第二十四話 VSホブゴブリン〈2〉
「イヤァ、シカシ…コレ程ノ戦イハ久方ブリだ。ヤハリ戦イハ楽シイモノダ。貴殿モソウ思ワヌカ?」
ホブゴブリンは槍を弄びながらそう問い掛ける。俺はその問いには答えず、ひたすらにホブゴブリンの隙を探る。ホブゴブリンは小さく息を吐く。
「ナンダ、戦イノ最中ノオ喋リハ嫌イカ?」
「まぁ…好きではないな」
正確に言えばお喋りが好きではない…というか、苦手なのだ。いわゆるコミュ障と呼ばれる人間だ。と言ってもまったく話せないわけではない。
友達や家族とかなら普通に話せるし、初対面でも同年代や小さな子どもだったら問題無い。だが、大人だと無理だ。何を話したらいいかわからなくなる。だからいつもはレイナに任せるようにしている。
だがなぜか、ホブゴブリンとは普通に話せる。人間ではないからだろうか。ホブゴブリンは今度は残念そうに深く溜め息をついた。
「ソレハ残念ダ。ダガ、悪イモノデハナイゾ?相手ノ本音ガワカルカラナ」
本音か…。別に知らなくていいな。はっきり言ってどうでもいい。本音がわかったところで何か利点があるわけでもない。
「オット、話シスギタナ。コレカラハ拳デ語ロウデハナイカ」
ホブゴブリンは戦いへと意識を戻す。俺も少し緩んでいた警戒を引き締める。
「サテ…久シブリニ本気ヲ出ストシヨウ」
その言葉とともにホブゴブリンの全身と槍に魔力が纏わせられる。そして最初と同じ構えをとり、槍の切っ先を俺に向けた。
「構エロ。一瞬デモ気ヲ抜クナ。━━━死ニタクナケレバナ」
ホブゴブリンから今までにない圧迫感を感じる。地竜の圧迫感とは違う。研ぎ澄まされた刃物を突きつけられたような威圧感。これが…ホブゴブリンの本気。
「サア、イクゾ!風牙流槍術“凩”!」
それは明らかに今までよりも速い突きだった。俺は無理矢理体を逸らして避けるも遅く、肩口を切り裂かれた。なんとか距離をとり、体勢を整える。
風牙流槍術…!?今のはスキルの類いではなかった。ステータスには写らない技術。なぜホブゴブリンがあんな技術を…?
「ドウダ?ワレノ記憶ニアッタ技ヲ再現シタノダ。チョットヤソットデハ負ケンゾ」
ホブゴブリンは心底楽しそうに言う。アイツの記憶にはそんなのまであるのかよ…。アイツの技術や膂力と相まってかなり厄介な技になっている。
それになぜか身体能力まで上がっている。【身体強化】は既に使っていたはずだが…どうやって?それらしいスキルはなかったが…
「マダマダイクゾ!風牙流槍術“旋風”!」
そう考えているとホブゴブリンがさらに攻撃を仕掛ける。槍を高速回転させた突き。速度はさっきの“凩”程ではないが威力が段違いだ。受けた大剣ごと弾き飛ばされそうになった。
もう一度距離をとろうとするが、ホブゴブリンはすぐさま距離を詰め、俺の腹に蹴りを入れる。俺は吹き飛んだがなんとか舞台からの落下は免れた。
慌てて体勢を立て直すがホブゴブリンが追撃をする様子はない。俺に勝つ絶好の機会を見送ったのだ。舐めてんのか、アイツは…!俺にはいつでも勝てるってのか?
確かにホブゴブリンの槍術は手がつけられない。だが、アイツの身体能力上昇の仕組みはわかった。
アイツは【身体強化】の上からさらに魔力を纏わせていた。それが【身体強化】と同じように身体能力を上げていたのだ。
言うは易いが簡単に出来ることではない。言ってみれば手動で【身体強化】を掛け続けているようなものだ。再発動には時間が掛かる上に少しでも気を抜けば強化が解ける。相当な鍛錬が必要だろう。
まだホブゴブリンが攻撃してくる様子は無い。腹が立つがそれなら都合が良い。俺は魔力を大量に体の外に出し、全身を覆うように操作する。すると大剣が軽くなったように感じる。
試しに大剣を振ってみると今までよりも明らかに速く、あたりに風が巻き起こる。成功した…のか?スキルが獲得出来ないから確かめるすべが無い。おまけにこれを維持出来るかはわからない。
「厶?コノ魔力ハ…『魔力強化』カ?今マデハ使ッテイナイヨウダッタガ…隠シテイタノカ?」
その様子を見てホブゴブリンが声を掛ける。俺がいきなり魔力を纏わせた…『魔力強化』って言ったか。それをしたのを見て僅かながら困惑しているらしい。
「これ『魔力強化』って言うのか。お前がしてるのを見て今身につけた。これで条件は五分だな」
「ハ?今身ニツケタ?」
「あぁ、そう言ったが?」
ホブゴブリンは目を丸くしている。どうやら『魔力強化』は簡単には習得できないようだ。この隙に攻撃しようかと思ったが、アイツも攻撃していなかったからさすがにやめた。
「フフフ、貴殿ハ凄マジイ男ダナ。マスマス楽シクナリソウダ」
その言葉で俺たちは戦闘を再開した。俺はホブゴブリンの動きについていけるようになり、大剣と槍の打ち合いが激化する。
俺が大剣で薙ぐと、ホブゴブリンは躱し槍で手元を狙ってくる。俺に技術が無いのは見抜かれているようで、簡単に躱されてしまう。対して俺はホブゴブリンの攻撃を完全に見切っているわけではない。
さらに『魔力強化』を維持するのに精一杯で魔法を使うことができない。集中力をこれ以上割くことはできない。
そのため、ジワジワと追い詰められている。気付けば俺は舞台の端に追い込まれていた。ホブゴブリンは一切手を緩めず、確実に俺を倒すつもりだ。
俺はこうなった理由がわかっていた。それは武器だ。大剣はその性質上非常に重い。俺のは総鉄製だからさらに重い。だから、槍の速度に大剣が追いつかない。
だが、他の武器を出そうにもホブゴブリンがそんな隙を見逃すはずも無い。つまり、俺が取れる手段は一つ。【創造魔法】を使用することだけ。
俺は迷わず【創造魔法】を発動させる。魔力が眩い光を帯び、収束する。ホブゴブリンは何かの攻撃かと思い、距離をとる。
━━━だろうな。ホブゴブリンは戦闘狂ではあるが、慎重派だ。相手が未知の行動をすれば一旦離れると思っていた。
さあ、ホブゴブリン。お前のお望みの楽しい戦いを提供してやるよ。そう思い、俺は魔力を込め続けた。




