44 エンエンに滅せずんばエンエンを如何せん
44 エンエンに滅せずんばエンエンを如何せん
荷馬車での旅の道中3日目。
今日も絶好の旅日和だ。
空は雲一つない晴天。
この地方は一年を通して比較的温暖な気候ですごしやすい土地柄だ。
小鳥が楽しそうに空をチュンチュンと鳴きながら飛び回り、風が適度に頬を撫でていく。
その風に合わせて両側に広がる森の木々の枝葉が揺れるサワサワという音と、荷馬車の車輪の音と馬の蹄の規則正しい音がなんとも長閑で眠気を誘う。
うつらうつらとしながら昨日のことを思い返す。
昨日、少しやらかしてしまった。
~ ~ ~
この世界での野宿を初めて経験した
便利グッズのないこの世界での野宿は大変だなあとしみじみと思う。
「あれ? クリアお母さん、火の魔法を使えるんだから、魔法を使った方が早くて楽なんじゃないの? いつも家だとそうしてるし」
そう、ランスお父さんが箱、火打箱というそうだ、の中から、火打石と火打金を取り出して打ち付けてから何やら乾燥させたものに当て火種を作っている姿を見て、ボクが疑問に思ったことを聞いてみた。
「家みたいに安全な場所やよっぽど急いでいる時ならそうするけど、旅の途中ではいつ獣や魔獣、野盗なんていう悪い人達が襲ってくるか分からないから、できるだけ魔力は使わないでおいた方がいいの。わかるかな?」
ああ、そういうことか。
「あい!」
節約ね。
うん、大事なことだね。
ついチャッチャと魔法で火をおこしちゃえばいいじゃないと思っちゃうけど、魔力の総量に上限があるんだから気にしておかないといけないよね。
ゲームでもゲームスタート時には苦労して開始の村の周辺で経験値を稼いでいるときは、体力と魔力の残りを気にして、危なくなれば村に逃げ帰って休んで体力と魔力を回復させてたっけ。
それが、レベルが上がったり、ポーションなんかを大量に持てるようになるとだんだんそういう感覚が無頓着になってくるんだよね。
たま~に、それを忘れてて、ポーション買ってなくて体力や魔力がギリギリになってから気が付いて慌てて焦りながらモンスターに会いませんようにと祈りつつ近くの町までもどったなあ。
そういう時に限って、あともう少しという所でモンスターに出くわすランダムエンカウントのイベントが発生したんだけど……。
実際問題だと、レベルが高くてもポーション何て大量に持ち歩くなんて嵩張って荷物になってしまう。
他の荷物もあるのだから、そうたくさん持ち歩けない。
液体はそれだけで重くなるし。
しかも、ペットボトルとか紙パックとかがあるわけじゃないから、入れ物自体も重さになる。
ペットボトルか……。
前世じゃ、ゴミ処理問題になっていたけど、今世では割と早めに手に入れておきたいアイテムだな。
中身もそうだけど、将来のお買い物リストに入れておこう。
脱線した。
それにポーションを飲んだからと言って、すぐさま効力がでるわけじゃないし。
その辺の兼ね合いを考えないといけないんだよね。
んっ、待てよ。
確か、火の魔法、近くで聞いているだけで家では止められてたから使わなかったけど、大人が4人も周りにいて開けた屋外なら大丈夫じゃない?
自分は数に入っていないわけだし。
よし、やってみるか。
まずは魔力の集中。
それを指先に集める感じで。
確か、クリアお母さんが言っていたのはこうだったよな。
「我が指に集いて火となれ! ファイヤー!」
「できた」
『ファイヤー』は手に火の魔力を集中させることで威力を調節できるんだけど、ちょっと強すぎたかな?
まあいいか。大は小を兼ねるというし。このくらいなら許容範囲内だよね。
どやー! (赤ちゃん的ドヤ顔改め、幼児的ドヤ顔)
ボクが満面の笑みを浮かべて皆の方を振り向くと、大人たちは揃って慌てていた。
「「セイル!」くん!」
サーベニアお姉ちゃんが駆け寄ってきて、火種に手を翳して何事かを唱えると、手から水が出て折角ボクが着けた火が、あっという間に消えてしまった。
「あっ、折角できたのに!」
ボクが嘆いていると、後ろからヒョイッと持ち上げられてクリアお母さんに抱きかかえられてしまった。
「駄目でしょセイル、危ないから火の魔法を使おうとするのは。真似しちゃダメだって言ったじゃない。メッ」
クリアお母さんの顔を見ると、いつになく怖い顔をしている。
まあ、それでも可愛い系なんで、あまり迫力はないんだけどね。
「あいっ、ごめんなさい」
でも、一応反省。
「これは驚いたな。まさか3歳で魔法を使えるとは」
「うちの子天才だろ」
「何を呑気なことを言っているの。小さい子は何を覚えてくるか分からないんだから目が離せないでしょ」
「それをいうなら、今のは家でのクリアの行動を見て覚えたんじゃないか」
「うっ」
「まあまあ、確かに小さい子は何を覚えてくるか分からないけど、セイルくんは賢いわ。ちゃんと言って今から教えれば大丈夫だと思うわよ。むしろ精霊と意思を交わして、更に古代系の魔法まで使えるのだから凄い才能だわ」
「まあ、とは言っても、今から火の扱いを教えるのは流石にな……」
ボルファスおじちゃんが苦笑する。
「火を使うのはいろいろ注意しないといけないから、まだダメだからね。おねしょしちゃうぞ」
そういってサーベニアお姉ちゃんが顔を覗き込んできた。
ほっぺをツンツンしてくる。
「分かった。もうしないよ、そんなの」
~ ~ ~
「それにしても驚いたよ。セイルが精霊に好かれているのは分かっていたけど、まさか魔法の呪文まで使い熟せるとはな。末恐ろしい子だ」
「だろう。俺とクリアの子だからな」
「魔法系統はランスの血は関係ないだろう」
「よし、もう少し大きくなったら、剣技を教えるか」
「めったにいない魔法剣士にでも育て上げる気か?」
「それもいいかもな」
大の男二人が御者台で並んで座り軽口を叩き合っている。
ぼんやりした意識の中で聞こえてくる会話はどうやらボクの育成計画らしい。
(魔法剣士ね)
そんな会話を聞きながら、ボクはクリアお母さんの膝の上で昼寝を始めた。
……。
夢を見た。
剣に炎を纏わせて火を吹くドラゴンに立ち向かっていく夢を。
……。
おねしょはしてないよ。




