第三十五話 トーナメント戦
合格者が告げられた後、マルクスによってトーナメントが組まれ受験者たちに伝えられた。一から八まで番号が割り振られ、レイナは七番、ウォルフは二番だった。
「戦うのは決勝になりそうやなぁ」
「そうですね。私は進めるかわかりませんけど…」
最早決勝に進むのが前提となっているウォルフの会話に他の冒険者たちは顔を引きつらせたり、明らかに苛立っていた。
彼らもFランクでは上位に位置する冒険者であり、相応の実力を持っている。そんな彼らを軽んじるような発言を黙って見過ごすことはできなかった。
明らかに殺気立つ冒険者たちを無視してマルクスはトーナメント戦のルールを話し始めた。
「一対一で戦って相手を気絶等の戦闘不能に追い込む、または相手の降参で勝ちとなります。あと、場外も負けですね。禁止事項は相手の殺害のみ。それじゃ始めましょう」
マルクスはウォルフと対戦相手の剣士を呼び、試合の準備を開始した。その間に剣士の男がウォルフに話し掛ける。
「おい」
「あ?なんや?」
「ずいぶんと調子に乗っているようだな」
「はぁ?」
ウォルフは疑問の声を上げる。なんのことかわからないがための言葉だが、その声は相手の怒りに火をつけるだけであった。
「とぼける気か?貴様もあの女もまるで俺たちがいないかのように振る舞い、馬鹿にしたような態度をとる。これを調子に乗ると言わずになんとするか!」
男は歯を食いしばり、怒りをあらわにする。もちろんウォルフにもレイナにもそんなつもりは無く、ウォルフは聞いているのが面倒になっていた。
「はぁ…」
「なんだその溜め息は。やはり俺たちを馬鹿に━━━」
「んなもん、どうでもええわ。冒険者やったら口やのうて剣で語れや」
「…いいだろう。俺たちを馬鹿にしたこと、後悔させてやる」
そんなやり取りをしている間に準備が終わったらしく、マルクスが武舞台に上がってきた。ウォルフと剣士の男は武舞台の両端に立ち、それぞれ構える。
「それじゃあ…よーい、始め」
マルクスが相変わらず力無い開始の合図を出すと、剣士の男が剣を引き抜きウォルフに迫る。
「死ねぇぇぇ!」
殺意を隠す気も無い攻撃をウォルフは体を半身にして躱す。男が追撃を試みるもウォルフが男の腹に拳を叩き込む。
「ぐふぅ」
男が慌てて距離を取ろうとするが、ウォルフがそれより速く顎に掌底を入れる。とどめを刺すためにウォルフは回し蹴りで男を武舞台から弾き飛ばした。
ウォルフ速度特化の剣士ではあるが、力も強く体術も優れている。『魔力強化』も身に着けていない冒険者が受けられる攻撃ではなかった。
そもそも『魔力強化』はDランク以上の冒険者が身に着けるような高等技術であり、Fランクのウォルフが身に着けているのがおかしいのである。
第一試合は剣すら抜かず相手を圧倒したウォルフの完勝で終わった。その後の第二試合、第三試合も順調に進み、レイナが出場する第四試合となった。
レイナが武舞台に上がるとそこには二本の短剣を持った女性が立っていた。女性はレイナに手を差し出し握手を求め、レイナがそれに応じる。
「アタシはヴェーラ。よろしくね」
「私はレイナです。よろしくお願いします」
にこやかに話し掛けるヴェーラにレイナは安堵した。というのも先程のウォルフの対戦相手がレイナに対しても怒りを抱いていたようで自分の相手も言ってくるのではと心配していたのだ。
もっともウォルフの強さを目の当たりにした今では、ウォルフが恐ろしくて言う者はいないのだが、それはレイナの知るところではなかった。
「貴女は強いけど…アタシも負ける気は無いわよ?」
「わ、私も精一杯頑張ります」
二人はそう宣言すると武舞台の両端へと立つ。それを確認するとマルクスは開始の合図を出す。
「よーい、始め」
合図とともにヴェーラはレイナとの距離を詰め、短剣を振るう。レイナはそれを杖で受けると、『水魔壁』を展開し防御を固める。
ヴェーラは攻撃されるのを読み、距離を取る。レイナが放った『水魔槍』は武舞台の一部を削り取るもダメージとはならなかった。
一般的に剣士と魔法使いの戦いは防御魔法を展開する速さで決まると言われる。展開が遅ければそのまま剣士の攻撃が決まり、速ければ剣士は魔法使いの的になる。故に勝負は最初の一撃で終わるとさえ言われている。
しかし今回は防御魔法は速かったものの、相手が迎撃より速く動いたために決まらなかった。こうなった場合、試合は長期化する。
「『水魔散弾』!」
「『風片刃』!」
二人は手数の多い魔法を放つも、レイナの攻撃は躱され、ヴェーラの攻撃は防御魔法に弾かれる。お互いに決め手が無いまま試合は膠着状態となった。
しかし、長期戦になればなるほど有利になるのはレイナだった。魔力量で勝るレイナとの魔法戦はヴェーラにとって不利ではあるが、魔法を撃たないと一方的に撃たれ続け追い詰められる。
それに気付いたヴェーラは足を止め両手を上げる。レイナはそれを見て魔法の展開を中止した。
「降参よ。勝てるイメージが沸かないわ」
ヴェーラがそう宣言したことで第四試合の勝者はレイナとなった。レイナは勝てたことに驚愕する。しかし、遅れて喜びを感じ、小さくガッツポーズをした。
その後の二回戦も二人は順調に勝ち進み、決勝への出場を決めた。決勝ではウォルフの速度にレイナの防御魔法が間に合わず、一撃で終了した。
トーナメント戦の後、マルクスが合格者を発表し、レイナとウォルフはEランク冒険者へと昇格を決めた。
その後、レイナとウォルフの二人は異常な強さのEランク冒険者として知られるようになり、その二人とパーティを組んでいるソースケの実力も話題になったのはまた別の話。
前回同様言っておくとウォルフの実力は総合的にはソースケに劣りますが、純粋な体術と剣術ではウォルフが上です。




