↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/34

第28話 好きなモノ

 リゼが決意を秘めて講義に臨んでいることは知らないまま――

 一方のカサンドラは歴史学の講義を無事に終えることができた。


 これで今日の講義は全て終わりだ。

 勉強するのは苦痛かと思っていたが、流石一流の講師を集めた王立学園。

 講義は初見でも興味深く、楽しく、理解しやすく興味深い内容ばかりだ。


 自分を高めようと思ったら、講義を活用することが一番の近道ではないかと納得してしまう。


 カサンドラは机の上に広げていた教本を閉じた。

 周囲では椅子から立ち上がる音が次々と響き、生徒達が思い思いに帰り支度を始めている。


 カサンドラも筆記具を片づけ、鞄へ手を伸ばしたところで、講義室の前方から女生徒達の声が聞こえてきた。


「ラルフ様、この後お時間ありませんか?」


「少しだけでも構いませんから」


 視線を向ければ、予想通りラルフが数人の女子生徒に囲まれている。

 蜜色に近い長い金髪を首の後ろで結んだ華やかな姿は、ただ立っているだけでも随分目立つ。

 物腰が柔らかく人当たりが良い彼は、派閥の区別なく女生徒から話しかけられていることが多い。


 こうして見ていると、四人は他の生徒との距離の取り方が随分違うと気づかされる。


 そもそも他の生徒と積極的に交流しないシリウス。

 友人の男子生徒と一緒にいることの多いジェイク、女子生徒に話しかけられることの多いラルフ。

 そして男女関係なく周囲に人の絶えない王子。


「あの、ラルフ様!

 今度、公爵からお招きいただいたパーティの件でご相談があるのですが…」


 その瞬間、バチィッ、と令嬢たちの間で見えない火花が散った。


 これからどんなマウント合戦が始まるのかと傍から見ていても恐ろしい。

 慌てて講義室を出ようとしたのだが…


 ラルフ本人はこの程度の状況には慣れているらしく、困ったように笑いながら一人一人へ穏やかに応じていた。


「ごめんね。その話は、また後日。

 この後、アーサーと約束があるんだ」


「まぁ! 王子とですか?」


「うん。生徒会室で待ち合わせているから、そろそろ行かないと」


 そそくさと講義室を後にしようとしていたカサンドラは、その言葉に耳がピクリと動いてしまう。

 

 生徒会室?

 『王子が生徒会室でラルフを待っている』ということは…


 つまり、ここでまっすぐ帰らずに生徒会室に寄れば、王子に会えるという事ではないだろうか。


「では、またね」


 手を軽く振って颯爽と講義室を出ていくラルフ。


 そして、先ほどパーティに誘われたことを誇らしげに口にした令嬢は「どういうことか」「抜け駆けか」と他の女子生徒に詰められ始めてしまう。

 

 …というかヴァイル家は年がら年中色んな催しを主宰しているお家柄なので、さして特別なことはないと思うのだが…

 

 万が一、講義室の隅にいる自分にまで飛び火してきては叶わない。


 カサンドラはそっと廊下に出て、しばらくこの後の自身の行動について逡巡した。


 生徒会室に用事がないだろうか?

 と、必死で思考をフル回転させる。


 今日は火曜日で、生徒会の活動日ではない。

 当然、カサンドラがわざわざ顔を出す必要もなかった。


 ――必要はないのだが。


 そういえば!


 先週扱った書類の中に一つだけ気になっていたものがある。

 次の活動日である金曜日に確認したところで何の問題もないが、今日確認してはいけない理由もない。


 むしろ、気づいた時に早めに見ておく方が望ましいのではないだろうか。


 カサンドラは若干の後ろめたさを感じつつも、足を生徒会室の方向に向けてしまう。




 ――大丈夫? 私、ストーカーになってない!?



 でも、ちょっと挨拶するくらいなら…大丈夫よね!?





 自分自身へそう言い聞かせながら、カサンドラは西の回廊に向けてゆっくりと歩き始めたのである。





   ※





 生徒会室へ着くと、中から話し声が聞こえてくる。


 軽く扉を叩いてから中へ入ると、長机を挟むようにして王子とラルフが向かい合っていた。

 二人の前には何枚もの紙が広げられており、何やら相談していたらしい。


 先にカサンドラへ気づいた王子が不意に顔を上げる。

 窓から差し込む夕方の陽の光に照らされ、相変わらず存在がキラキラと煌めいていた。


 隣に同じように綺麗な容色のラルフが並んでいるわけで、一気にハイソな雰囲気に包まれる。


「カサンドラ嬢?

 今日は生徒会の日ではないけれど、何か用事かな」


「はい。

 先週作成した議事録について、少し気になることがありましたので」


 チクチクと良心が痛む。

 まさか、王子がいると知ったから…なんて口が裂けても言えやしない。


 自分の後を付け回されるなんて、気持ち悪がられてもおかしくないだろう。

 カサンドラだって、好きでもない異性にそんな行動をとられたら背筋が凍る。


 だけど、一応、生徒会への用事を捻りだして来たのだからセーフと思いたい…

 教室では姿を見ることしかできない遠い存在。

 常にその他大勢の一人として扱われるカサンドラだけど。


 この部屋の中ではカサンドラを個別に認識してくれる。

 その他大勢ではなく、生徒会メンバーの一人と扱ってくれる…ような気がするのだ。


「そうなんだね」


 王子は特に疑う様子もなく頷いた。


 カサンドラは自分の机へ向かおうとして、ふと二人の前に広げられている書類へ目を留める。

 普段の生徒会書類とは少し様子が違うように見えた。


「一体、何のお話をなさっているのですか?」


「ああ、これ?」


 ラルフは手元の紙へ目を落としながら、少し困ったような顔で眉尻を下げた。


「今年度は学園に対する寄付が、予想していたより随分多かったらしくてね。

 一部を学生のために使いたいから、生徒会の方でも何か案を出してほしいと言われているんだ」


「案、ですか?」


「新しい施設を作るのもいいんじゃないかという話でね…」


 カサンドラは思わず、ラルフと書類を交互に見た。


 確かに今年は王子が入学する年だ、ここで奮発せずにどこで出すと言わんばかりに各家から寄付金が届いたのだろう。

 恐らくレンドールでも王立学園のために少なくないお金を寄付している…と思う。


 寄付金の使い道を学生に考えさせるだけでも驚きなのに、新しい施設の案まで生徒会へ求めるとは。


 ――この学園、生徒に与えられている裁量が大きすぎないだろうか。


 考えていることが顔に出ていたのか、ラルフも苦笑いだ。


「もちろん、最終的に決めるのは学園側。

 ただ、実際に使う学生の意見も聞きたいんだとか」


「折角いただいた厚意でもあるからね。

 出来るだけ多くの生徒にとって役に立つものにしたいと思って、いくつか案を検討しているんだ」


 王子の言葉を聞きながら、カサンドラも机の上へ視線を落とした。


 談話室。

 自習室。

 屋内運動施設。

 既存設備の増築。


 思っていた以上に本格的な話らしくて驚いた。


「今は聖誕祭の準備で忙しいから、話はその後になるけれどね。

 一応、いくつかの候補は事前に考えておきたくて」


 なるほど、そんなことまで全部生徒会に降りてくるのなら忙しいはずだと思う。

 特に大きな金額が動くとなると、学園側との慎重な対応が必要になるだろうし。


 カサンドラは二人の負担を減らすために何かないかと考え――


「過去にも似たようなお話があったか、お調べしましょうか?」


 と、提案した。


 以前にも寄付金を利用して何か施設を設けた例があるなら、その時の記録が参考になるかもしれない。

 毎年の話ではないだろうが、今の国王陛下が入学した当時も同じような状況になったはず。


 王子はカサンドラの提案に、少し表情を明るくした。



「それは助かるよ。

 ありがとう、カサンドラ嬢」


「すぐにお調べいたしますね」


 ただ礼を言われただけなのに、胸の奥が少しだけ浮き立つ。

 自分にできることなど限られているけれど、少しでも彼の負担を減らすことができればいい。


「でも、今日中でなくて大丈夫だからね。

 私達ももう帰るところだったんだ。

 さっきも言った通り、まだ先の議題になる。

 君の手が空いている時で構わないよ」


「承知いたしました」


 元々は適当な理由をつけて少し顔を出すつもりだったのに、これで本当に調べる用事まで出来てしまった。


「それでは、私はこの後にも予定があるから」


 王子が机の上の紙をまとめて立ち上がり、ラルフもそれに続く。

 チラっと紙面を確認すると、思わず固まってしまうほどの額が記載されているのが視界に入った。



   …全校生徒が集まれるダンスホールでも建てるのかな…?



 と、一瞬で真顔になりそうな額である。


「見つからなければそれで構わない。

 ――だから、無理して調べなくてもいいからね」


 学園の外の馬車寄せに迎えの馬車が来ていることは間違いない。

 何も言わずに生徒会室に寄っているのだから、確かに長時間御者を待たせるのは宜しくないだろう。

 待つことも彼らの仕事とは言え、待たせっぱなしは可哀想だ。


「はい。お二人とも、お気をつけて」


「また明日」


 まるで絵画の世界から飛び出してきたような美形二人が部屋を出ていく。

 『そこに立っているだけで空気が華やぐ』とは、まさに彼らのことを指すのだろうな。


 扉が閉まった途端、生徒会室は急に静かになった。


 カサンドラはしばらく、その閉じた扉を見つめていた。


 また明日。


 同じ学園へ通っているのだから、当たり前の挨拶に過ぎない。


 それでも何故か、その一言だけで嬉しかった。


「……ふふ」


 ああ、生徒会室に寄って良かったと心から思う。

 カサンドラは、緩みかけた口元を慌てて引き締めた。


 自分から申し出た以上、早めに確認しなくては。

 御者には悪いが、本当に仕事ができたのだからしょうがない。


 カサンドラは資料棚へ向かい、過去の記録を探し始めた。

 寄付金、施設整備、増築。その辺りの言葉を頼りに背表紙を確認していくと、やがてそれらしい年度の記録が見つかる。


 机へ戻って頁をめくるうちに、調べ物そのものにも意識が向き始めた。


 それでも、ふとした瞬間。


『ありがとう、カサンドラ嬢』


 先ほどのアーサーの声が蘇る。


 また口元が緩みそうになり、カサンドラは小さく息を吐いた。


 集中しなければ――そう思って資料へ目を戻してから、しばらく経った頃だった。


 廊下から足音が近づき、ほどなくして扉が勢いよく開いたのだ。


「アーサー、いるか?」


 聞き覚えのある声に、カサンドラは顔を上げる。


 扉から覗く鮮やかな赤い髪を見た瞬間、胸の中にまだ残っていた穏やかな余韻が、一気に現実へ引き戻される。


 ……もう少しだけ、一人で浸っていたかったのだけれど。

 余韻が一瞬で霧散した。


「王子でしたら、少し前に出られました」


「あー、なんだ。

 もう行ったか」


 ジェイクは部屋の中を見回してから、壁時計へ視線を向ける。


「ライナスと話し込んで遅くなったし、しょうがねーな」


 既に訓練服から制服へ着替えているものの、赤い髪は普段より少し乱れている。

 口調から察するに、剣術講義が終わった後も知人との話がかなり弾んでいたのだろう。


「王子はこの後にもご予定がおありだと仰っていましたね」


「報告ついでに一緒に王城まで行こうと思ってたんだけどな。

 んー…一人なら、馬で行くか」


 ジェイクはそれほど残念そうでもなく肩をすくめた。

 彼らが頻繁に王城に顔を出していることは分かっていたが、遠くまで大変だと思う。


 そのまま踵を返したジェイクへ、カサンドラも「お気をつけて」と声を掛けた。


「ああ」


 二歩ほど歩いたところで、不意にジェイクの足が止まる。


「……そういや」


「どうかなさいました?」


 肩越しに振り返った彼は、何かを思い出したような顔をしていた。


「俺、お前に借り返してなかったな。先週の金曜のヤツ!」


 そこまで言われて、カサンドラもようやく思い出した。

 ジェイクが大量の書類を書き写していた時、あまりにも大変そうだったため、少しだけ手を貸したのだ。


「どうか気になさらないでください。

 わたくしが勝手に申し出たことですし」


「借りを作ったままなのは嫌なんだよなー。

 落ち着かないしさ、何かないか?」


「何か、と仰いますと?」


「欲しいもんとか、俺に出来ること」


「いえ、ございません」


 いざこうして「お礼」を考えろと言われると困ってしまう。


 少し書き写しを手伝った程度で、いちいち大袈裟だなぁ…

 というのが正直なところだ。


 だが、一方的に助けてもらった状態がモヤモヤするというのも、理解できないわけではない。

 律儀だし、根が真面目なんだろう。


「では、お気持ちだけ――」


 そう断ろうとして、カサンドラはふと口を閉じた。

 ジェイクだからこそ、知っているかもしれないことがある。


 彼に王子との仲に関して言及されたくないし、仲を取り持ってほしいなど微塵も思っていない。

 だが…

 ジェイクは王子の親友だ。

 自分より遥かに王子の趣味嗜好に詳しいのは自明の理。


 本来なら到底聞けた話ではないが…借りを返してもらうという体でなら、恥を忍んで尋ねることができるかもしれない。

 いや、今しかない!


 ジェイクなら、カサンドラの知りえない彼の情報を沢山持っているはず!


「……いえ。一つ、お願いしてもよろしいですか?」


「おう。何だ?」


 机の上に開いていた資料を閉じ、カサンドラはジェイクへ向き直った。


「王子がお好きなものを、何か教えていただけませんか?」


 それまで気の抜けた様子だったジェイクが、僅かに表情を変えたのだ。


「……は?

 アーサーの?」


「はい」


 ドキドキ。

 カサンドラは、決死の覚悟で頷いた。


「何で?」


 短い問いだった。

 さっきまで普通の態度だったのに、王子の話になった途端。

 彼はどこか不審そうな表情でこちらを見下ろしてくる。


「何故、と仰られましても……」


「――んなの、アーサー本人に聞けばいいだろ」


 だが、カサンドラの勇気は警戒の色が浮かぶジェイクに完璧に撃ち落とされる。

 取りつく島もない、という表現の方が合うだろう。


 自分のことならいざ知らず、友人の情報をホイホイとまき散らすようなタイプではないということか。


 本人に聞けないようなことを自分に聞くな、というのは真理であるが…


「それが簡単に出来れば、ジェイク様にお願いしておりません!」


 ここであっさり退き下がるなんてできない。

 カサンドラはジェイクに食い下がった。


「お前らのことは知らんけどさ。

 婚約者なんだろ?」


「……。」


 どう説明したものかと迷いながら、カサンドラは小さく息を吐いた。


「王子とお話し出来る機会そのものが、それほど多くありませんから。

 そもそもわたくしが王子と初めて会話らしい会話をしたのは、入学してからなのですよ」


 するとジェイクは視線をカサンドラから、斜め上の天井に上げる。


「あー、そっか。結構最近の話だっけ?」


 本気で興味がないのか、ジェイクは首を捻りながら脳内に記憶を捻りだしている様子だ。

 

「いくら借りがあるっつっても、俺のことならともかくアーサーの話はしたくねーよ。

 お前だって嫌だろ?

 知らないところで、自分の情報がバラまかれるのはさ」


 確かにジェイクの言うことはもっともだ。


 本人の口から直接聞いたものではない、他人を通した話は所詮噂の域を出ない。

 自分の与り知らぬ場面で自分について語られることを嬉しいなんて思えないのだから。


「直接ご本人に聞けないから、貴方にお願いしているのです」


「……。」


 どんなに言い訳を並べてそれらしさを演出しようとも、それではジェイクは納得しないのだろう。


 ……理不尽だ、とも思う。

 今のカサンドラは、ゲームの体験を通じてジェイクやラルフ、シリウスたちのもつ悩みや秘密、過去を知っているのに。

 でも、王子のことだけ表面でしか分からない。


 通り一遍の「噂」程度の知識しか持っていない、一番知りたい人のことが何も分からない。


 

「……ジェイク様」


 カサンドラの生来のプライドはとても高い。

 峻険な山脈のように、弱みを見せたくないという気持ちがとても強い。

 その性状に逆らうような言葉を紡ごうとすると、全身が拒絶するような感覚さえ湧き上がってくる――


 けれど、折角掴んだ王子を知るチャンスを、一つでも無駄にしたくはない。


「好きな方のことを知りたいと思うのは、良くないことですか?」


「――はぁ?」


 ジェイクは橙色の双眸を僅かに見張り、ぎょっとしたような顔をする。

 右足を半歩後ろに引いた。


 この世界の住民には分からないのだ。

 登場人物の恋愛において、一般的に地雷選択肢という概念がある――それがどこまで王子に反映されるか分からないけれども。

 相手のことを深く知らない内に図々しく相手に踏み込もうとすれば、相手を傷つけて拒絶されてしまう。


 ジェイクにだって、今の段階では触れてはいけない話題がある。

 それをカサンドラは、何周も彼を攻略しているから「知っている」のだ。


 同じように、下手に王子の内面に踏み込んで探ろうとして、地雷な話題だったらどうする!?


 そこまで現実に影響を及ぼすのかは分からないが、ゲームを再現した世界ということを考えればどうしても慎重にならざるを得ない。

 人生にロード機能は未搭載、対応を間違ったからって週の頭まで巻き戻ることはない。


 全部を説明できない、だからもどかしささえ感じる。


 だから彼の情に訴えるしかない。


「わたくしは皆様のように、王子と気兼ねなくお話し出来るわけではありません。

 あの方のことを一つでも知りたいと思うのは、非常識なことですか?」


 はっきりと、誤解されない言葉を選ぶ。

 揶揄する隙さえ与えないよう、真摯な姿勢を貫いた。


「……あー、もう分かった。分かったから!

 その辺にしてくれ。

 俺にそういう話されても困るんだよ!」


 ジェイクは右腕を突き出し、今にもカサンドラの口を塞ぎそうなほど動揺している。


「俺、そういう話ほんと苦手なんだよ。

 誰が誰を好きとか、マジでどうでもいいし」


 どうでもいい?

 恋愛感情をどうでもいい(・・・・・・)と?



 ――乙女ゲームの攻略対象にあるまじき発言に異議申し立てをしたくてたまらない。



    終盤の君たちはめっちゃ溺愛型ですが!?

    ああ、ジェイクはどっちかというと過保護型か…?

    そこまで差はないと思うが。



 言いたくないことを言わされ、しかも乙女ゲームの攻略対象にここまで否定されなければいけないのはかなり心が締め付けられる。


 だが真実を伝えられないのなら、感情に訴える他思いつかなかった。

 どんな言い訳を並べたって、「本人に聞け」で跳ね返されたら一歩も前に進めない。



「……はぁ。

 何か言わない限り、解放されそうにねーし…分かった。

 ただし、俺が勝手に話しても問題なさそうなことだけだぞ」


 ジェイクは観念したかのような表情で、大きく吐息を落とした。

 


「はい! ジェイク様のご良心に悖らない範囲で結構ですので。

 …貸しをおひとつ、返してくださいませ」



「突然そう言われてもなぁ…

 うーん」



 数秒瞑目し、ジェイクはようやく言葉を続けた。




「俺ら、入学してから寮生活だろ?」


「存じております」


「俺は毎晩、中庭で訓練してるんだけどさ。

 …よくアーサーと会うんだよな」


「中庭…ですか」


「で、ふと気づくと、樹の下にアーサーが座ってて――空を見上げてんだ」


「まぁ、夜空を…?」


「そういうのが何回かあったし。

 アイツ、星を見るのが好きなんじゃね?」


 夜空を見上げる王子の姿を想像しただけで、大きく心臓が跳ねるほどにはピッタリなイメージ!

 陽の光を浴びる王子しか見たことがなかったが、月の光に照らされて星空を見上げる王子も間違いなく幻想的な雰囲気だろう。


「ジェイク様。

 貴重な情報、感謝いたします」


 思わずカサンドラは笑顔になってしまった。


 全く想像もしていなかったし、知る術もない話。

 今度王子とお話しする時に星の話をしてみてもいいかもしれない、自分も星空について調べよう!


 「王子はこちらがお好きですよね」と直球で聞くよりも、たまたま好きなことや興味がある分野が同じで、そこから話題が弾む方が絶対に自然だしスムーズだ。



「…じゃあ、これで借りは返したからな。

 もう変な事聞くんじゃねーぞ」



 完全に脱力した様子でジェイクは今度こそ背中を向ける。




 正直、ジェイクに王子のことを知りたいだの、好きだのとストレートに言うのは抵抗があった。


 けれど――これは勝ち負けではない。

 少なくとも、カサンドラが王子について知りたがっている理由くらいは伝わったと思いたい。

 王子に対して害意がないと伝わったのなら、もうそれでいい。


 決して無駄なことではなかった…はず。




「……。」



 でも生徒会室に一人残された後、自分の発言を思い返して一気に顔が熱くなる。


 窓の外は、いつの間にかすっかり夕陽に染まっていた。






  ――好きだから知りたい。







 ああ、自分はこんなに『好き』なんだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。