43 才エン
43 才エン
このケスバ村から一番近い冒険者ギルドの支部のある町はスロクラの町で、馬車でも一週間くらいはかかるのだそうだ。
歩き旅になれば更に時間がかかることになる。
小さい子ども連れでその長旅をどうやって行くのかと思えば、ケスバ村で雑貨店を営んでいるボルファスおじちゃんが、クロスラの町に物を売りに行き、帰りは村への売り物を買い付けるので、それなりの頻度で荷馬車で行き来しているから、それに便乗させてもらえることになった。
交渉の結果、というよりサーベニアお姉ちゃんの両手を顔の前で合わせて、お願いのポーズが印象的だったかな。
色香に負けたとかじゃないよね。ボルファスおじちゃんもランスお父さんたちもサーベニアお姉ちゃんには昔お世話になっていたから頭が上がらないって言っていたし。
次にクロスラの町に行くときにと、スケジュールを合わせ準備をして過ごしていた。
そして当日、荷馬車の前。
「サーベニアさんの頼みじゃ断れないからなあ」
「ちょっと待て。俺だったら断るのか?」
「条件次第だな」
「ったく」
「はっはっはっ! 冗談だよ。ランスにもクリアちゃんにもケスバ村がオークやアルマジラットの件では世話になったからな。それなりの対応はするさ」
荷馬車に旅の荷物の積み込みをしながら、相変わらずの軽口の叩き合いをしている二人。
クロスラの町はゼバスの森を回ってというか横切っていくことになるそうでそこそこ危険もあるそうだ。
その分野盗の出没報告は少ないらしいが、全くいないわけじゃないらしい。
なかなかにいろいろと物騒な世界だなと改めて思った。
「数年前からゼバスの森の中は魔物の出現が増えているからな。道側にはめったに目撃情報がなかったとはいえ、安心も油断もできんよ。今回は腕利きの冒険者が只で護衛してくれるんだ、こちらとしては願ったりかなったりだな」
「言ってろ。道中の飯はそっち持ちだからな」
「おうともよ。それぐらいでランス達を雇えるなら安いもんだ。はっはっはっ!」
冗談じみたやり取りをしているけど、実際そうなんだろう。
完全なパーティーではないし、現在は休業中とはいえ、Bランク冒険者2名を護衛に付けるんだから、本来ならそれ相応の報酬が必要になるはずだし。
前世じゃ「只より高い物はない」なんて言う言葉があったし、こっちでもそれは変わらないのだろうけど、今回に限って言えば、こちらも幼児連れで旅をする装備を揃えることを考えれば、悪くない取引なはずだ。
んっ、あれっ?
そういえば、サーベニアお姉ちゃんもランスお父さんとクリアお母さんとパーティーを組んでいた時期があったって言っていたような?
「サーベニアお姉ちゃん」
「ん? なあにセイルくん?」
「サーベニアお姉ちゃんもBなの?」
ボクは抱っこされながらサーベニアお姉ちゃんに聞いてみる。
「そういえば、言ってなかったわね。わたしはAランクよ」
「ええぇぇー!」
まさかのラノベメジャーのAランク冒険者がこんな身近に!
しかも聞いた話だと、この世界じゃSランクはないから紛うことなきトップクラス!
ボクがキラキラした目でサーベニアお姉ちゃんを見ていると、照れたのかはにかむような表情になる。
「とはいっても、エルフは寿命が長いから、経歴が長いおかげでなれただけよ」
謙遜気味に話をつづけた。
いやいやいや、そんなわけないと思う。
この前ちゃんとBランクとAランクには審査があるって言ってたし。
ボクは最初に冒険者になりたいとみんなの前で言ってから、それ以降根掘り葉掘りサーベニアお姉ちゃんに冒険者のことを聞くことにしている。
サーベニアお姉ちゃんも小さい子供の憧れと思ってくれているらしく、ニコニコとしながら答えてくれていた。
その中でBランクに上がるためとAランクに上がるためにはそれぞれ依頼達成状況や試験だけでなく審査があるという話も聞いた。
Bランクに上がるためには比較的わかりやすく、それぞれ役割に応じた個々の力量が見られるそうだ。
よくラノベでは戦闘力を評価の最優先基準にしているような場面が見受けられたけど、実際、パーティー内には回復役の魔術師や神官、遠距離攻撃と野外活動の得意なレンジャー、洞窟や遺跡の探索や罠の解除の得意なシーフ、魔物の知識や石板の謎解きなどに優れた賢者など多くの職種があるため、その評価も難しい。
Cランクまではそれがザックリ評価されるが、Bランクに上がるためにはそういったものが重視されることになるのだそうだ。
さらにAランクに上がるためには、より厳密に人格や功績までも判断基準になるらしい。
なので、よほどのことがない限り、Aランクに位置する者が唯経歴が長いだけでなれるものじゃないはずだ。
そんなことしたら、寿命の長いエルフや魔人族がAランク独占なんてことになってしまう。
ボクが前世で生きてきた短い社会経験から考えても、人族が考えたシステムで人族が不利になるような仕組みを作るとは思えないし。
ちゃんと評価されているで良いと思う。
ただ、それだけの実力や才がある者達なので変わり者が多いのは事実らしい。
サーベニアお姉ちゃんがそこまで変わっているとは思えないけど、閉鎖的なエルフ族の中では変わり者であるとみられるのは間違いないようだ。
『サーベニアよ。しっかりセイルを守るのじゃぞ』
今回エストグィーナスお姉ちゃんはお留守番。
『むむっ、我も何れ(いずれ)セイルがおおきくなったらセイルと旅をする準備を……』
上位精霊だからその土地を離れられないので仕方がないと思っていたら、ちょっと違うらしい。
『むう~……いっそ、ガーゴンを鍛え上げて……』
なんかいろいろあるみたいだけど、あまり深くは聞けなさそう。
途中からブツブツと独り言を言い始めたけど、エストグィーナスお姉ちゃん大丈夫だろうか?
とりあえず気を取り直して。
ボクは荷馬車の荷台に抱き上げて乗せてもらい、右手を高々と突き上げて声を上げた。
「しゅっぱーつ!」




