2 明け渡しカウントダウン(7)
古川が戻ってきて、レモンスカッシュを乙彦の前に差し出した。もうとっくに缶コーヒーは空になっていたのでありがたいのだか、
「古川、缶はどこに捨てるんだ?」
「大丈夫、あす燃えないゴミの日だから一緒に出しとくよ」
この環境下でいたせりつくせりである。本当に大丈夫なのか。礼を繰り返すのも間抜けなので別の話にそらせてみる。
「それで、もう一人の問題児とは誰なんだ」
「決まってるじゃないの、片岡だって」
レモンスカッシュの缶から泡が溢れ出る。急いで口をつける古川。
「あの子もねえ、だいぶクラスに馴染んてきたけど、やらかしてきたことが事だから、そう簡単にはけりつかないよね。まあわかってることではあるんだけど、麻生先生もいろいろ頭を抱えているみたいね」
「片岡に関しては俺はあまり心配してないんだか」
これも正直なところだった。相変わらず内川に兄貴分らしく振る舞い、桂さんの監視のもとではあるけれども仲良く遊んでいる。英語科クラスにおいても、たしかに女子受けは最悪かもしれないが、藤沖をはじめとする男子連中とはうまくやっている。それはそれで良いのではないだろうか。
「今はね。けど、火種はあるんだよね。私も様子見だけはしてたんだけど一年目は何もなくて一安心してたんだ。あんた、知ってるよね。小春ちゃんのこと」
頷いた。噂もあれば本人からの申告もある。
「天羽絡みの事件からめでたく一年が経つんだけど、この調子だと小春ちゃんは青大附属に戻ってこれそうにないね」
「最初から退学だったと聞いていたが?」
校内での傷害未遂と聞いている。
「でもうちの学校のいい加減なところで、ほとぼり冷めたら復活ってのもあるのかなとちょっと期待はしてたんだよね。でも、ないかあ。となるとずっと片岡の実家に居候することになるよね」
この件に関しては乙彦も発する言葉がない。完全なる部外者だ。
「となるとそろそろ、何かの動きがあっても不思議じゃないよね」
「そんなのあるのか」
全く持って予想がつかない。古川もなかなか明確な答えを出さない。
「私のことともつながるんだけどさ、学校の中て処理される分にはどうにでもなるのよ。あんたが知っていそうなことだとと、ほら、杉本さんののことね。杉本さんのうちも色々大変なことになってるけど、とりあえずは逃げてくれたのでこれ以上関わらなくてもいい。悪いことはすべて杉本さんに押し付けておけばいい。ついでに言うなら、霧島キリオのやらかしたことが本当のことであれば、普通は警察だよ補導だよ下手したら少年院だよの世界なんだけど。それもうまく誤魔化してしまえる。この前のことがまさにそうよ。生徒会の力も借りて、なかったことにできるのよ」
「いやそれはないだろう」
「けど、それがね、最近どうも綻んできてるのかなと思うこと多々ごございましてね。関崎、あんた更科と都筑先生の話知ってるよね」
痛い所をつかれた。頷いて様子をうかがう。古川も男子っぽくあぐらをかいて、
「事情が色々複雑なのは私達も知ってたしあえてなにも言わないできたけど、最近、マスコミ絡みで青潟大学に対する風当たりが強いなって思うんだ。どっかで情報が流れたのかなって。普通ならしっかり隠すよ。学校側だって馬鹿じゃない。それが、都筑先生をやめさせなくてはならないとこまで行っちゃったのって」
いや違う。乙彦の聞いた話とは大幅に違う。
「俺が更科のことで噂として聞いたのは、お互いの家の事情が解決して、不自然な形での婚約が解消されたからだと言うことだが」
「当たってるけど、都筑先生の職を取り上げることまでは普通しないよね」
「本人の意思じゃないのか?」
「安定した教師という職を都筑先生がそうかんたんに捨てるわけないよ。花嫁修業とか噂もあるけど、早々かんたんに新しい男なんて見つからないよ。私が言いたいのはね、全てにおいて最近、いきなりどうしたこうしたの展開が多すぎるの。霧島キリオや新井林のことは前から火種があったから仕方ないけど、更科のことや、あと私? 私のことはもちろん家の母親の問題もあるから仕方ないとこあるよ。けど、こんないきなり一週間で明け渡せなんて無理強いするのはお願いだからやめてよって思うよ。全身筋肉痛なんだから、せめて三ヶ月くらいは時間頂戴よ」
──無駄話している暇ないんじゃないのか?
乙彦は立ち上がった。部屋をぐるりと見渡した。片付いてはいるだろうが、荷物の運び出しは女手一人では難しそうだ。
「古川、悪いことは言わない。誰か一人、男手頼もう。とりあえず藤沖あたりはどうだ。電話で連絡はつく」
「えー? なによそれ、何いきなり言い出すのさ? 大丈夫だよ、荷物運びだしたって」
言いかける古川を遮った。
「幸い今は午前中だ。あと誰か呼び出せそうな奴はいないか。羽飛とか、あとは立村、今話に出た片岡、そうだ麻生先生という手もある」
「ちょっと勝手に決めつけないでよ、第一、あんただけ呼び出したのは色々頼みたいことあるからであってね」
「誤解を招くシュチュエーションだろう。それなら複数野郎がいて荷物運びをするために待ち構えている方が安全だ。誰か呼びたい奴いれば俺が声をかける」
引き渡すのであれば掃除も必要なはずだ。どちらにしてもここでスナック菓子食っている場合ではない。古川はざっと部屋を見渡し、観念したようにつぶやいた。
「じゃあ逆ハーレムにするかな。今から立村を呼んで見る。あいつもそろそろピアノのお稽古終わってうちに帰ってる頃じゃないかと思うから」




