第十七話 目覚め
時は地竜討伐直後、『魔の森』奥地の小屋に一組の男女がいた。ベルフェルはベラから伝えられた報告に目を丸くしていた。
「…はぁ?もう一度言ってくれる?」
ベルフェルは思わずもう一度問う。ベラは不満などは一切出さず、再度報告を行う。
「先程申し上げた通りです。ソースケ・ナグモは地竜討伐に参加し、一度は瀕死に追い込まれたものの、その後地竜を圧倒し、実質ほぼ単独での討伐を達成しました」
ベルフェルはわけがわからないというように天を仰ぐ。
「今の状態ならば処分は可能ですが、いかがいたしましょうか?」
「いや、なるべく不確定要素は避けたい。そのままソースケの監視を継続してくれ」
「承りました」
その言葉を残してベラはソースケの監視に向かう。ベルフェルは誰もいない小屋の中で一人呟く。
「しかし、地竜を調伏するのは結構手間だったんだけどなぁ…」
今のベルフェルの言葉通り、地竜襲撃はベルフェルが仕組んだものである。ベルフェルが地竜に使ったのは『呪印』。この印をつけられた者は術者に服従するというものだ。
目的はソースケの確保。全冒険者が瀕死になった段階でソースケだけを回収し、『呪印』で調伏させるつもりだった。地竜には殺さないように指示していたが、万が一死んだとしても他の『七罪魔将』に渡るよりはマシだと考えていた。
「アレを倒したのはいいとして…一度瀕死になった?スキルの制約か…?だけど、スキルでステータスを上げたにしては上昇率が大き過ぎる。それに傷は完治しないだろう。考えられるのは…やっぱり神か」
ベルフェルは戦闘の様子からソースケに起きた異変を推測する。ベルフェルはベラに仕掛けている呪術で、視覚を共有し戦闘の一部始終を見ていた。
ベラが他の『七罪魔将』の指示で虚偽を報告したときのための保険だったが、思わぬところで役に立った。
「なぜ、神が転生後の人間を助ける?今までこんなことは無かった。ソースケは神にとって重要な役割があるのか…?そうだとしてもいったい何が…」
ベルフェルは推測を続けるも、やはり神という存在に行き着き、堂々巡りを繰り返す。神に対しての情報が無く、これ以上の考察ができない。そうわかった瞬間、思考を放棄する。
「まぁいいや。どうせ、ソースケの異変が無くても失敗してただろうし。まさか、あのミュール・コラプスがいるとは予想外だったな…。引退したあとはどっかのギルドマスターになったとは聞いていたが…」
ベルフェルはさらに考察を続け、思考の渦に嵌まっていった。
◇ ◇ ◇
窓から差し込む眩い日差しで俺は目を覚ました。目の前に広がるのは見覚えの無い天井。どうやら、倒れた後にこの部屋に誰かが運んでくれたようだ。
白く清潔な部屋、ツンとする消毒液のような匂い、俺が寝かせられている綺麗なベッド。病院や保健室のような印象を抱く部屋だ。怪我が治療されているのを見るにギルドの治療室かなにかだろうか。
まだ痛む体に鞭をうち、無理矢理起き上がる。すると、俺が寝ていたベッドに腕を突っ伏して寝ているレイナが見えた。ずっと俺を看ていたのか?どれだけ寝ていたかわからないが、大変だったろうに…。
そう考えていると、俺が起き上がったときの振動で目を覚ましたのか、レイナが目を擦りながら起きる。起き上がっている俺を見て、目を見開く。
「ソ、ソースケさん?」
「それ以外、なにに見える」
もう平気だという意味も込めて軽口を返す。すると、レイナは俺に飛びついてきた。な、なんだ?
「良かった…いつものソースケさんだ…」
レイナは嗚咽を漏らしながら呟いた。…あの時のことだろうか。地竜と戦った時はまるで俺が俺じゃないみたいだった。なぜかはわからないが、頭がブッ飛んだみたいにハイになっていた。レイナは不安だったのかもな…。
「俺はもう大丈夫だ。安心しろ」
俺はレイナを安心させようと、背中を撫でながらレイナに言う。
「ううっ…うぅ…」
レイナは少し落ち着いたようだが、未だに泣きながら俺に抱きついている。実はまだ、傷が少々痛いんだが…ここでそれを言うのは違うだろう。決してレイナが抱きついているのが嬉しいからではない。ないったらない。
少しの間、そのままでいるとウォルフが扉を乱暴に開けながら入ってくる。
「ソースケ!…って、ん?…あぁ、すまん。邪魔したな」
「ち、違います!誤解ですからね!?」
「安心せぇ、オレはちゃんとわかっとるわ」
「だから、誤解ですって!」
何を思ったのか神妙な顔をして部屋を出ようとしたウォルフをレイナが引き止める。おのれ、ウォルフ。その後、真っ赤になったレイナが事情を話し、ウォルフはそれをニヤニヤしながら聞くという状況を俺は黙って見ていた。
「わかった、そういうことにしといたる。それより、ソースケ!もう起き上がっていいんか?」
「あぁ、もう大丈夫だ」
「良かった良かった。お前、一週間も寝とったんやで?レイナはレイナで寝とるお前を毎日徹夜で看とったし、そっちも心配されよって…」
「ウォルフさん、それは言わないって言ったじゃないですか!?」
「ん?そうやったか?最近物忘れが激しくてなぁ…」
そして、レイナとウォルフの口喧嘩が再開した。といってもレイナがウォルフにひたすら弁明し、ウォルフはそれを聞き流しているだけだが。一週間も寝ていたか。それをレイナは毎日徹夜で看ていたと…。本当に心配をかけたな。今度何か礼をしないとな。
「あっ、そうや。ギルドマスターがソースケが起きて動けるようになったら連れて来いて言うとったで。いつ行く?」
ウォルフは未だに騒ぎ立てるレイナをよそに思い出したように俺に伝える。そういえば戦う前になんか言われてたな。あとは【万物創造】についても聞かれるかもしれない。大勢の前で使ったからな。
「そうだな…早いほうがいいと思うし、今から行くか」
「大丈夫なんか?」
「あぁ、多少痛むが歩く分には問題無い」
これは事実だ。レイナが抱きついた時にまた痛みだしたが、歩くのに支障は無い。
「わかった。パーティ全員来いて言われとるからオレらも行くで」
「あぁ、来てくれると助かる。もしかしたら何か起こるかもしれないからな」
そうして俺たちはギルドマスターであるミュールのもとへ向かった。俺は何かまずいことを聞かれたら記憶喪失で押し通すことを心に決めた。




