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第18話「登録」

翌日の昼休み、私は給湯室でスマホを眺めていた。

画面を指で滑らせる。アイコンが動く。電話、メール、地図。白嶺様が「使い方は徐々に」と言った。今、登録されている番号は一つだけだ。白嶺様の。それ以外の欄は、空になっている。不思議、というより、備品の棚に一つだけ物が置いてある感じに近かった。

「ムンムンさん、その機種、新しいですね。自分の契約、したんですね」

美咲さんだった。私のスマホ事情を、ある程度知っている人だ。持っていなかったことも、知っている。

『はい。昨日、契約しました。給料で、払います』

「よかった。これで連絡、取れますね。……よかったら、私の番号も」

連絡先の交換、という手順を教えてもらう。画面を合わせ、名前を入れる。佐藤美咲、と表示された。白嶺様の次に、二つ目の登録だ。

『美咲さん。登録、しました』

「はい。困ったとき、業務じゃなくても、連絡していいですよ」

『はい。ありがとう、ございます』

美咲さんは満足そうに頷き、茶を注いでいた。そのとき、入口から陽太さんが顔を出した。

「あ、ムンムンさん。美咲さんも。……今、いいですか。そういえば、ムンムンさんの連絡先、まだ知らなくて。交換してもいいですか」

『……交換』

美咲さんが、少しだけ目を細めて笑った。私は手順を思い出し、画面を出す。陽太さんも慌てて出し、登録が終わる。鈴木陽太、と三つ目の名前が増えた。

「ありがとう! 業務の連絡も、これでスムーズに。変な時間には送らないようにします」

『業務の連絡、なら、問題ありません』

「は、はい。業務、中心で」

陽太さんは耳まで赤くして、頭を下げて去った。美咲さんが、小さな声で言った。

「登録、増えましたね」

『三つです。白嶺——加藤さんのと、美咲さんのと、鈴木さんの』

「加藤さんの番号が、最初なんですね」

『はい。一つしか、ありませんでした』

美咲さんは「そっか」とだけ言って、先に給湯室を出た。私は画面の連絡先一覧を、もう一度見た。空だった棚に、二つ増えた。白嶺様に全部渡そうとして拒否された数字で契約した板に、名前が並ぶ。

退勤前、廊下で白嶺様に短くだけ報告した。

『スマホに、美咲さんと鈴木さんの番号を、登録しました』

「そうか。通知は、音を落とせ。会議中に鳴らすな」

『はい』

白嶺様は深く聞かない。同居も、口座も、社内の人には見せない距離のまま、主任の顔で去っていく。私は総務の席で、サイレントの設定を探した。

夜、家で鍵を確認しながら、画面を点ける。

白嶺様。美咲さん。陽太さん。

三つ。

まだ少ない。それでも、昨日よりは多い。

自分の食い扶持で払った板に、自分で名前を増やした一日だった。

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