14話 猫耳少女は夢の中 2
気づけば辺りは暗くなり、森の中は冷たさと静けさで包まれた。
目の前には、赤い光が私を優しく温める。
私は焚火の光を一点に見つめていた。
頭の痛みも治まってきて、徐々に落ち着いてきた。
深呼吸をして、私は考え事をする。
青髪の少女も、とんがり帽子の魔法使いも、つばと先端が長い帽子をかぶった男も、知っている。
だけど、それを思い出せば、思い出すほど、私は大事な記憶を失っていることに気づかされる。
だけど、それを思い出したらダメなようにも思えて、私は迷っていた。
そうしていると、お兄ちゃんが隣に座ってきて、心配しているような声色で話しかけてくる。
「フィスト、頭の痛みは治まったか? 明日には森を抜けて、国に着く予定だから、頑張ろうな」
「うん……明日には元気になってると思うよ、お兄ちゃん」
「本当に体調が悪いなら、俺は一度家に戻っても……」
「それは、大丈夫。せっかく一緒に旅ができたのに、戻りたくない……」
ずっと、ずっと夢だったのに、戻ったら親からの心配で、またしばらく旅ができなくなるかもしれない。
最悪、一生旅に出られないかもしれない。
そうなるのは、避けたかった。
お兄ちゃんは笑みを浮かべて、優しく言ってくれる。
「そっか、それなら今日はゆっくり休んでくれ」
「うん……ありがとう。お兄ちゃん」
私はそっと、お兄ちゃんの肩に頭を預ける。
すると、頭の上に手が置かれて、そっと撫でられる。
私の居場所は、やっぱりここなんだ。
優しいお兄ちゃんの横が私のいる場所なんだ。
頭の中に浮かぶ、この記憶は偽物……。
そう思おうとして、踏みとどまる。
なぜだか、それをしたら本当の大切なものを手放してしまいそうな気がして、怖かった。
こっちが本当のはずなのに、頭の中に浮かぶ記憶が忘れてはいけないと思ってしまうこの感じはなんなのだろうか。
――――一緒に戦おうフィスト。
ふと、焚火の明かりに視線を向けた。
誰かが、私に手を差し伸べようとしていたような気がする。
弱くて、情けなくて、一人ぼっちだった私に震える手を差し伸べてくれた人を知っている。
だって、私はその手を取った記憶があるからだ。
どうして、私は……。
☾ ☾ ☾ ☾
「――――はっ!?」
飛び上がるように目を覚まして、私は激しく息を吐いた。
隣に座っていたお兄ちゃんは、心配しながら声をかけてくる。
「フィストどうした? 大丈夫?」
「はあ……はあ……ちょっと嫌な夢を見ちゃって……」
どういうことだろう。
記憶の中で、父様がベルガンドに殺されている光景が浮かんだ。
お兄ちゃんと私は敵を取るために、ベルガンドに挑むが、圧倒的力の前に敗北してしまう。
そして、お兄ちゃんはベルガンドに捕まり、私は一人森の中を必死に走っていた。
この記憶は、嘘だ。ありえない。
私とお兄ちゃんが旅を始めた時、父様は笑顔で見送って……。
あれ……?
父様は、どんな顔をしていたっけ?
あれ……あれ……おかしい。
どうして、父様の顔が浮かばないの?
自分の頭を掻きむしりながら、私は混乱する。
「フィスト! 本当にどうしたの?」
お兄ちゃんの声に、私の手がぴたっと止まる。
しばらく、固まり呼吸が落ち着いてくる。
心配そうな表情を浮かべるお兄ちゃんに、私は声をかける。
「大丈夫、ちょっと頭の中が混乱してて、あせちゃった」
「そっか、それならいいんだけど……」
やっぱり、お兄ちゃんの声は安心するな……。
ずっと聞いていたい、ずっと一緒にいたいと思ってしまう。
「お兄ちゃん、一個聞いていい?」
「いいよ」
「もしもの話だよ。もし、お兄ちゃんが王様になって、私が一人で旅に出るか、出ないかで迷っていたら、なんて言ってくれる?」
「うーん……」
しばらく考えてから、お兄ちゃんははっきり言った。
「俺は多分、背中を押すよ。フィストが出ないと決めても、無理やり背中を押すよ。だって、俺はフィストが旅に出たいって気持ちを知っているからね」
「そっか……教えてくれてありがとう」
本物だ。お兄ちゃんは本物だ。偽物なんかじゃない。
だからこそ、私は今を見ないといけない。
だって、お兄ちゃんは私の背中を押してくれたから。
「どうして、そんなことを聞いたの?」
「秘密!」
言って私は、笑った。




