第十二話 新たな仲間
「はい、ゴブリン十体の耳、確認しました。貴方がたは合格となります。全員戻ったら合格者に冒険者合格講座と冒険者カードの進呈を行いますので、もうしばらくお待ちください」
俺たちは試験監督のミュールにゴブリンの耳を渡し、合格を言い渡された。どうやら無事合格できたようだ。これでレイナのヒモから卒業できるな。
「あのっ、すいません。他にもゴブリンを倒したんですが、依頼の達成の報告って今できますか?」
「あー、そこの依頼達成窓口は冒険者カードが必要なので後で報告してください」
「わかりました」
レイナはミュールに依頼について聞いていた。あぁ、そんなのもあったな。まぁ、今はできないみたいだし、後ででいいな。
どうやら俺たちは一番早かったようで、まだ他の組は帰って来ていない。この後も色々な説明があるらしいし、とりあえず待つとしよう。
◇ ◇ ◇
「あぁん!?なんで俺たちが不合格なんだよ!」
しばらくぼんやり待っていると冒険者ギルドに怒号が響いた。なにやら揉め事のようだ。
良く見ると片方はミュールでもう片方はいかにもチンピラという見た目をした三人の男たちだった。確か受験者の一組だったはずだ。
おそらく不合格になったが、納得ができずミュールに噛み付いているといったところだろう。困ったような顔でミュールは説明する。
「いや、さっきも説明した通り、形が汚すぎるんです。これじゃあ本当にゴブリンかどうかわからないでしょう?」
「だから、正真正銘ゴブリンの耳だって言ってんだろ!?」
「だから、それが本当かわからないって言ってるでしょう。これだから、低能は…」
「なんだと?」
ミュールが思わず溢した『低能』という言葉に三人のリーダー格の男が反応した。男が背負っていた大剣に手をかけるがミュールがそれを制する。
「それを抜いたらもう洒落じゃ済みませんよ。私もそれ相応の対応をしますが━━━いいんですね?」
ミュールは笑みを消し気迫のこもった声で言い放つ。チンピラは一瞬それに怯むもミュールへ向けて大剣を振りかぶる。
「うるせえぇぇぇ!お飾りのギルマスがぁぁぁ!」
チンピラはミュールに大剣を振り下ろすが━━━次の瞬間、地面にめり込んでいた。
ミュールがチンピラにしたのは背負い投げだ。大剣を振り下ろした直後にチンピラの懐に入り込み、手首を掴んで投げ飛ばす。
言うは易いがあのタイミングで投げ飛ばせる技量も度胸もなかなかあるものじゃ無い。ミュールは俺の想像以上の実力者のようだ。
「不合格にされたからと言って逆上して武器を抜くような人物は冒険者に相応しくない。お引き取り願いましょうか」
ミュールはいつもの笑顔で言う。チンピラは仲間に連れられて冒険者ギルドを出ていった。
◇ ◇ ◇
あれから日没まで待ったがもう一組は帰ってこず、合格者は俺たち三人だけとなった。
その後、俺たちは別室冒険者合格講座を受けた。約三十分ほどの講座で冒険者としての基礎知識などを教わった。あとウォルフは寝ていた。内容は大きく分けて三つ。
一つ目は冒険者のルールについて。これは主に罰則やマナーについてが大半で大まかに言うと『依頼を受け続ければ大丈夫』という内容だったので覚えることはあまり無かった。
二つ目はランクについて。冒険者にはランクがあり、下からG、F、E、D、C、B、A、Sという順で俺たちは新人だからGランクである。依頼を達成したり、試験を受けたりすると昇級できるらしい。
魔物にもランクがあり、こちらは下からG、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSとなるそうだ。一応SSSランクが最高ではあるが、SSSランクの魔物は『天災級』だとか『神話級』だとか言われ、『触れてはならない存在』となっている。
また、ランクによって受けられる依頼も変わり、本人のランクから上下ワンランクまでしか受けられないそうだ。俺たちで言えばGランクだからGランクとFランクしか受けられない。
三つ目は冒険者カードについて。冒険者カードには本人の名前、ランク、職業が記載されており、すべての国と地域で身分証として使用可能らしい。なお、記載情報は受付で簡単に変更可能だそうだ。
「えー、これで説明は以上になります。続いて冒険者カードの記載情報を書き込んでもらいます。こちらへ」
俺はウォルフを叩き起こし、今からすることの説明をする。記載情報は『測定の水晶』を使うのではなく、自己申告制のようだ。
レイナはスラスラと書き込み、ウォルフも寝ぼけ眼をこすりながら書き込んでいる。しかし、俺の場合は問題がある。職業である。異世界転生者とは書けないしな…。どうしたものか…。
色々考えた結果、空欄で出すことにした。冒険者ギルドの職員から質問されたが、記憶喪失でゴリ押した。ベルフェルのことはぼかして今までのことも話すとなんとか信じてくれた。
ギルド職員がカードを作っている間、俺たちは雑談しながら待つことにした。
「ウォルフ、カードにも書いてなかったが、お前は名字は無いのか?」
「あぁ、オレは名字は持っとらん。人間はだいたいのやつが持っとるらしいけど、獣人は持っとらんやつも珍しないで。エルフやドワーフもそうやって聞いたことあるわ」
「そうですね、逆に魔族と呼ばれる種族はすべて持っていません。なんでも個人主義が強く、家柄にこだわらない者が多いそうです」
「そういうレイナもやろ?」
「え、えぇ、私は貧しい家の生まれなので…」
…やはりレイナはなにか事情があるのだろうか。一度聞いてみようかと思ったそのとき、
「お待たせしました。冒険者カードが完成しましたのでお受け取りください」
ギルド職員が完成したカードを持ってやってきた。俺たちはそれぞれの冒険者カードを受け取る。
妙に光沢のある金属製のプレートだった。しっかりと名前などが明記されており、なぜか魔力が込められている。聞いてみたところ、壊れないように魔法で保護しているらしい。
冒険者カードを眺めていると試験監督だったミュールが現れた。
「皆さんが今回の合格者ですね?」
いつも通りの笑みを浮かべ優しく声をかけてきた。チンピラを投げ飛ばしたときとは別人のようだ。
「合格おめでとうございます。私からは一つだけアドバイスを」
「なんだ?」
「強くなる秘訣は目標を持つことです。『あの人のようになりたい』、『あの魔物を倒したい』、なんでも結構です。大事なのは目標を持つこと。これは師匠からの受け売りですが━━━目の前に目標があるかぎり人は前を向くことができます」
…目標か。俺は何だろうな…。なんでもいいと言われると困るな。これからじっくり考えるとしよう。ひとまずの俺の目標は『目標を見つけること』だな。
その後、俺たちは余ったゴブリンの耳を提出し、ゴブリン討伐依頼を達成した。報酬はゴブリン一体あたり銅貨三枚で全部で二百八十二枚となった。これがだいたいいくらかはわからない。
俺とレイナが宿屋に戻ろうとするとウォルフに引き止められた。
「どうしたんだ?」
「いやぁ、こういうの口に出すのめっちゃハズいんやけど…これからもオレとパーティ組んでくれへんか?」
ウォルフの言葉に俺は首を傾げる。
「俺はそのつもりだったが…お前は違ったのか?」
「私もそう思っていたんですが…」
「え?」
考えていなかったのはウォルフだけだったようだ。ウォルフはようやく理解が追いついたのか飛び跳ねて喜んでいる。大袈裟なやつだな。
「そんじゃあ、これからもよろしゅう!」
「あぁ、よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
こうして俺、レイナ、ウォルフの三人は冒険者としてスタートを切った。俺たちの冒険はこれからだ!
※まだ終わりません。




