2 明け渡しカウントダウン(11)
なぜ立村がそこまでこだわるのか乙彦にはわかるようでわからない。現実を見ろと言いたいが、古川も観念したように紙コップと紙皿を人数分用意し、
「瀬戸物ほとんど始末したからこれで悪いけど食べて」
差し出した。立村が持ってきたのは大ぶりのシュークリームとプリンという組み合わせで、それなりにボリュームはある。
「食べ物の差し入れは嬉しいわ、遠慮なくいただくよ。関崎、よかったねえ。あんた飢えてたでしょういろいろと」
「腹は空いていたが、飢えてはいない」
言うより先に手がシュークリームに伸びていた。そのままかぶりつく。甘ったるくなくて美味しい。あっという間に三人で平らげた。
「で、キリオくんは、どうやって説得してきたのよ。昼に会ってきたんでしょ」
「用事があるの一点張りでまいてきたけど」
「まいた?」
思わず乙彦も叫んでいた。立村があわてて手を振る。
「だってさ、下手に古川さんところに行くなんて言ったらあいつもくっついてくださいとか言いかねないよ。いろいろこっちとしても誤魔化すのは苦手だし」
「私もそれは心配してたのよ」
古川はため息をついた。
「でもまあ、うまくキリオくんのお守りはできてるってわけよね」
「あいつは俺をコントロールしているつもりでいるみたいだけど」
「まあお互い様じゃないの。あんたも知ってると思うけど、生徒会側もいろいろ大変みたいよ。ねえ関崎、そうでしょう」
促されて乙彦は、手の甲で口を拭いつつ答えた。
「その通りだ。俺も古川と同意見で、立村が霧島の首根っこを押さえてくれていることには感謝している」
「さあ、どうかな。わからないよ。でも清坂氏や羽飛が困らない程度にはなんとかしたいよ。とりあえずは平和にこの一年が過ぎますようにってとこかな」
──平和。
三人三様に顔を見合わせる。
「ほんとよねえ。一週間前ってもう過去の話なんだよね。アンモナイトレベルの過去よ。化石。私だってまさかあの時、一週間後にお引っ越しなんてなるとは思ってなかったもんねえ」
みな黙る。立村がおずおずと口を切った。
「あのあと、すぐにか」
「厳密には次の日ね。もともとわあっと来る火種はあったけど、こんなに早く追い出されるとは思ってなかったなあ。母親と私だけならどうにでもなるけど、ほら、弟いるからね。あんたにそっくりな性格の弟よ。あいつがあんたと同じく気難しいもんだから」
「だからなんで俺と比べるんだよ」
「他所さんと接点持つようなとこに引っ越すわけ行かないのよ。あいつの部屋一部屋確保して、私と母さんは台所に雑魚寝してって感じ。あーあ、まだ連絡こないからいい物件なかったんじゃないの」
「弟さんは今、どこに住んでいるの」
立村が静かに問いかける。片手で紙皿を重ねている。
「知り合いのうちに居候させてもらってる。うちのことできるんだったらここにぎりぎりまでおいておきたかったんだけど、もう母さんべったりで何にもできないからね。私とだと大喧嘩になって修羅の道だし、とりあえずは食べるものだけ与えて部屋でゲームだけさせておけばおとなしいですよって、預け先言いくるめておいてる。でもいつまでもそういうわけ行かないし、学校もそろそろ始まるから、さあてどうするってとこなのよ」
「うちの学校には相談してる?」
「一応ね。麻生先生も頑張ってくれてる。どう考えたって私のせいじゃあないし、学校側にも働きかけてくれてる。でもねえ、立村、あんたも思わない? 最近のうちの学校の体質。一週間前のキリオくんはじめとするいろんなこと」
立村は答えず、頷くのみ。息を呑んているのは乙彦のみ。
古川の語り口調はあいかわらずさばさばしていた。
「臭いものには蓋をしろ、めんどくさいやつは追っ払え。で、私の母親の場合だと確実に面倒くさい展開になるから、どこまで粘れるかねえ。今のとこら第一目標は、新学期の始業式につらっとした顔で挨拶して、連続して評議委員に選ばれること、なんだけどね」
──やはりこのあたり、立村は口を開かせるのがうまいな。
乙彦は注意深く見つめていた。言葉少なに、古川の話をただひたすら聞いていた。きっとその前は霧島の言いたい放題を受け止めるなりしていたのだろう。男子にはなかなかできないことだ。




