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第23話「サイズ」

デートの前日、白嶺様が私を店へ連れていった。

彩華様を預けられる枠を取った、昼の時間だ。白嶺様は私服で、私はサイズの合わない借り物のまま、商業施設の衣料店に入った。光が多い。鏡が多い。カイシャの備品棚より、選択肢が多すぎる。明日の夜には、陽太さんとの食事がある。その前に、肩の合う服が必要だ。

「まず上と下。動けるもの。派手はいらん」

『はい』

白嶺様がラックから何度か抜き、私は試着室に入る。肩が合う。裾が、床を擦らない。首元が緩い感じがする。鏡の中の自分が、スーツでも装束でもない。街の人間の、形をしている。白嶺様は入口の外で「出ろ」と言い、見たあと短く頷いた。

「それでいい。もう一式あると楽だ。それも取れ」

『食い扶持で、払います』

「当然だ」

会計の数字を、通帳の残高と心の中で照らし合わせる。足りる。自分の労働の対価で、自分の肩に合う布を買う。手順は単純なのに、手が少し熱い。明日、この服で外に出る。


次に、下着の階へ上がった。

私は足を止めた。白嶺様は止まらない。

「サイズを測れ。適当はだめだ」

店員に案内され、数字を出してもらう。棚の色と形が、また多い。私の手が、淡いブルーのレースの前で止まった。派手すぎない。なのに、スーツの下に着るものとも、装束の下とも違う。白嶺様は私の視線の先を見て、低く言った。

「鈴木に見せることになるかもしれん。しっかり選べ」

顔が、一気に熱くなった。耳まで暑い。白嶺様はクールな顔のまま、事実のように言っただけだ。美咲さんの前でも、社内でも、こうは言わない温度だ。家の、見守る側の、容赦ない一言である。

『……見せる、前提では、ありません』

「前提にしなくていい。それでも、いいものを選べ。自分の身体だ」

私は、真っ赤な顔のまま、その淡いブルーのレースを手に取った。白嶺様はそれ以上からかわず、会計だけを見届けた。袋が増える。私服と、下着と、自分のサイズ。

店を出ると、外の空気が冷たかった。顔の熱が、やっと下がる。

『白嶺様。鈴木に見せる、という話は』

「可能性の話だ。恥ずかしがるな。準備は、先にしておけ」

『……はい』

白嶺様の口元が、わずかに緩んでいた。面白がっている。私は袋を握り直し、歩いた。デートは、明日だ。今日は、サイズを揃えただけだ。なのに、胸の浅いところが、もう食事の席の前で鳴っている。

家に帰り、彩華様に新しい服を見られ、袖を引っ張られた。白嶺様はソファに沈み、「鏡、見ろ」とだけ言った。私は一回だけ、姿見の前に立った。ムンムンではない。月村無月でもない。ただ、肩の合う服を着た、私が出ていた。淡いブルーの下着の袋は、すぐに引き出しにしまった。

鍵を確認しながら、明日の駅前を思った。

鈴木さんとの食事は、このサイズで、迎える。

自分の人生の歩み方の、また一つ手前の棚が、今夜そろった。

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