15話 猫耳少女は夢の中 3
お兄ちゃんはお兄ちゃんで、私は私だ。
だから今、私がいる世界が偽物だとわかってしまった。
夜が明けて、私の頭の中はすっきりとしていた。
目の前には、すでに森の出口が見える。
淡い光に包まれて、私は目を細めた。
光を抜けると、やっぱり見たことがある光景が広がっていた。
青い空と緑の大地が、永遠に続いているのかと思うぐらいに広がっていた。
そこにぽつんと城壁が見えた。
強く吹く風を私は思いっきり吸い込む。
偽物と思えないぐらい、気持ちよくて、綺麗だなと思った。
そこで、ようやく私はこの世界が偽物だと確信する。
だって、この景色を見て抱いた感情は初めてじゃない。
先を歩くお兄ちゃんが、振り向いて優しい笑みを浮かべる。
「フィスト、あと少しで、一つ目の国に到着するね」
「そうだね……」
初めてじゃないけど、お兄ちゃんと一緒に見たこの景色は初めてだ。
不思議とこみ上げてくる感情を抑え込みながら、私はお兄ちゃんを真っ直ぐと見つめる。
「お兄ちゃん」
「ん? どうしたフィスト?」
「私……私、一緒に旅する友達がいるんだ」
震える口調で、私はゆっくりと言葉を紡ぐ。
お兄ちゃんはそんな私の言葉を静かに聞いてくれている。
この世界が偽物だと確信したからなのか、私の体は徐々に透けていく。
もう少しで、私は元の場所に戻ることができるだろう。
その前に、目の前の偽物だけど、私のお兄ちゃんに言いたいことがあった。
行ってきますと一度伝えた。
だけど、この長い旅の中で、私はさらにお兄ちゃんに伝えたいことがあった。
「なに言ってるか、お兄ちゃんはわからないかもしれないけど、私、今毎日が楽しいんだ。だから、戻らないといけない」
視界が揺れている。やっぱり、我慢できなかったな……。
「私、お兄ちゃんのことや国のこと、家族のことが大切なのは今でも変わらないよ。だけど、今は新しい大切なものが増えたんだ。それが、今の友達」
ティアラやルーク、グラットが今の私にとって大切だ。
この夢を見せているのは、私の心が見せたものなのか、誰かの手によって見せられているのか、私は確認しなくちゃならない。
大切なものを守るために。
「だから、行かなきゃ。ごめんねお兄ちゃん。旅の途中でこんなこと言って」
すると、お兄ちゃんは優しく笑みを浮かべたまま、首を振る。
「フィスト、謝るな。フィストが決めた選択だ。俺は背中を押すことしかできない」
風に髪を揺らし、真っ直ぐと私を見つめる。
その表情は、ビスタリア大森国を出た時に、見送ってくれたお兄ちゃんの表情をしていた。
「――――だから、頑張れフィスト。俺は一人でも大丈夫だ」
「う、うん。またね! 旅が終わったら、必ず長い旅の話をするから!」
この言葉は、偽物のお兄ちゃんに向けた言葉ではない。
現実で私の帰りを待っているお兄ちゃんに向けて、私は言っていた。
それなのに、現実のお兄ちゃんと同じような返事を返してくれた。
「うん。楽しみに待ってる」
体は偽物の世界から完全に消えて、私の意識はそこから離れた。
☾ ☾ ☾ ☾
目を覚まし、涙を拭って、私は起き上がる。
すると、目の前に人影があり、寝ているティアラの首元に三叉槍を向けていた。
壁際にはキューが倒れている。こいつにやられたのか。
ベッドの横に置いた剣をすぐに取り、私は鞘から素早く抜く。
裸足のまま、敵に向かって剣を横に薙ぐ。
「おっと、いきなりなんだ?」
くるっと一回転して、敵は窓際の方へと飛び移る。
「あなた、誰……」
「僕は悪魔のエイブル……お前らを殺しに来た」
「悪魔……」
少年のような見た目をした悪魔は不敵な笑みを浮かべる。
どうして、悪魔がいるのだろうか。
わからないことは、それだけじゃない。
なぜ、ティアラは光っているのかわからないし、キューはずっとなにをしていたのかも疑問だ。
だけど、今はそんなことよりも目の前の悪魔と向き合わないと。
すべての疑問は、目の前の悪魔を倒してからだ。
もしかしたら、そういうことは戦っている内にわかることかもしれない。
深呼吸をして、私は悪魔を睨んだ。




