4 始業式の空白(5)
「ところで、静内とは話をしたか」
息詰まる思いで話を逸らす。二年C組に収まったこと、清坂美里とやっと離れられたこと、担任は野々村先生、ここまでしか把握していない。挨拶もしていない。
名倉は黙っていた。聞こえていないのか、それとも聞き流したのか。空を見上げ、
「そういえば静内は、評議に出ないと言っていたな」
ぼそっと呟いた。
「生徒会室に行く前に話をしたが、明日の委員決めでは絶対に評議からは逃げると言い切ってたぞ」
「C組にはあと誰がいる」
「天羽がいる。あと、轟もいる。おそらく居心地はよろしくないだろう」
腑に落ちた。せっかく清坂から離れたのに、元青大附中評議三羽烏の筆頭に取っ捕まるときたらたまったもんじゃない。ついでにいうなら天羽も轟も、乙彦にとってはしかめっつらしたくなる相手である。
「もっともだ。俺も逃げたいと思う。英語科でよかった。で、お前は」
「B組だ。比較的穏やかなクラスだ。主流から離れた連中が固められたような印象だ。ついでに言うと、外部から来た奴がまとめられている」
名倉と静内以外に外部生とは積極的に付き合っていないのでよくわからない。
「お前にとってはいいクラスということか」
「身を隠すには最適だ。だがあえて言うなら羽飛がいる。それと泉州も同じだ」
名倉の熱烈ファン・阿木とは離れたということか。
「ちなみに生徒会男子はみなC組だ。それもまた謎だ」
「お前が楽ならいいじゃないか。だがそうすると、クラス委員がどうなるかが気になるな」
名倉は返事をしなかった。大切なことを忘れていたといわんばかりに手を打った。
「南雲もB組だ!」
──なんだ、結局名倉も天敵と一緒なんじゃないか。
それぞれ痛み分けというところである。
しばらくはクラス替えの噂話で盛り上がっていた。あえていえば、わざと乙彦が話を盛り立てようとしていた、といったほうが正しい。体のいい時間稼ぎだ。
「名倉、気を付けてふるまえよ」
無駄とはわかっていても、乙彦は口を出さずにはいられない。
「今回はお前が絡んでいないから俺も何も言わないが、これ以上個人のプライバシーを暴露するようなことをやらかしたら、今度はお前が足をすくわれるぞ。お前の正義がどういうものかは理解したいが、共感できない、最悪の場合は俺もたたきに出るというのはこの前話した通りだ」
「わかっている。関崎、お前は王道を行けばいい。これも同じ言葉だな」
名倉はかすかに口元をほころばせた。珍しい。
「だが、この学校に巣くっている悪の権化を叩きのめすため、俺も自分のやりたいようにやる。もちろんお前には迷惑をかける気はない。とりあえず今回のA子B子の件は、自然に任せる。お前も、その」
口ごもった。
「何が言いたい」
「たぶん、関崎は頭にきているだろう、そう思っただけだ」
「俺がお前の話で推測できている内容ならば、非常に残念だ。いわゆるそのB子が、俺のクラスの知り合いだとしたら、大きな損失だ。だが、俺たちが何かできるわけでもないことも、承知している。見守るしかない」
「そうか。悪いな。これから同じようなことが起こるだろうが、その点は今のうちから詫びを入れておく」
訳の分からないことを言う名倉。問い返す。
「これから同じことってのはなんだそれ」
「いや、わからない。可能性だけだ」
名倉は鼻をかんだティッシュをポケットに突っ込んだ。もう山盛りだ。あふれ出している。
「とりあえず、明日のクラス委員決めと明後日の対面式が、勝負だな」
乙彦もこれ以上考えるのをやめた。
話も済んで、
「それじゃ」
と別れたのち、乙彦は思い出した。
──静内はこのことを知っているのだろうか?
静内にとって古川こずえは、あまりよい印象のない女子だ。性格の不一致といえばそれまでだが、今回の出来事をきっかけにさらに嫌悪感が増していくのも予想がつく。こういったらなんだが、清坂以上に、
──はるかに潔癖な奴なんだ、静内は。




