第二十六話 決着
勉強の合間に書きました!褒めて!
私達はあの戦いをただ見ていた。最初はまだソースケさんなら勝てるって思ってた。だけど、ホブゴブリンさんの戦闘力は異常の一言に尽きる。
ステータスだよりの戦闘ではない。研鑽の末に磨き上げられた技術と経験から作られた見事な戦い。その槍捌きは流麗な舞を彷彿とさせた。
しかし、ソースケさんもやられてばかりではなかった。戦いの中で尋常ではない速度で成長する。ついには本気のホブゴブリンさんと互角の戦いを行っていた。
歓声のような鳴き声を上げていたゴブリンたちや、ヤジを飛ばしていたウォルフさんも黙って二人の戦闘を見入っていた。
そんなソースケさんとホブゴブリンさんの戦闘も終わりに近付いていた。どうやら最後は二人とも大技でケリをつけるつもりのようだ。私達に舞台から離れるように伝えたのがその証拠だ。
ゴブリンの集落に魔力の衝突が起こり、魔力の衝突は暴風を呼び、舞台は粉塵に包まれた。離れているにも関わらず、私とウォルフさんはまともに立っていられなくなった。近くにいたゴブリンたちは吹き飛ばされていた。
しばらくして粉塵が晴れると、舞台には立ち上がる人影と地に伏す人影が一つずつ。立っていたのは━━━ソースケさんだった。清々しい笑顔で勝利を噛みしめているようだ。
けれど、ソースケさんもすぐに倒れた。皆は暫し呆然としていたが、気が付くとすぐさま二人の治療が行われた。私とウォルフさんも慌てて舞台に駆け寄る。ゴブリンたちの治療は薬草を擦り込むだけだったので、治療は私が引き継いだ。
見たところ二人とも命に影響するような傷は無かった。気絶していたソースケさんの顔に少し満足そうな色が見えたのは治療した私だけが知るところとなった。はぁ…相変わらず人騒がせだなぁ…。
◇ ◇ ◇
俺は家の中に充満する妙な匂いで目を覚ました。頭がぼーっとする中、戦っていたことを思い出し、飛び起きる。しかし、飛び起きた瞬間、俺の体を激痛が襲った。
「ぐおぉぉぉお…!」
痛みのあまり声にならないうめき声が出た。結構洒落にならないレベルで痛い。そんな声を聞きつけたのか、家の入口からレイナが入って来た。その後ろには同じく怪我を負ったホブゴブリンとウォルフがいた。
「ソースケさん、目を覚ましたんですね。怪我は大丈夫ですか?」
なんだろう、レイナの反応が前より少ない気がする。確かに地竜のときより怪我は少ないが…それだけではない気がする。そんなレイナをおいて、ホブゴブリンが俺に話し掛ける。
「ソースケ殿、サッキハ素晴ラシイ戦イダッタゾ!実ニ楽シカッタ!トコロデ怪我ハモウ平気カ?」
ホブゴブリンは先程の戦いの興奮が未だに冷めていないようで、怪我の心配より先に戦いの感想を伝えてきた。
「もう大丈夫だが…なんでお前はそんなにピンピンしてんだよ。寝込んでた俺が弱いみてぇじゃねぇか」
「ハッハッハ、ワレハホブゴブリンダ。ソコラヘンノ人間ヨリハ生命力ハ強イ。ソウ簡単ニハ死ナン」
やっぱり俺よりコイツのほうが無茶苦茶じゃねぇか?話を聞いたところ、俺たちは攻撃をぶつけ合った後に倒れ込んだらしい。治療はレイナがしてくれたようだ。ゴブリンたちではまともな治療が出来そうになかったから代わったそうだ。
「レイナとウォルフは無事だったか?一応離れるようには言ったが…。ゴブリンたちは…多分吹っ飛んだろ。死んでなきゃいいんだが…」
「私達もゴブリンたちも無事です。…というか、ソースケさん喋り方変わってません?」
俺はレイナに言われて気がついた。ウォルフも不思議そうに見ている。まぁ、元々隠すものでもないし、もういいか。
「あ゛ー…どっちかって言えば、こっちが素だ。前に口が悪いって言われてな。敬語が無理だったからこんな話し方だったんだが…嫌なら戻すが?」
「いえ、大丈夫ですよ。むしろ、こっちのほうが壁が無いみたいで親しみやすいので、こっちでお願いします」
レイナって前より言うようになったよなぁ…。今までは俺たちに遠慮していたように感じたが、もう普通に接するようになってきた。いいことだ、俺がそう思った瞬間…
「まぁ、それはいいとして…ソースケさん、ホブゴブリンさん。少々聞きたいことがあるのですが?」
俺とホブゴブリンの動きがピシっと止まった。いつもは優しいレイナの声に温度が無い。これから何が起こるかはわからない。しかし、俺とホブゴブリンは尋常ではない恐怖を抱いていた。
油を差していない機械人形のようにぎこちない動きで、俺たちはレイナのほうを向く。レイナは極低温の微笑を浮かべていた。俺の背中に冷や汗が流れた。
「あの攻撃…明らかに手合わせで使うような技ではないと思うのですが…あれは手合わせですよね?それなのに全力で戦い、挙げ句の果てには私達に被害が及ぶような攻撃をしたと…そういう認識で間違ってはいませんね?」
レイナは温度を感じさせない声で俺たちに問い掛ける。いつぞやの地竜やさっきのホブゴブリン以上のプレッシャーを感じる。俺たちは慌てて弁明という名の言い訳を口にする。
「ご、語弊があるぞ、レイナ。もちろんあれは手合わせのつもりだったが…全力を出そうとしたら、他のやつらに被害が出そうになったってだけで…」
「ソ、ソノ通リダ、レイナ殿ヨ。ソレニアノママ戦ウヨリモアッチノホウガ被害ガ少ナカッタノハ確カダロウ?」
「どちらにせよ、周りには被害が出ていることに間違い無いでしょう」
というふうに俺たちの必死の抵抗も虚しく、俺とホブゴブリンはレイナにこってりお説教を受けた。ウォルフはいつの間にかいなくなってた。アイツ後で全力でしばく。
◇ ◇ ◇
俺たちはゴブリンたちの集落の入口に集まっていた。
「あとは俺たちがノーダ村の村長にこれを伝えれば大丈夫だ。お前らは平穏に暮らせるようになるさ」
「何カラ何マデスマヌナ。何カ礼ヲシタイトコロダガ…ソウダ、モウ一度ワレト戦エルトイウノハ…」
「それで喜ぶのはお前だけだ、この戦闘狂が」
俺とホブゴブリンは軽口を叩くがその顔は少しやつれている。レイナの説教は正確にはわからないが、体感では二時間はあったと思う。逆にレイナはスッキリしたのかニコニコしていた。
「じゃあな、えーと…やっぱり名前が無いと不便だな」
「人類カラシタラソウデアロウナ。ワレラハナントナクデ識別デキルガ…ナラバ、ソースケ殿ガ名ヲツケテクレヌカ」
ホブゴブリンはいきなりそんな提案をしてきた。
「俺が?」
「ソウダ。魔物ニ名ヲ与エラレルノハ、相手ヨリモ強イ者ダケダ。貴殿ニ名付ケテモラエルナラバ、ワレモ嬉シイ」
なんだか面倒なことになったな…。俺にはネーミングセンスは無いんだが…まぁ、それで喜んでもらえるならそうしよう。
それを伝えると、ホブゴブリンは満面の笑みで喜んだ。周りのゴブリンたちもこころなしか、喜んでいるように見える。…いや、気のせいかな。わけもわからず騒いでいるだけのように思えてきた。
そんなことはさておき、俺はホブゴブリンの名前を考える。わかりやすい名前がいいよなぁ…。うーん…。
「プラウドってのはどうだ?」
「プラウドカ…良イ名ダ。気ニ入ッタ!嬉シイゾ、ソースケ殿!」
英語で誇り高いという意味だ。戦士としての振る舞いや、ホブゴブリンとしてゴブリンたちを守る姿勢に誇り高さを感じたから名付けた。安直な名前だが、気に入ってくれたようだ。
「それじゃあな、プラウド。楽しく暮らしてくれ」
「アァ、ソレデハナ、ソースケ殿。レイナ殿とウォルフ殿モ。達者デナ」
こうして俺たちはノーダ村へと向かった。まさかゴブリンたちと和解することになるとは…人生何があるかわからないな。これからも何があるのやら。
俺はノーダ村に戻るだけの道なのに少しワクワクした気持ちがあった。あと、森が深くなったあたりでウォルフはきっちりしばいた。




