第十話 絶望の叫び
俺たちは試験監督のミュール引率のもとエルガーの南門へと向かっている。俺とレイナが入ってきた入口だ。そこから行くのが『魔の森』に一番近いらしい。
俺はウォルフにずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。
「ウォルフ、なんでお前の口調は…そんな独特なんだ?」
関西弁とは言えないので、少々言葉に詰まってしまった。すると、ウォルフは、
「これは『獣人訛り』っちゅうんや。オレが住んどった『獣人国家アニマ』ではみんなこんな喋り方しとるで」
と、返答した。なるほど、国独特の話し方か。日本の方言とあまり変わらないな。
そんなことを話しているしているうちに南門に到着した。ミュールが衛兵に話しかけている。どうやら門を出る手続きをしているようだ。
少しの間待っているとミュールがこちらを向き、話し始めた。
「私が付き添うのはここまでです。私はギルドに戻っていますので、終了次第帰って来てください。その場で合否をお伝えします。それでは、健闘を祈ります」
こうして試験受験者九名は三組に分かれ、『魔の森』へと足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇
俺、レイナ、ウォルフの三人は重大な問題に直面していた。ゴブリンが見つからないのだ。
「なんでいないんだ?この森にはゴブリンは嫌って言うほどいたはずだが…」
思わず俺が呟くとレイナとウォルフがそれぞれ反応する。
「んー、他のやつらが狩り尽くしたんか?」
「それは無いと思います。一説には『魔の森』のゴブリンの数は一億体とも言われ、事実狩っても狩っても減らないゴブリンにエルガーは頭を悩ませていましたから…」
それならここら付近のゴブリンを狩り尽くすのも一苦労のはずだ。狩り尽くされたというのはなさそうだな。
「とりあえず、一匹でも見つければ変わるんやけどなぁ…」
俺は【魔力感知】の範囲を最大まで広げ、意識を集中させる。すると、明らかに人間ではない魔力反応を見つけた。
「こっちに魔物の反応があった」
「よっしゃ、行こうや!」
「静かにしないと逃げられますよー」
俺たちはレイナの言う通り静かに反応があった方へ近づく。すると、そこにいたのは一体のゴブリンだった。
「じゃあ、オレがぶった斬ってくるわ」
「待て、脳筋剣士」
早速飛び出そうとしたウォルフを肩を掴んで引き留める。
「なんでや。あと、誰が脳筋剣士や」
「相手はこっちに気付いていない上にこっちは確実に仕留めなければならないんだ。ここは遠距離攻撃をするべきだ」
「オレやったら気づかれる前に斬れるわ。お前は引っ込んどれ」
「万が一があるだろうが。ここは慎重にいかないと…」
俺とウォルフがそんな言い争いをしていると、
「あのー、倒しましたよ?」
「「え?」」
レイナが先にゴブリンを倒していた。俺たちが言い争っている間に魔法を撃ち込んだみたいだ。その後俺たちはレイナに怒られ、言い争っていたことを反省した。
「まぁ、そこはいいとしてや。そのゴブリンの死体くれんか?」
「別にいいが…何をする気だ?」
「とりあえず見とけや」
そう言うとウォルフはゴブリンの死体の匂いを嗅ぎ、地面に伏せ、あたりの匂いを嗅ぎ始めた。
「何をしているんだ?」
「オレはオオカミの獣人と人間のハーフでな、人間よりも鼻がきくんや。今は他のゴブリンの匂いを探しとる」
ステータスに半獣人と書いてあったが、半獣人は人間の姿だが、獣人の特徴が現れるらしい。しばらくするとウォルフは顔を上げた。
「お前らに聞きたいんやけど、『危険やけど確実なほう』と『安全やけど確実じゃないほう』どっちがええ?」
「選択肢の内容を聞いてもいいですか?」
ウォルフの問いにレイナが聞き返す。レイナ、多分これ選択肢聞いたらいけないやつだぞ。俺はそう思ったが口に出すのはやめておいた。
「まぁ、説明するとやな…一つはまばらにゴブリンの匂いがある。負けることは無いけどクリアできるかはわからん。んで、もう一つはゴブリンの集落がある。だいたい数は五十から百ってとこやな。クリアはできるが、危険も大きい。どっちがええ?」
「そんなの決まっている。ゴブリンの集落に向かうぞ」
俺の宣言を聞くと、レイナとウォルフは揃って目を丸くして驚いた。
「なんか変なやつやとは思っとったが、ここまでくるとただのアホやで。組むやつ間違ったかいな…」
「ソースケさんは確かに強いですけど、流石に無謀です。『ここは慎重にいこう』って言ったのはソースケさんじゃないですか」
「なぜだ?ゴブリンくらいなら何体いても問題無いだろう」
レイナは絶句し、ウォルフははぁ、と深い溜め息をつく。二人とも行く気はなさそうだし、連れて行くしかないか。
俺はレイナを小脇に抱え、ウォルフの首根っこを引っ捕まえる。
「な、なんのつもりですか、ソースケさん?ま、まさか無理矢理連れて行く気ですか!?」
「離せやコラァ!って、無駄に力つよっ!?」
俺はなんだかんだと抗議する二人を無視し、【魔力感知】で見つけたゴブリンの集落へと向かった。
「だ、誰かー!助けてくださーい!!」
「人に脳筋剣士とか言っとって、お前が一番脳筋やないかー!!」
レイナとウォルフの悲痛な叫びは誰の耳にも届かず、『魔の森』に消えた。




