2 明け渡しカウントダウン(14)
乙彦の記憶によれば、立村は杉本梨南と話をきちんとし、その上でけりをつけたように説明していた。なんらかの方法で直に会ったのだろうと思っていたのだか、実際は違うということか。
「杉本さんは嘘を言わない子だからたぶん本当だと思うよ。立村もねえ、美里が心配して手はず整えようかって提案したらしいけど、あっさり断られたって言うし」
「立村の妄想の中で縁が切れたというわけか」
しみじみ乙彦がつぶやくと、古川は笑いを押しこらえて、
「そうだねえ、現実と空想の境界線がもう曖昧なんだよ。けどさ、それで男子ってそうあっさり、あんだけ好きだった子のこと忘れられるものなのかねえ」
たどたどしい音色はまだ続いている。
「人によるだろうが、立村に限っては違うと思っていた」
「ごもっとも。となると杉本さんがいなくなって別のぬくもりを」
「いや、きっかけはどうでもいいんだ。俺としてはそういうことを知りたいんじゃない」
うっかり話を進めると、今度は乙彦に向かって童貞を捨てることに対するよしなを問われたり説明されたりして面倒だ。悪いがそういう話題からは距離を起きたい。口で勝つ自信がない。
「どういうことよ」
「立村が吹っ切れて立ち直ってくれたのであれば万々歳だ。古川の事情にも関係するが、あいつがクラスでそれなりに力を持つようになれば、多少の雑音が一部の生徒から生じてもなんとかなりそうな気がする。それこそ、合唱コンクール以降に立村は、藤沖と反対の立場にいる江波たちと繋がっている。ついでに疋田とも親しい。そうすると多少クラスの中で波風が立ったとしても、立村が押さえてくれる可能性は高い」
「あっそうか。そういうことになるよね」
もっともいいことばかりではない。懸念材料も伝えねば。
「だが、もし、今立村が立ち直ったきっかけがお前さんの想像していることだとしたら、その相手によってまた面倒なことになりそうだ」
「回りくどいこと言うねえ、はっきり言いなよ。ま、杉本さんと何かあったということは時系列からしても絶対にありえないし、もし会ったとしても純情プラトニックだと思うよ。手も握れないキスなんてやらかしたらその場でいっちゃうね。ばれないわけないよ」
「だが、他の相手だったらどうなる。例えば」
まずい、思わずとんでもないことを口走りそうになってしまった。古川は聞き逃さなかった。
「もしかして、疋田ちゃんあたり疑ってる? 最近あのふたり仲いいよね」
全く違う。条件反射で首を振る。
「いや、それはない。むしろ野々村先生のほうが可能性としては高いんじゃないか。この前も朝から駅前を歩いていた」
古川の顔が明らかに強張った。
「あんた前から言ってたね、野々村先生のこと」
ゆっくりと、声を潜めて、
「盲点だったわ、そうだとしたら、修羅場だよ。関崎、しばらくこのことは誰にも言うんじゃないよ」
ピアノの音色は、まだまだ同じところを繰り返すばかりだった。




