第11話「飲み会」
総務と営業企画の合同の飲み会がある、と田村係長が言った。
「営業企画に新人も入ったから、顔合わせも兼ねてね。ムンムンも参加しよ。強制じゃないけど、顔出しだけでも」
『飲み会、とは』
「仕事のあと、みんなでご飯とお酒。話す。群れる。楽しいやつ」
群れる。楽しい。
私には、どちらも手順がわからない。家で白嶺様に報告すると、ソファの向こうで短い答えが返ってきた。
「行けるなら行け。無理なら早く帰れ。私は出る」
『加藤さんも、ですか』
「主任だからな。顔は出す」
白嶺様が来るなら、私も行く。守る対象が、その場にいる。それだけの理由で、私は「わかりました」と係長に返した。
居酒屋の個室は、人が多かった。
総務と営業企画が混ざり、名前と部署を言い合う。私は端の席に座り、水を頼んだ。お酒の味は、まだ知らなくていいと思った。陽太さんが遠くから手を振っている。美咲さんが白嶺様の近くにいる。玲奈さんも同じテーブルだ。白嶺様は私服ではなく、会社の延長のような顔で、ごく普通に座っている。
騒ぎの途中、営業の男性社員が白嶺様に寄っていった。
「加藤主任、素敵ですね。今度、二人で食事でも」
声の温度が、仕事ではない。私は箸を置いた。思考より先に、目が男性の喉元と距離を測る。殺意、と呼ぶほどではない。だが、斬る前の間合いに近いものが、顔に出たらしい。男性社員が、ふとこちらを見て、顔を青くした。
「……あ、いや、失礼」
椅子を引く音がして、男性は自分の席に戻った。美咲さんが目を丸くしている。田村係長が「今の空気なに」と呟いた。白嶺様は、私を見た。呆れと、注意が混ざった目だ。
飲み会の残りは、蜂の話とムンムンのあだ名で持ちきりだった。私は水を飲み、必要なときだけ『はい』と返した。群れる、の正体は、まだよくわからない。ただ、白嶺様に近づく不要な間合いは、消えた。
帰り、駅の近くで白嶺様に呼ばれた。
「お前」
『はい』
「殺気を出すな。会社の飲み会だ。斬る場ではない」
『近づき方が、業務ではなかったので』
「それでもだ。私は自分で断れる。お前が殺気で倒す必要はない」
顔が、少し熱い。怒られている。なのに、白嶺様の声は最後だけ、少し緩んでいた。
「次は、水以外も一口飲んでみろ。群れる練習だ」
『……わかりました』
白嶺様は先に歩き、私は後ろに続く。命をかけて守ると決めた人に、飲み会で怒られた。カイシャの昼と、夜の盾が、また少し混ざった一日だった。
家の鍵を確認しながら、私は思った。
殺意は、出さない。次は、出さない。
——たぶん。




