17話 猫耳少女は仲間を守るために戦う 2
痛みが全身に走るが、私は我慢するようにそれを噛みしめて、アンナを抱きかかえる。
そのまま、隣のルークの部屋の扉を突き抜けて、奥の壁まで転がって止まった。
「はあ……はあ……げほ、げほ」
口から赤い命の源を吐き出しながら、息を整える。
ぎり致命傷は避けたけど、このまま戦うのは、私が不利だな。
「お姉ちゃん、大丈夫!?」
私の膝の上でアンナが、心配そうにこちらを見上げていた。
てか、みんな眠っているのに、アンナはどうして起きているのだろうか。
ティアラも、ルークも、グラットも目を覚めないのに、アンナはどうして……。
そんな考えが浮かび上がってきたところで、私は首を振る。
今はそんなこと考えている暇はない。アンナも守りながらどうやって、戦うかを考えないと。
とりあえず、不安にさせないように、私は痛みに耐えながらアンナに向けて、笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ。私、強いから……はあ……はあ……」
「で、でも、ち、血が出てるよ……」
アンナの手が私の血で赤く染まっている。
なんとか、血を止める方法を見つけないと……。
「そうだよ、お姉ちゃん。血が出てるのに、まだ死なないの?」
気づけば目の前に、少年の悪魔が三叉槍を縦にして、立っていた。
狂気に満ちた笑みが、アンナを震えさせる。
「大丈夫だよ……私が……なん、とかするから」
アンナの頭を胸元に寄せて、強く抱きしめる。
恐怖を与えないように、不安を与えないように、強く抱きしめて、私はエイブルを睨みつける。
「そんな目で睨みつけないでよ。楽しくなっちゃうじゃん」
まだ、剣は握れるし、立つことだってできる。つまり、私はまだ戦える。
膝の上に座ったアンナをどかして、私は立ち上がった。
「みんなを守るために、私が……戦う……はあ、はあ」
「そんな状態で僕を殺せるの? 無理じゃない?」
言って、エイブルはすっと軽々しく飛ぶ。
壁や天井をすり抜けて、私たちの部屋の方へと、移動する。
そして、槍を寝ているアンナに向けた。
「な、なにを!」
「もう動けないでしょ。だったら、お姉ちゃんの友達が死ぬところを見て、一緒に死んだらどう? 仲、いいんでしょ?」
じわじわと槍の先端がアンナの首元に近づいていく。
私はそれを見て、息を吸いながら、剣を鞘に納める。
「おっと、諦めちゃったかな?」
「はあ……」
息を吐いて、エイブルを視線の先に捉える。
悪魔に耳を貸す必要はない。落ち着け、落ち着け……女の悪魔ヴェレットを真っ二つに斬った時のような速さで動ければ……。
私はゆっくりと柄に手を置いて、剣を構える。
「もうすぐで、刺さっちゃう! 刺さっちゃう! 死んじゃうよぉ!」
「ころ……せない」
「ん? なにか言ってるのな? 聞こえないよ友達の最後にかける言葉ははっきり言わないと」
「殺させない!」
ひびが入るぐらいの力で、床を蹴って、私は悪魔の方に一直線に突っ込む。
閉じかけた扉を破壊して、私は一瞬で悪魔の目の前に移動した。
悪魔の赤い瞳が大きく開かれる。
そして、私は鞘から剣を抜く。
――――抜剣。
剣を横ではなく、下から上に縦に振り上げた。
「は?」
ティアラに槍を向けていた方のエイブルの手が、切り落とされる。
そして後ろに回り、私はすぐさま振り向きざまに、蹴りを入れた。
反応できずにエイブルは、壁へと吹っ飛ぶ。
すり抜けることなく、壁に穴をあけて倒れる。
三叉槍は宙を舞って、床の上に突き刺さった。
斬られたエイブルの片手は張り付くように、未だに握りの部分を握っていた。
「はあ……はあ……なんとか……」
ぽたぽたと床の上に私の赤い血が、垂れる。
視界が徐々に霞んでいく。
このままじゃ、私が間に合わない。なにか……なにか……助かる方法を……。
「キュー……」
微かに、キューの鳴き声が聞こえて、私はキューが倒れていることを思い出す。
私は、そっと倒れたキューに近づく。
この子なら……。
☾ ☾ ☾ ☾
「クッソ……ちょっと油断しちゃったな」
エイブルはゆっくりと立ち上がり、笑みを浮かべる。まるで、今の状況を楽しんでいるかのようだ。
私は、起き上がった悪魔に剣を向ける。
気づけば、さっき切り落とした腕はすでに再生している。
「やるね、やるね。お姉ちゃん、本当に強いんだね! だけど、もう動くのはきつくない? だって、ここの傷痛いでしょ?」
自分の脇腹を指さして、エイブルは不気味な笑顔で言った。
私はその不気味さに屈しないように、精一杯に笑顔を作って、答える。
「その傷ならもう大丈夫」
「はぁ?」
エイブルの表情から笑顔が消え、怪訝そうな、不愉快そうな、とにかく自分の思い通りにいかなかったからか、不機嫌な顔をする。
そんなエイブルに向かって、私は傷の部分を見せた。
「ほら、これでもう血は出ないよ」
私の頭の上にキューが乗って、叫ぶ。
「キュー!」
今、私の脇腹の傷穴はキューによって、無理やり塞いでいる。
さっき倒れていたキューの形が、普段のまん丸ではなく、少し形が変形していたことを思い出したのだ。
こうすれば、これ以上血を出さなくて済むから、まだ戦える。
痛みはあるけど、これくらい慣れっこだ。
「それじゃ、キュー一緒に戦おう」
「キューキュー!」
私とキューは目の前の敵を睨みつける。
不機嫌な表情で、エイブルは赤い眼光で私たちを睨み返してきた。
「殺す。殺す。殺す。絶対にぶち殺すよお姉ちゃん
殺意が、狂気が、怒りが、すべてのエイブルの今の感情が伝わってくるかのように、私の肌はピリピリと痺れるような感覚に陥る。
今までに感じたことのない、圧倒的な力の圧力に、私の足は一歩引きずるように下がる。
自分の中でそれじゃダメだと思い、無理やり下がった一歩を前に動かす。
そして、勇気を振り絞って、私は口を開いた。
「かかってきなさい。今度はさっきのようにはいかないから!」
絶対に私がみんなを守る。




