第14話「連携」
つながり月間の準備で、総務と営業企画の共有ミーティングが入った。
会議室に、田村係長、私、白嶺様、美咲さん、あとは企画の数名。白嶺様は主任として資料を短くまとめ、美咲さんに補足を促す。
「佐藤さん。ブース案の進捗を」
「はい。各部署の紹介は一枚ずつ、午後の交流タイムは任意参加で、と草案を出しています」
私は備品と導線の数字を画面で共有した。不足、過剰、配置。感情は入れない。白嶺様が一度だけこちらを見て、短く頷く。業務の頷きだ。昨日のランチの「希望だ」とは、別の顔である。
『資材は、三日以内に揃います。通路幅は、この数値を下回らないようにします』
「了解。ムンムンの表は見やすい。助かる」
田村係長がそう言い、白嶺様は「佐藤さん、営業側の人員配置も合わせて」とだけ足した。白嶺様は、美咲さんのことを、いつも佐藤さんと呼ぶ。私は美咲さんと呼び、白嶺様は佐藤さんと呼ぶ。その違いが、それぞれの距離なのだと理解している。
午後、資材の搬入を手伝いに、陽太さんが来た。
「ムンムンさん、手が空いたので。箱、運んでいいですか」
『はい。そこに、番号順で』
陽太さんは真面目に並べる。私は数を確認し、表にチェックを入れる。会話は業務が中心だ。それでも、陽太さんの声は、ただの連絡より少し長い。
「昨日のランチ、加藤主任と佐藤さんと、でしたよね。楽しそうで」
『奢ってもらいました。美咲さんとも、必要な会話がありました』
「必要な……あ、はい。僕も、ムンムンさんの役に立てるといいなって」
『今、役に立っています。箱が、正しい位置にあります』
陽太さんは顔を赤くして笑い、次の箱へ向かった。幸せの種類、という言葉が、また頭の端をかすめる。これも種類なのか。まだ、判別できない。
廊下で、玲奈さんとすれ違った。営業企画の、中村玲奈さんだ。
「あ、ムンムン。箱運び? 地味な仕事もちゃんとやるの、嫌いじゃないわ」
『与えられたことを、しています』
「その答え方、いいね。硬いけど、嘘がない。気に入った」
玲奈さんは短くそう言って、先に行く。私は『はい』とだけ返して、陽太さんのいる方へ戻った。
退勤前、白嶺様が短く声をかけてきた。
「表、問題ないな」
『はい。加藤さん。美咲さんにも、共有済みです』
「佐藤さんにも、企画側から共有されている。問題ない」
『はい』
白嶺様は必要のない話はしない。昨日のランチで私の話を託した相手を、会社では正確に「佐藤さん」と呼ぶ。私は美咲さんと呼び、白嶺様は佐藤さんと呼ぶ。その区別が、今日も大きかった。
家では、彩華様を寝かしつけたあと、短く報告した。
『つながり月間の準備は、進んでいます。鈴木さんが、箱を運んでくれました』
「陽太か」
『はい。役に立っています』
白嶺様は「そうか」とだけ言った。深くは聞かない。見守る側の、大きな沈黙だ。私は鍵を確認しながら、幸せの種類の一覧表を、心の中でまだ作れずにいた。
箱の番号は揃えられる。
種類の方は、まだ棚卸しの途中だった。




