第二十九話 鍛冶屋の依頼
「あのバカが誰を指しているかは知らないが、俺の仲間はこの場にはいない」
俺は無意識に両手を上げ降参のポーズをとり、なんとか言葉を絞り出す。
「あぁ、そうか。脅かしたみたいで悪かったな…」
男は初対面の人間、それも客に対して思いっきりメンチ切ったのを反省したのか、バツの悪そうな顔で頭を掻く。悪人面だが、根は良い人のようだ。
「んじゃ、ここに何をしに…聞くまでもねぇか」
「そうだな。ここは鍛冶屋だろう?」
「あぁ、ここは職人アガレスこと俺の工房だ。販売、製造、修復、武器に関することならなんでもやるぜ…って、製造は無理だったな…武器が欲しいなら販売で勘弁してくれ」
「何かあったのか?」
武器の製造ができないなんて鍛冶屋からしたら、大問題だろうに。俺はそう思い、尋ねる。さっきの騒動で恐怖心や緊張は吹っ飛んだ。
「実は…いや、客に話すことじゃねぇよ。武器の販売ならしてるから入りな」
「…材料の問題か?」
そう指摘すると、アガレスがピクッと反応する。
「…なんでそう思った?」
当てられたことを不審に思ったのか、険しい表情でアガレスはこちらを睨む。とりあえず俺は理由を説明する。
「製造ができない理由として考えられる原因は体の不調、設備不足、材料不足くらいだと思った。だが、アガレスはさっき男を吹き飛ばしていたし、体の不調は無いと判断した」
「…」
アガレスはただ黙って話を聞いていた。その目は大きく見開かれており、動揺が見て取れる。俺はさらに話を続ける。
「そして、俺に一瞬話そうとしたことから俺を冒険者だと思い、材料の調達を頼もうとしたのではないかと推測した。設備のことを冒険者に話しても仕方ないからな」
「…スゲーな。アンタ、国の諜報員かなんかか?」
「ただの冒険者だよ。少し察しが良いだけのな」
アガレスは力無く笑い、俺の言葉を肯定する。これで外れてたら、恥ずかしさのあまり自死を選んでたな。そっちのほうが早そうだったからそっちを選んだが…もう二度としない。
「アンタの言う通りだが…ここじゃなんだし、店の中に入ってもらえるか?」
俺は頷き、アガレスの案内で店へと入る。中には剣、槍、斧、盾などの武器が所狭しと並んでいた。そのすべては最低でもDランクとなかなかのものだった。
「数も凄いが…質も相当だな…」
誰に聞かせるでもなく呟いた言葉にアガレスは敏感に反応し、俺に向き合う。
「そうだろう、わかってくれるか!特にこの剣なんか自信作でな!貴重な金属を芯に使ったんだが、これが大成功で…」
アガレスは興奮した様子で早口でまくし立てる。まぁ、自分が作った物を褒められるのは嬉しいだろう。その気持ちはよくわかる。ちなみにアガレスが出した剣はBランクと疾風の槍に匹敵する性能だった。
俺はアガレスの話を頷きながら聞いていた。その言葉には鍛冶に対する愛がこれでもかというほど込められていた。やがて、アガレスはハッとした様子で正気に戻った。
「悪いな…こんなこと話しちまって…熱中すると歯止めが効かねぇのが俺の悪い癖でなぁ…」
「別に構わない。作った物が褒められると嬉しいのは俺もよくわかる」
「まぁ、そこはおいといて…本題に入るぜ」
アガレスは今までとは違う真剣な表情を浮かべ、重々しく口を開いた。
「問題が材料ってのはアンタが言った通りだ。いつもはこの近くの鉱山から取ってるんだが…そこに厄介な魔物が住み着きやがったんだ」
「厄介な魔物?」
「あぁ、ロックリザードっていう魔物だ。Dランクの岩を纏ったトカゲだ」
Dランクくらいならギルドに依頼を出せばすぐに討伐されると思うが…何か出せない理由があるのか?
「ギルドに依頼を出してないのか?」
「出したさ。だが、その鉱山は俺以外の人間はほとんど入らない上にロックリザードは鉱石しか食わねぇから討伐優先度は低い。おまけに俺の稼ぎじゃあ報酬もあんま出せねぇ。それで受けようとするやつがいねぇのさ」
アガレスは不満を顔で表したように渋面をつくる。アガレスは不満だろうが、冒険者だって生活がかかってる。仕方ないと言えなくはないか。
「なら、俺が引き受けよう」
「…え?お、おいそりゃホントか!?」
俺の提案にアガレスは目を輝かせて食いついた。
「あぁ、その代わりと言ってはなんだが…」
「な、なんだ?俺が出来ることならなんだってやるぜ!」
俺は思わずニヤリと悪い笑みが零れそうになった。なんとか今までの表情を取り繕い、アガレスに話し出す。
「この店で扱っている金属を分けてほしいんだ。合金も含めてな。もちろんほんの少しで構わないし、金も払おう」
俺の提案があまりにも予想外だったようで、アガレスはポカンとした表情を浮かべている。しかし、すぐに正気に戻り、俺に返答する。
「そんなもんでいいのか?討伐してくれたらやるよ。金もいらねぇさ」
「本当か、ありがとな」
「そりゃ、こっちのセリフだぜ!」
アガレスは嬉しさのあまり俺の背中を思いっきり叩いた。俺は内心でガッツポーズを決めていた。
金属のイメージさえあれば俺は金属を創り出せる。傍目にはほとんど俺に利益は無いように見えるが、実質無限に金属を生み出す権利を手に入れたようなものだ。これを得と言わずしてなんと言う。
これだけ聞いたら俺が極悪人のようだが、アガレスは鉱石が取れるようになってWIN、俺は金属を手に入れられてWINのWIN━WINの関係だ。しかも合意の上でだ。何も問題は無い。
その後の話し合いでついでに少し俺たちも鉱石を取ってきてくれと言われた。急を要する依頼があるらしい。そのくらいならと了承した。
「そんじゃ、頼んだぜ!」
「任せてくれ。出来る限り早く終わらせる」
それだけ言って俺はアガレスの鍛冶屋を出た。あたりはすっかり日が沈んで暗くなっていた。ずいぶん話し込んでいたようだ。俺は二人の待つ宿屋へと向かった。
◇ ◇ ◇
俺は夕食の後、レイナとウォルフにアガレスから引き受けた依頼について話す。レイナとウォルフは少々困惑したような顔をしていた。なぜかと思ったが俺はすぐにあることに気が付いた。
あれ?もしかして…レイナとウォルフって依頼受けれなくね?あの二人はFランク。受けられる依頼はG、F、Eの三つ。ロックリザードはDランク。そして大体魔物のランクと依頼のランクは同じ。あ、無理だ。
俺は自分がバカなことを言っていたと気付き、どうするべきかと思案する。
さすがにアガレスの依頼を断るのは無理だ。店から飛んできた男と同じ運命を辿ることになる。いや、そこまではしないと思うけど…。
「なぁ、ソースケ」
そう考えているとウォルフが俺に話し掛ける。
「んだよ、ウォルフ」
「それって、つまりオレとレイナがEランクになればええんやろ?」
「は?」
「いや、やから、オレとレイナが昇格試験受けて合格すればEランクになれるんやろ?せやったら昇格試験の後に依頼を受ければええんやないか?」
…コイツ、天才か!?確かにそれなら依頼を達成することができる。なんと、一番期待していなかったウォルフから解決策が出されるとは…。
「それだ、ウォルフ!レイナもそれでいいか?」
「その依頼は受けたいと思いますし、Eランクにも上がりたかったのでちょうどいいです。それでいきましょう」
レイナの了承も得たことで俺たちがアガレスの依頼を受けることと、レイナとウォルフの昇格試験が決まった。新しい街に来ても忙しくなりそうだ。




