2 明け渡しカウントダウン(15)
乙彦なりに重荷を下ろすことができた。ずっと引っかかっていたのだ。あの日の朝に見かけた立村と野々村先生の姿もそうだが、直接尋ねたときの立村の慌て様も妙だった。最近のいろいろな出来事が重なり合って、妄想たけが広がる。こういうことを話せるのはやはり、世間を知っている古川くらいだろう。
「直接聞いてみるつもりか?」
古川に問いかけると、すぐに首を振られた。
「今はやめとく。まだ、決定的な証拠がないからね。けど前から噂があったのは確かだし、なにか臭うよね」
「臭うって何がだ」
ピアノの音色がどうも耳障りに感じられてきた。また古川がため息をつく。
「立村がどれだけ杉本さんにご執心だったかは誰もが知っていることだし、あの先生の噂が多少流れていたとしても聞かなかったことにして脳が勝手に処理してくれてたんだよ。たぶん。みんな、今の立村は杉本さんとの悲恋で燃え尽きてると思ってる。それが関崎の言い方を借りると、憑き物が落ちたようにすっきりしている。やはり、妙だよね」
頷くのみだった。
「これから学校始まったら誰かかしら気づくね」
「クラス替えがどうなるかにもよるが」
普通科は毎年クラス替えがある。
「それにもう、春期講習も始まっている。他の奴らもそれなりに気づいているはずだ」
「野々村先生がどういう行動を取るかだよね。あまり話してなかったけど、野々村先生は美里のことを目の敵にしていて静内さんを贔屓してて
、いろいろ問題あったんだ」
「知っているがあれは清坂にも問題があるだろう。静内側からしたらたまったもんじゃなかったようだ」
古川が誤解しているのは当然だか、静内の名誉も保ってやりたい。
「ああそうだね、あんたは静内さん贔屓だもんね。まあいいよ。とにかくあの先生はなにかかしら立村に張り付いていてきな臭い噂はたしかにあったよ。合唱コンクール以降は特にね。でも、立村は杉本さん一筋。誰も疑う奴なんていない。今まではそれで通ってきたけど、これからはすっきりフリー、となると」
「だが、一応は教師だろう」
説得力のない反論を試みる。古川はあっさり跳ね返した。
「あんた更科のこと知ってるでしょが」
ここまで古川は眉間に皺をよせたまま語っていた。
「ほんとは私も学校でしぱらく様子見するなどしたいんだよ。いろんなこと関係してくるし特に立村の場合、面倒なことに首突っこみ過ぎてるからね。それができない以上、どうすればいいんだろと思うよ」
古川がそこまで口にした時、電話が鳴った。同時にピアノの演奏もも止まった。慌てて受話器に古川が飛びついた。
「もしもし? あ、はい、お久しぶりです。えっと、え? 今から? あ、確かに今引っ越し準備なんですけど、ええと、誰? 誰かいるかって? ええと、あの、ちょっとだけ待ってもらえます?」
いつの間にか立村が背後に立っている。乙彦と顔を見合わせる。古川も受話器の口を手で覆い、
「なんで菱本先生にばれてんの? 立村、あんた変なことばらしたんじゃないでしょうね」
激しく首を振る立村に古川が詰め寄った。
「あんたの意識がなくても、キリオくんがすぐに反応して菱本先生に告げ口に行ったんだってさ。いま、そこの電話ボックスから掛けてきてるよ」




