第三十話 転生者
次の日、俺たちは全員で冒険者ギルドへと向かった。朝早くに向かったからウォルフがまだ寝ぼけている。どうしようもなかったから、無理矢理引きずって行くことにした。
俺たちは昇格試験を受けたことが無い。どんな試験かもわからないから、とりあえず朝早くに向かうことにしたのだ。
冒険者ギルドに着くとすぐに受付に向かう。朝だというのに酒の匂いは残っているし、酔い潰れて転がっている冒険者の姿もある。おそらくオールで呑んでいたのだろう。
受付の女性に声を掛ける。言うまでもなくレイナがだ。
「はい、なんの御用でしょうか?」
「昇格試験を受けたいのですが受けることはできますか?ランクはEランクです」
「Eランクへの昇格試験ですね。確認しますので、少々お待ちください」
その言葉を残して受付の女性は奥へと向かった。ウォルフを起こしながら待っていると、数分後に女性は戻ってきた。
「お待たせしました。Eランクへの昇格試験、今すぐに受けることが可能です。どうされますか?」
レイナとウォルフは暫し目を見合わせ、一つ頷き女性に返答する。
「お願いします」
「わかりました。それではこちらへどうぞ」
二人は女性の案内でギルドの奥へと招かれる。俺もついていこうとするが、女性に止められる。
「あのー…あなたも昇格試験を受けるのですか…?」
「いや、俺は違うが…」
「申し訳ありません。昇格試験の際は希望者以外の立ち入りは禁じられているんです」
そうだったのか。二人の試験を見れないのは残念だが、俺は大人しくここで待っていることにした。
「二人とも頑張れよ」
俺がそう言うとレイナは微笑みながら、ウォルフは自信満々に頷いた。まぁ、あの二人なら問題無く合格するだろう。俺は待っているだけでいい。
二人が奥へと入ってからやることがなくなった俺は依頼でも受けようと思い依頼が貼ってある掲示板へ向かう。だが、その最中で体に妙な不快感を感じた。
寒気がするようなムズムズするような違和感に近い程度の不快感。本来ならばスルーするであろうその感覚に対して俺の脳内で警鐘が鳴り響く。
『【鑑定】をされたときには妙な不快感があるんだよ』
思い出されるのはベルフェルに言われた一言。今の不快感の正体が━━━【鑑定】によるものだとしたら?もしかしたら俺が転生者だとバレたかもしれない。
俺の背中に冷や汗が流れる。焦るな。まだそうと決まったわけじゃない。ただの思い過ごしの可能性もある。とにかく気持ちを落ち着けろ。
俺が気持ちを必死に抑え付けていると不意に肩を叩かれた。心臓が握られたように収縮する。俺は無理矢理表情をつくり、叩かれたほうを向く。
そこにいたのは一人の女。黒い瞳に黒く長い髪。髪は一つに纏められており、少し大きめの魔法使いのようなローブを身に着けている。
「どうしたんすか?汗だくっすよ━━━ナグモ・ソースケ君」
その女は俺を見てそう言った。その顔はニヤリとした笑みをかたどっていた。
俺のことをソースケ・ナグモではなくナグモ・ソースケと呼んだ。名前がわかったのは【鑑定】を持っているからだとしてもこの世界の人間は俺をそう呼ぶことはない。そう呼ぶ可能性があるのは━━━日本からの転生者のみ。
俺はすぐにその女に【鑑定】を発動させる。
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名前:ミヤビ・ハルカワ
種族:人間
職業:異世界転生者
Lv:32
HP:376/376
MP:1279/1279
攻撃:541
耐久:218
敏捷:235
持久:275
器用:1126
魔法:1348
幸運:82
‹ユニークスキル›
【虚実混交】
‹スキル›
【闇属性魔法Lv6】【付与魔法Lv5】【魔力感知Lv7】
【魔力操作Lv7】【身体強化Lv5】【杖術Lv4】
【格闘術Lv4】【思考加速Lv3】【並列思考Lv3】
【五感強化Lv4】【鑑定Lv6】【偽装Lv4】
‹耐性スキル›
【打撃耐性Lv3】【斬撃耐性Lv4】【刺突耐性Lv3】
【光属性耐性Lv5】【闇属性耐性Lv4】
‹称号›
【詐欺師】
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やっぱり転生者か。だが、なんのために俺に声を掛ける?俺がそう考えていると目の前の女━━━ミヤビ・ハルカワは顔をしかめた。
「んー、【鑑定】っすか?いきなりレディの個人情報を見るとは意外とやらしいっすねぇ」
すぐに悪戯っ子のような表情でからかうように言う。だが俺はそれを意にも介さず、ミヤビに対して質問を投げ掛ける。
「…何が目的だ」
「目的、っすか?さぁ…心当たり無いっすかねぇ、ソースケ君?」
心当たり…?俺とコイツの接点は日本からの転生者であることだけだ。日本でもこの世界でもコイツと会った覚えはない。一体何が…
「おい」
「およ?」
そんななかミヤビに声を掛ける人物が一人。百九十センチはあろうかという長身にガッシリした体格、黒髪黒目で黒い鎧を纏った青年だった。
その青年は気の抜けた返事を返すミヤビに黙って近づくと、ミヤビの頭に拳骨を落とした。
「痛っ!?」
「なにしてんだお前は。無駄に警戒させてどうする」
「なにしてるはこっちのセリフっすよ!か弱い乙女にいきなり拳骨落とすとか何考えてんすか!?」
「言ったら黙って反省するようなやつなら拳骨は落とさねぇんだよ」
ミヤビとその青年は暫しの間言い争いを続けると、青年がこちらを向く。
「ウチのバカが迷惑掛けて済まなかったな。この通りだ、許してやってくれ」
青年はそう言うとミヤビの頭を無理矢理抑え付けて頭を下げさせる。ミヤビは未だに抗議を続けていたが、青年は無視して頭を抑え付け続ける。
「別に構わないが…何の目的で俺に声を掛けたんだ?」
青年は少し怪訝な顔で俺に言葉を返す。
「いや、俺たちは特に何かあるわけじゃないぜ?強いて言うなら転生者だから話し掛けたってだけだ」
…ん?何もない?いやいや、そんなはずはないだろう。だって現にミヤビは…あれ?別に何も言ってねぇな。えっ、もしかして…
「ミヤビ、今度は一体なんて吹き込んだんだよ」
「あたし、今回は何も言ってないっすよー。ソースケ君がなんか異常に警戒してたんで、なんとなく合わせただけっすよー」
…俺の勝手な勘違いかよ!俺は恥ずかしさを抑えられなくなり、その場に蹲った。そして、己の警戒心を強く呪ったのだった。




