6 対面式(8)
難波以外のメンバーは全員揃った。
「遅いね難波くん」
清坂が腕時計を覗き込みながら、野菜ジュースを飲む。
「ったくあいつ何やってるんだ?」
「立村と話し合いが長引いているんだろう」
「けど長すぎやあしない?」
更科に聞いてみるも、
「さあ、わかんない。関崎の言う通りもめてるんだと思うよ。一方的にホームズがかみついて立村に流されてかあっとなってるっていう、いつものパターン」
「いや難波に限ってそのパターンはないんじゃねえの? むしろそれ俺」
羽飛が笑いを取りにいく。
一方で女子ふたりは別次元のおしゃべりにふけっている。
「古川さん今日も来なかったんだよね」
「人様のことあんまり噂するんじゃないよ阿木ちゃん。でもお見舞いも拒否されているって聞いてるし、何かあったんじゃないのかなって、勘繰りたくはなるよね」
「でしょでしょ!」
小声とは言えやはり聞こえる。清坂も聞いているだろうが反応はなし。机を何度も指先で叩いている。
「遅いったら遅い!」
「事情が事情なんだからしょうがねえだろ。てか美里、お前これ終わったら即家に帰れよ。まじお前死ぬぞ。悪いがお前の体重背尾えねえからな。倒れても相手にしねえぞ」
羽飛を除いた男子全員で顔を見合わせる。どうも羽飛は自分がきわどいことを口にしたという自覚がないらしい。確かに清坂が今にも倒れそうな状態というのは想像がつくのだが、だからといっておぶって帰るという発想自体わかない。つまり、そういうことだ。
「清坂さん、具合悪かったら帰ったほうがいいよ」
更科が遠慮がちに口をはさむ。
「難波には言っとくからさ。羽飛が代わりに聞いてくれるし」
「ごめん、具合悪いんじゃないの。誤解させちゃってごめんね」
取り繕うのが見え見えだが、両手を合わせて謝られるとこちらとしても何も言えない。
「でも、本当にみんなどう思う? せっかくの機会だからみんなに聞いておきたいの。どうして難波くん、あれだけ飴の色にこだわるんだろう」
改めて生徒会長に問われると、みな答えに困っているようだ。乙彦は首を振って離脱した。本当に何もわからない。泉州も阿木も無言のまま。
「まあ目立つからね」
ここでも間を取り持つのは更科だ。羽飛も頷いた。
「霧島との噂がいろいろあるからなあ。噂の主が現れたらそりゃあ騒ぎになるということかよ」
「でもまだ話はばれてないはずよ。霧島くんと佐賀さんの一件は、すべて杉本さんが悪いことになっちゃってるはず。だから佐賀さんは守られてる。事実関係は別としてもね」
「まあそりゃそうだ」
A組の中では杉本梨南をはじめとする一学年下の連中の噂話はほとんど流れてきていない。関心も薄いようだ。問題の要になる立村も今は吹奏楽部の連中とのんびりたらたら過ごしている。
「黒い飴、って、黒糖飴とかぶどうの飴とかでしょ。たまたまじゃないのかなって気がするんだけど、ただ」
清坂は表情を曇らせた。
「立村くんが変わったことをしているのが、ちょっと気になるのもわかるのよ。立村くん、何かクラスの中で妙な動きに気付いたのかもしれないし。難波くん本当はそちらのほうが気になって私たち残したのかもしれないね」
それは何か違うような気がする。A組は特に問題など起きていない。乙彦が口を出そうとするのを制するように、名倉が手を挙げた。
「はい名倉くん」
「俺も高いところから見下ろしていたが、確かに黒い飴だけ狙って飛ばしていたように見えた」
とつとつと、いつものように。
「難波は、黒イコール喪の色と話していたが、俺もそれは思った」
「喪、かあ。黒はシックでかっこいい色だと思うんだけど、いろいろよね」
「とにかく難波の話を聞いてからにしたほうがいい。このままだと何かが起こるのは確実だ」
「でもなんで?」
すぐに清坂が問い返した。
「想像でいいから名倉くんの意見を聞きたいの。どうして、縁起の悪いとされる黒い色の飴を、佐賀さんに投げつける必要あるのかなって。だって元生徒会長でしょ。いろんな問題はあるにせよ、被害者でばれてないでしょ。事実はどうにせよばれてないでしょ」
「ばれているかどうかは別として、女子たちはいい感情を持っていない」
名倉は言い切った。隣で聞いていた乙彦も驚いた。
「あの事件に関係なく、佐賀を嫌っている女子たちが存在する。本人の性格や加害者被害者かどうかはとにかくとしてだ。そいつらは感情的になったらもう押さえられない。とにかく叩きのめすことに命をかける。それが目的だからだ。叩きたいから、叩くんだ。事実はどうでもいい」
清坂は立ち上がった。よろよろしているが、足取りはそれなりにしっかりしている。名倉に近づき、じっと真正面から見つめ、耳元でささやいた。隣にいる乙彦にその声は聞こえた。
「彰子ちゃんもそうされたと、思ってるのね」
返事を待たず、もう一度じっと見つめ直したのち、清坂はすぐに席へ戻った。同時に生徒会室の扉が開いた。難波だった。ひとりだった。
「難波、自分から集めておいてこれだけ待たせるってのはねえだろが」
羽飛が面倒くさそうに難波を責める。
「悪かった。話が長引いた」
「立村と?」
更科の問いに、難波は頷いた。
「立村くんも連れてくればよかったのに」
「俺もそのつもりだったが、吹奏楽の連中にさらわれた」
きっと江波たちだろう。最近あいつらは立村にやたらとべったりだ。
「だが聞くべきところはきちんと聞いてきた。まず話を進める。みな席に着け」
やる気満々の難波を前に、羽飛が首を振りながら、
「難波、気合入ってるのはわかるんだが、うちの会長さん見ろよ。今にも死にそうだから早めに切り上げてくれよな。お前も知っての通り、こいつがぶっ倒れたら家に運ぶの俺なんだからな。察してくれよ」
「いつものことだ、羽飛、お前も耐えろ」
どうやら話を短くするつもりはなさそうだった。




