。




「ところで」


ふと思いつき、口を開く。


「司祭様は、プレイヤーの方なんですか?」


司祭は穏やかに微笑んだ。


「いえいえ、わたくしはNPCでございます。シスター職はゲーム内で、それほど人気がなくて……」


「そうなんですか?」


「毎日お祈りの繰り返しですから、刺激を求められる方には敬遠されがちなのです」


「……確かに」


あっ、


納得しては

失礼だったかもしれないと

「では、こちらは何の神様を祀っているんですか?」

話題を変えるように尋ねる。


「こちらでは特定の神様は祀っておりません。プレイヤーの方が、それぞれ信じる神へ祈りを捧げております。NPCは創造主たる制作会社様へ祈りを捧げております」


「へぇ……」


妙にこの世界らしい話だと思った。



---


司祭に挨拶をして、部屋を出る。

すると、掃除をしていたシスターが近づいてきた。


「あなたは……この前の。またお会いしましたね」


「あっ!美人なシスター見習いさん!」


女性は、少し照れたように笑う。


「今は、シスター・セレナと申します。見習いから正式に任命されました」


「そうだったんですか!おめでとうございます!」


「ありがとうございます」


嬉しそうに微笑んだ。



---


「あの事件のあと、大丈夫でしたか?騎士団の方に保護されたと聞いておりましたが……心配していたんです」


「はい、大丈夫です。問題なく過ごせてます」


「それは良かった……」


セレナは安心したように息を吐いた。



---


「それにしても、随分な騒ぎになってしまいましたね」


「マジックアイテム規制の件ですよね?ログイン前に掲示板を見たら、炎上してましたよ」


「炎上……?」


「えっと、ネットで大喧嘩してるみたいな感じです」


「あら……物騒ですわね」


少し首を傾げるセレナを見て、思わず笑ってしまう。


世間知らずな様子が……

「なんだか、本物のシスターみたいですね」


「そうでしょうか?」

不思議そうにしていた。


---


だが、セレナはすぐに表情を曇らせた。


「物騒と言えば……最近、教会の周りをうろつく方が増えているんです」


「え?」


「なんだか、怖くて……」


「オレも、さっき見ました。声をかけようとしたら逃げちゃって」


「まぁ……」


セレナは胸元で手を握る。


「通報するほどではございませんが……冒険者ギルドに護衛を依頼するべきか迷っているんです」


「それなら」


オレはすぐ答えた。


「第二騎士団に伝えておきます。相談には乗ってくれると思います」


「本当ですか?」


「はい」


セレナはほっとしたように笑った。


「ありがとうございます。リリアさんは、本当にお優しい方ですね」


「いやいや、たまたまです」



---


「ところで」


セレナがまた少し不安そうに言う。


「今日はどうして教会へ?まさか……また散財を……」


「違いますよっ!!」


思わず声が大きくなる。


「今日は寄付です!一瞬でしたけど、お世話になった小屋が壊れてしまったので」


その瞬間、セレナの表情がぱっと明るくなる。


「それは素晴らしい行いです!」


「寄付をしてお祈りを捧げると、神――制作会社様からポイントをいただけることもあります。大幅に経験値が上がる方もいるとか、いないとか……明日のお祈りは、より心を込めますね」


「それは……ありがとうございます」



---


その後も少し話し込み、セレナとは自然と友達になった。


ゲーム内で出来た、初めての友達だ。

なんだか、とても嬉しかった。




それから数日――。


急に仕事が忙しくなった。


どこの店も忙しいらしく、薬草の供給がまったく間に合っていない。


「リリア!それ、棚に補充お願い!」


「はい!」


走るように店内を移動する。


気付けば、店の商品はすべて完売していた。


「やったわぁぁ!」


ミカさんが帳簿を抱えながら歓声を上げる。


「噂だと、冒険者ギルド総出でダンジョンに挑むらしいわ。その準備ですって。過去最高売上よ〜」


「そうなんですか……良かったですね」


そう言いながらも、さすがに疲労が顔に出ていたらしい。


ミカさんは、そんなオレを見てにやりと笑った。


「皆ありがとね。今日はもう売るものもないし……どこかご飯に行きましょう!」


「えっ、いいんですか?」


「奢るわよ!」


「よっしゃぁ!!」


店員全員が一斉に声を上げた。



---


向かったのは、焼き肉屋だった。


ゲーム内ならではの、見たこともない肉が並ぶ。


「これ、ドラゴン種の肉らしいわよ」


ケイトが嬉しそうに皿を差し出す。


「えっ、マジで?」


「味が濃くて美味しいのよ〜」


一口食べる。


「……うまっ」


思わず声が漏れた。


現実ではまだ飲めない酒まで注文してしまう。


もちろんプレイヤーは酔わないが、雰囲気が楽しい。


「最高〜〜〜」


思わず天井を見上げた。



---


「そういえば」


ソフィが箸を止め、こちらを見る。


「リリアって、現実では何してるの?」


「え?」


突然の質問に少し戸惑う。


「えっと……だいたいゲームしてるかな。最近は友人二人と卒業旅行に行ったりして」


「学生?」


「うん。春休み中だから、ほぼ毎日ログインしてる感じ」


「へぇ〜」


ソフィが興味深そうに頷く。


「部活動とかは?」


「あ〜そろそろアルバイトを始めようかなって思ってるんだよね」


その瞬間――。


「えっそうなの?

 そしたらログイン率下がるのかしら…」


ソフィが本気で悲しそうな顔をする。


「寂しいわ……」


ミカさんまで腕を組んで頷いた。


「……なんか」


オレは思わず笑ってしまう。


「必要とされてるみたいで、ちょっと嬉しいです」



---


「ちなみに皆さんは?」


そう聞き返すと、


ミカさんが肩をすくめた。


「私は家に帰ったら、旦那と子ども五人の世話よ」


「五人!?」


思わず声が裏返る。


「まだ小さいの。毎日戦争ね」


「……尊敬します」


世話好きな性格は、ここから来ているのかもしれない。



---


「私はショッピングが趣味かな」


ソフィが笑う。


「部屋、物で溢れてるけど」


「……ちょっと分かります」


妙な親近感が湧いた。



---


「おれは食べ歩き!」


ケイトが胸を張る。


「この店もオレが見つけたんだぞ〜感謝しろよぉ」


「さすがです」


職場で常にお菓子を食べている理由が分かった気がする。



---

その後も様々な会話をした。

とても楽しい時間だった。



---


帰り道。


一人で夜の街を歩く。


ふと、違和感を覚えた。

どこか張り詰めた空気。


露店の店主が、苛立った声で客と話している。


冒険者達も、どこか落ち着かない様子だ。

「……規制の影響かな」


小さく呟く。


商人や冒険者にとって、マジックアイテムは重要な商材だ。


フラストレーションが溜まるのも無理はない。


「まぁ……」


空を見上げる。


「オレは薬師だし。あんまり関係ない……よな」


そう思う。


そう思ったはずなのに――。


脳裏に浮かぶのは、エルヴィスの顔だった。


忙しそうに働いている姿。


「……差し入れでもしようかな」


ぽつりと呟く。


「ケイトにおすすめ聞いてみよ」



---


数日後。


街の中央広場付近を歩いていた時だった。


遠くで、何かが光った気がした。


「……?」


次の瞬間。


轟音が、空気を引き裂いた。


地面が揺れる。


建物の窓ガラスが一斉に震えた。


「なっ……!?」


遅れて、悲鳴が上がる。


煙が、空へと立ち昇っていく。


「……爆発?」


誰かの声が震える。


そして――


教会の方角から、鐘の音が鳴り響いた。


警鐘だった。


「なにが…起こったんだ…?」

オレは呆然と空を見上げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ