第31話「再来週まで」
再来週の土曜日が、陽太さんとの二回目の食事だと決まってから、私のカレンダーだけが少し忙しく見えた。
社内は、普通だ。備品の表も、二十六度も、窓の鍵も変わらない。陽太さんとは、廊下で会うたびに短い挨拶をする。
「ムンムンさん、再来週、よろしくお願いします」
『はい。こちらこそ、です』
それ以上は、社内では話さない。耳が赤くなるのは、お互い様だ。玲奈さんには、自分から短く言った。聞かれたからではない。隠す理由も、うまく作れなかった。
『再来週、鈴木さんと、食事に行きます』
「……ストレート。気に入った。楽しんでおいで」
『はい』
美咲さんには、給湯室で同じことを伝えた。
「無理は、しないでくださいね」
『前回、楽しかったです。また、お受けしました』
「なら、いいです。困ったら連絡ください」
同居のことは、出さない。田村係長には、食事の話はしていない。係長はタクシーの再提出を見ながら、いつもの顔で言った。
「ムンムン、理由欄、ちゃんと埋まったぞ。数字は敵じゃない、が通ったな」
『必要な、欄が、埋まっただけです』
「その言い方、好きだ。窓も閉めてある」
『はい』
私はキーボードに戻る。再来週、私服は前と同じではない。白嶺様と店へ行ったとき、もう一式取っている。肩の合う、別の服だ。下着の淡いブルーのことは、思い出すと顔が熱くなるので、表には書かない。
退勤前、白嶺様とすれ違った。
『加藤さん。再来週、鈴木さんと、食事です。』
「それでいい。殺気は出すな」
『食事に、殺気は不要です』
「そうだ。事実でいい」
白嶺様は主任の顔のまま去り、私は総務の席で連絡先一覧を見た。名前は増えた。再来週の二人は、まだ来ない。
夜、家では白嶺様がソファに沈み、彩華様が私の膝で眠る。だらしなさの横で、私は短く言った。
『社内は、普通です。再来週まで普通でいます。服は、もう一式、あります』
「知ってる。私が選んだ。焦るな」
『はい』
鍵を確認し、スマホのカレンダーを一度だけ開く。
二回目の食事は、まだ先にある。
今夜は、その前の社内を、ちゃんと座って終えた一日だった。




