2 明け渡しカウントダウン(24)
「一人や二人ではないな」
乙彦がつぶやくと、立村も頷いた。
「古川さんだけではないということか」
言いかける前に足音は止まり、なにやら声が聞こえる。あまり聞き慣れない男性のものだ。立村の表情が陰った。もはや何も言わない。観念したかのようにうつむいた。
ドアが開いた。立村が立ち上がるのにつられて、乙彦も腰を上げた。
茶色のジャンバー姿で、三十代あたりの男性がじっと二人を見つめてきた。最初に立村、次に乙彦をまじまじと見て、大きくため息をつきつつ、
「お前なんでここにいる?」
答えようもない質問を投げかけてきた。乙彦にではなかった。
立村が答えた。
「仮にもクラスメートの女子宅に、保護者がいない状態でのこのこ上がり込むわけには行きません。玄関にいるのはそのためです」
そういう答えがあったのかと、密かに乙彦が感心していると、
「そういうことか、全く、なんというか、お前なあ、立村」
後ろに控えているもう一人の男子に振り返り、ため息をまたつく。
「杉本が最後の最後までお前と霧島のことで心すり減らしていたこと少しは考えろよ。まあいい、良い心がけだ。とりあえずお前は帰れ」
な、とばかりにもう一度後ろの男子に促した。もう誰かはわかりきっているそいつは、楚々と出てきて即、立村の腕を引っ張った。
「お聞きになりましたか立村先輩、さあ降りましょう」
「霧島、お前何考えてここに来た!」
抑えきれぬのか立村が声を張り上げる。すぐに我に返り、得意のポーカーフェイスをこしらえる。
「あの、古川さんは」
してやったりとばかりに、また目の前の男性は霧島と顔を見合わせて頷きあう。霧島が代わりに説明しだした。つんと、いつもの狐面で、
「古川先輩は菱本先生のお宅に連れて行かれました。女子が一人で過ごすのはいくらなんでも危ないことなので、とのことです。さきほど菱本先生の奥様が自家用車でお迎えにいらっしゃいました。今夜はこのままお泊りになるようです」
「あ、でも今日荷物を取りに来るってのは」
「ご安心ください立村先輩。夕方、菱本先生の奥様と古川先輩、あと菱本先生三人で受け渡しするそうです。とりあえず、立村先輩、あなたは用無しということです」
立村は、しばらく唇を噛み締めつつ霧島を睨んでいたが、
「よくわかった、俺は用無しなんだな」
「この場では、です。僕はまだ立村先輩に伺いたい事がありますのでお付き合いいただけますか」
「さっき話したばかりなのにか?」
つんと澄まして霧島は、ちらと乙彦に目をやった。
「菱本先生は関崎先輩とお話されたいそうです。お邪魔してはいけません」




