第37話「自分の」
週末の食事の前に、美咲さんと玲奈さんに連れられて店へ来た。
白嶺様ではない。彩華のことは白嶺様が見る。私は『服を、一枚、自分で決めたい』とだけ家で言って、許可をもらった。白嶺様はソファに沈んだまま「行け。私の目は一度休ませる」と答えた。
店内で玲奈さんが次々に服を掛け、美咲さんが「これはムンムンさんに合いそうです」と絞る。私はラックの前で止まった。下の方に、スカートが並んでいる。今まで履いたことがない。装束でもスーツでも、借り物のズボンでもない。なぜか手が伸びた。理由は説明できない。会いたいです、と送った相手に会う夜に、これを履きたい気がした。
『これ、を、試します』
「おお、スカート。意外。いいじゃん」
玲奈さんが目を丸くし、美咲さんが「似合うと思います」と微笑む。試着室の鏡の中で、膝から下が今までと違う。動ける。逃げられる。なのに、柔らしく見える。自分が選んだ線だ。白嶺様の「ムンムンの文でいい」に近い、ムンムンの丈だ。
「……うん、かわいい。かわいい」
玲奈さんの評価に、顔が熱くなる。美咲さんが「自分で決めたのが、いちばんいいです」と言った。会計は自分の食い扶持から出す。通帳の数字が、また自分の形になる。
店を出ると、玲奈さんが「陽太、見るの楽しみ」と笑い、私は『やめてください。まだ、熱いです』と返した。袋の中のスカートが、歩くたびに軽く当たる。今まで自由に生きてこなかった自分が、丈を自分で決めた。恋と呼ぶらしい気持ちの隣に、布の選択が並んだ。
家に帰り、白嶺様に袋を見せる。だらしなさのまま、白嶺様は目だけ開けた。
「スカートか。お前が選んだな」
『はい。自分の、意思で。履いたことは、ありませんでした。なのに、欲しくなりました』
「いい。着て行け。説明は不要だ」
『はい』
彩華が袋に触れ、私は高く上げた。鍵を確認しながら、週末の夜を思った。会いたいです、と送った続きを、自分の丈で歩く。
影の一覧にはなかったスカートが、今夜の棚のいちばん上にある。




