2 明け渡しカウントダウン(12)
「それで今後どうするかだけど」
一通り古川の家庭事情を把握したのか、立村は考え込んていた。
「このこと知っているのは、俺と関崎と、あと藤沖か」
「そうね、麻生先生も入れといて。担任だし。けど今のところはこれだけよ」
指で数えて、乙彦と同じ問をする。
「清坂氏には伝えてないのか。羽飛にも」
「あんたら口を揃えて聞くけど、言ってないよ。美里に話したらパニックよ。ただでさえら生徒会大変なのにどうするの」
「でもいつまでも内緒というわけには行かないだろ? 新学期始まったらどちらにしても顔合わせるわけだし」
「うまくいけばね」
意味深につぶやき、古川はため息をついた。
「この前の、ほら、キリオくんのことで私と美里もちょっと、何かなって空気があるんだよね。余計なことを言っちゃったから美里が結局窮地に追いやられたっていうか。あ、立村はあの場にいなかったから知らないだろうけど、揉めに揉めたのよ」
なぜか立村はその内容を追求しようとしなかった。
「気まずいってのかな。それで春休みは連絡取ってなくて、冷却期間にしようかなと思ってたのよ。こっちも、こんなことになるなんて思ってなかったからね!」
「そうだな、それはわかる。これからのことだよな」
立村は考え込んていたが、不意に乙彦へ、
「関崎、他の奴にはばれてないんだよな」
念を押してきた。
「俺がばらすと思ったか」
「ごめん、そんなことないと思うけど念のため。どちらにしても今は無事に古川さんが引っ越しして、落ち着いて暮らせるようになるのが先決だな。それでこの荷物か」
「そういうことだ。おおよそ片付いてはいるが、部屋掃除もしなくてはならない。これは一人では無理だ」
「言われてみればそうだな。俺たち二人いればなんとかなるか」
ここで、突然立村が立ち上がった。きょろきょろ見渡して、
「古川さん、ピアノはまだ、あるのかな」
脳天気なことを言い出した。古川も呆れたように、
「あるけど、売るよ」
きっぱり答えた。
「ということは、まだ、あの部屋にあるんだよな。蓋に鍵はかけてないのか」
「かけてないよ。なんなら弾きたい?」
「よかったら」
立村の目の色が明らかに変わった。微笑みを浮かべつつ、
「いいかな? なら、少しだけお邪魔していいかな」
さっきまであれだけごねていたくせに、ピアノの三文字を口に出した途端、なんなのかあの変わりようは。乙彦があっけにとられている中、立村は靴を脱いでジャングルのリビングに向かった。少し間があり辿々しく乙彦の知らない曲が流れ出した。
「あいつもここで合唱コンクールの曲、練習してたからね」
「そうか、そうだな」
合唱コンクールの伴奏をするために古川の家へ通っていたことは知っていた。立村の演奏は決して上手とは言い難かったし今でもほとんど変わりなく聞こえる。それでも、ピアノのレッスンに通い続けているのだからそれなりの思いはあるのだろう。曲は懐かしの「モルダウの流れ」に変わった。
「あっそうだ、関崎には話してなかったんだけどさ」
声を潜めて古川が囁いた。
「一回、杉本さん呼んでめあわせたことあるんだ」
「ふたりきりでか?」
「まさか。けどちょっと企んで、ふたりっきりにしてみたんだ。もちろん私たちは別の部屋で、ってことなんでやましくはないけどね」
乙彦は黙って聞いていた。古川もため息混じりに、
「何話したのかはわからないけど、うちの弟が立村の演奏のど下手さにがまんできなくなって騒ぎ出しちゃって、杉本さん傷ついて帰っちゃったことあったんだ。なんか、悪いことしちゃったな。思い出しちゃったよ」




