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2 明け渡しカウントダウン(13)

 立村は熱中しているのかピアノから離れようとしない。次から次へとよくわからない曲をつっかえながら弾き続けている。

「本当に好きなんだねえ」

 しみじみつぶやく古川に乙彦も同意した。

「あの、合唱コンクール羽大きいものを残したんだな」

「失ったものもなくはなくはないけどね。雨降って地固まる、かあ」

 まさに同感だ。あの出来事がきっかけで立村はクラスに居場所を作ることができたようにみえる。疎外されていたわけではなかったにせよ、他クラスで休み時間を過ごすことが多かった立村が、今では吹奏楽部連中および疋田とつるんで音楽の話に余念がない。めでたいことではある。

「それは、俺からしたら見出したお前さんの功績とも言える」

「嬉しい事言ってくれるじゃん。まあね、宇津木野さんもイタリアでそれなりに頑張っているみたいだし、それはそれでいいのかもね。あいつも、腐っても青大附中の評議委員長やってたんだからそれなりになんとかしてもらわないとね」

「古川、ひとつ聞きたいんだが」

 いい流れだ。乙彦はさりげなく質問を振ってみることにした。

「今の立村の様子見て、どう思う」


 古川はしばらく考え込むようにうつむいた。人差し指の爪を弾いて、

「まあねえ」

 まずはそれだけつぶやいた。

「あんたから話は聞いてたから気にはしてたけど、なんとなく肌触りが違うって気はするね」

「やはりそうか」

「具体的に何がとは言えないんだけどね。一週間のあいつとは全然違うなとは思うよ。第一、玄関でお茶会なんて寒いこと発想するとは思わなかったよ」

 ここのあたり、乙彦も同じ意見である。古川は続けた。

「キリオ問題がうまく行って落ち着いたのかねえ」

「それもあるんだろうが、憑き物が落ちたようなふうにも見える」

 自分でもあまり使ったことのない言葉が飛び出した。

「やっと面倒なことから解放されて晴れ晴れとしている、といえばいいのか。今もビアノの話が出るやいなや、ひょいと一人で部屋の中に入っていっただろう」

「そういうとこはガキンチョのままよねえ。私さ、色々考えてたんだけど、もしかしたら立村、童貞捨てたんじゃない?」

 我らがA組の下ネタ女王なら絶対にたどり着くであろう発言だ。古川は乙彦をちらりと見て、

「あ、関崎、あんた私にそれ言わせたかったんじゃないの。一年経ってあんたも擦れたねえ」

「そういうわけじゃない、なにわけわからないことを言うんだ」

「照れない照れない、でも、疑いたくなるわねえ。あいつが脱チェリーとなると、相手はひとりだけなんだけど、どう考えてもありえないよね。時間もないし、そもそもあいつ、杉本さんに会わないままさよならしているはずだよ」

 古川は首をひねった。

「あっそうだ、私美里と杉本さんを駅まで見送ったんだ、忘れてた!あのあとさっさとわかれたからカウントしてなかったんだ。どっちにせよ私、杉本さんに確認したんだよ。立村と話ししたのかって」

「立村はしたと言っていたが」

「杉本さんは会ってないし今後もそのつもりはないって言い切ってたよ。なんなのこの矛盾!」


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