13話 猫耳少女は夢の中 1
柔らかい光に包まれながら、ゆっくりと目を覚ます。
小刻みに揺れる感覚が心地よくて、私はもう一度、瞼を閉じそうになった。
だけど、視界に入った白い髪を見て、私は声を上げた。
「グレイスト兄様!?」
「お! 起きたかフィスト。てか、兄様はやめてくれよ。俺たちは兄弟で旅をしてるんだから、堅苦しい呼び方はやめてくれ」
夢を見ていたような気がする。
どんな夢か思い出せないけど、誰かと旅をしているような……そんな、曖昧な記憶。
とても大事な記憶な気がするのに、はっきりとしない。思い出そうとするたび、なぜか、その夢の記憶は遠のいていく。
「ん? フィストどうしたんだ?」
「いや、なんか長い夢を見てたなって思って。それより、お兄ちゃんこそ大丈夫?」
「兄様」と呼ぶのはやめて、私は「お兄ちゃん」と呼ぶ。
ビスタリア大森国では、様をつけないといけなかったが、今は旅をしているから、そんな縛りからも解放されたのだ。
「俺は大丈夫だよ。そろそろ自分で歩くか?」
眠そうにしていたから、お兄ちゃんは私を背中に担いで歩いてくれていたのだ。
「うん! いっぱい寝たから元気が出たよ!」
背中から降ろして、私たちは並んで森の中を歩き始めた。
ゆったりと空に浮かぶ雲に、風で揺れる木々の音が心地いい。
視界に入るものすべてが、新しく感じて、私は心からお兄ちゃんとの旅を楽しんでいた。
それもそのはず、私たち兄弟はようやく、夢が叶った。
兄妹二人で、世界を旅しようという小さい頃からの約束が叶ったのだ。
眠っていたせいで、起きていた時の記憶が曖昧で、お兄ちゃんに聞く。
「お兄ちゃん、今はどこに向かって歩いてるんだっけ?」
「今は、びす大森林を抜けるために歩いてるんだよ。抜けたらすぐに、ピスタニア王国の国境が見えてくるから、そこに向かってるんだよ。寝すぎて忘れちゃったのかな?」
「う、うるさい! 仕方ないでしょ」
「まあ、そうだね。いつもなら剣を振って、二人で稽古してる時間だから、こうやって歩くってのも、慣れないよね」
空をあおって、遠い目でお兄ちゃんはなにかを見つめる。
その姿は、普段から夢を追いかけていた姿とは違う。
やっぱり、お兄ちゃんも私と同じで、夢を叶えたという実感を噛みしめているのかもしれない。
しばらくお兄ちゃんのそんな姿を眺めて、私もまた夢が叶ったという実感を噛みしめた。
☾ ☾ ☾ ☾
「ピスタニア王国って、なにがあるんだろう?」
私が疑問になりながら、聞くとお兄ちゃんは優しく答えてくれる。
「父様が言うには、武器がたくさん売っているそうだよ」
「そうなんだ……」
知っている。私はピスタニア王国を知っている。
遠のいていく記憶の中で、ピスタニア王国の街並みがなんとなくわかる。
色とりどりの屋根と三枚の城壁が街を守っている国。
しかも汽車まで走っている。
汽車……汽車ってなんだっけ?
青い瞳を私に向けて、微笑むお兄ちゃん。
「フィスト楽しみだね!」
色々、頭の中で考えるがお兄ちゃんの楽しい雰囲気に引っ張られて、考えるのをやめて、私は笑みを浮かべる。
「うん! すごくわくわくしてる!」
そんな言葉を言った時だった。
頭に突然、痛みが走り、その場で足を止める。
脳裏には、記憶にないはずの記憶が流れる。
青い髪の少女ととんがり帽子をかぶった魔法使い。それに、つばと先端が長い帽子をかぶった男。
みんな、知っているような、知らないような、そんな曖昧な記憶が私の脳を刺激する。
「う……なにこれ……」
足を止めた私に近寄って、お兄ちゃんは優しく声をかけてくれる。
「フィスト、どうした?」
「ちょ、ちょっと頭が痛くて……」
「そろそろ、夜も近いし、この辺で野営にしようか。俺は準備するから、フィストはゆっくり座ってて」
「わ、わかった……」




