第38話「応じる」
三回目の夜、私は自分で選んだスカートと、同じ店で合わせたトップスを着て家を出た。
白嶺様はソファから片手だけ上げて「行ってこい」と言い、彩華様は眠っていた。胸元は開いていない。丈は自分の意思のままだ。駅前で陽太さんが、少し遅れて手を挙げた。視線が一度、スカートの裾で止まって、すぐに顔に戻る。
「ムンムンさん。その服、すごく似合ってます」
『自分で、選びました。初めての、丈です』
「初、ですか。……大事な日みたいで、嬉しいです」
店に入る。会話は、まだぶつ切りだ。なのに一回目より続く。つながり月間の椅子、二十六度、お土産の話、陽太さんの休日の話。私が聞き返し、陽太さんが笑い、また少し黙る。もどかしさは残っている。残ったまま、楽しいが濃い。会いたいです、と送った意味が、席の温度になっている。
会計のあと、外に出た。
『少し、歩きませんか』
「はい」
二回目の夜と同じ言葉なのに、足取りが違う。自分の丈で歩く。陽太さんが合わせる。沈黙のあと、私から先に口を開いた。
『私は、想い、のようなものを、抱えていると思います。恋、と呼ぶらしい、と教えてもらいました。なのに、まだ戸惑っています。名前と、中身が、追いつきません』
陽太さんは立ち止まり、私の方を向いた。
「無理に追いつかなくていいです。僕は、ムンムンさんが会いたいと言ってくれたことと、こうして歩いてくれることが、すでに十分です。僕も、好きです。恋、でいいと思っています」
風が冷たい。返事の言葉を探しているあいだに、陽太さんの顔が近づいた。拒否する理由が、見つからなかった。応じる、という感覚だけが先に来た。唇が触れる。短い。強くない。なのに、胸の奥まで届く。剣も、表も、影の一覧も、この一瞬には関係ない。
離れたあと、陽太さんの耳が赤い。私の顔も熱い。
『……拒みません、でした』
「僕も、無理はさせてない、ですか」
『はい。大丈夫、です』
それ以上の契約の言葉はない。付き合う、とは言わなかった。言う必要が、今の二人には薄い。会いたいと送り、歩き、想いを置き、キスに応じた。それで一覧は、もう十分に埋まっている。
分かれ際、陽太さんは深めに頭を下げた。
「また、会いたいです」
『はい。私も、です』
家に帰ると、白嶺様は茶を溢しそうな角度で眠っていた。だらしなさの極みだ。私はカップを直し、鍵を確認してから、短く起こした。
『キスを、されました。私も、拒みませんでした。服は、自分で選んだものです』
白嶺様は目を細めた。
「そうか。それでいい。続きは、お前の速さでやれ」
『はい。恋、の中身が、少し、近づきました』
「近づけ。完成させるな。続けろ」
彩華の寝息を確認し、スマホの画面で陽太さんの名前を一度見る。送信はしない。今夜は、応じた熱が残っているだけで足りる。
自分の丈で歩き、自分の口で会いたいと言い、拒まずに受けた。
影として生まれたあとの人生が、今夜また一枚、昼の側にめくれた。




