12話 妖精と月の神
――――キュー起きてください。
「キュー……」
――――キュー起きてください。
「キューキュー……」
重たい瞼をゆっくりと開けて、キューは目を覚ます。
視界いっぱいに広がる、月のような優しい光に、目を見開く。
ティアラに抱きかかえられて、布団の中にいたキューは驚くように飛び出す。
光の正体はティアラだった。
「キュキュキュー!」
キューが声を上げると、ティアラの方から優しい女性の声が答えた。
――――私はティアラの奥底にいる月の神です。
「キューキューキュー?」
――――この声は、あなたにしか聞こえていません
「キュキュキュー?」
――――これは、ティアラが悪魔の力に抗っているのです。キュー、あなたはこの国に来た時から感じていたでしょ。悪魔の魔力を。
キューがルーンナイトリス王国の城壁をくぐって、最初に感じたのは悪魔の魔力だった。誰よりも先に、異変に気付き、それを伝えようとしていたのだ。
国中には、悪魔の魔力が漂い、それが人間の体に入ることで、なにかしら危険が迫っているとキューは察知していた。
だから、街中を歩いている時はティアラたちに危険が起きないように、キューはずっと魔力を吸うことで、みんなを守っていた。
マナフィリムの性質上、吸った魔力はすぐに自分の魔力に変換できる。ある一つの魔力を除いて。
――――キュー、あなたに頼みたいことがあります。
「キュキュキュー?」
――――それは、これからあなたはティアラの中にある神の魔力を、フィストに流してあげてください。そうすれば、フィストは夢から覚めるはずです。
「キュキュキュー、キュキュー?」
――――みんなは今、悪魔の力によって夢を見せられてます。どんな夢を見せられてるかは私にはわかりませんが、手遅れになると、悪魔の力によって操られてしまいます。
「キューキュー」
――――今、ティアラたちを助けられるのは、キュー、あなたしかいません。だから、お願いします。
「キュー……」
キューがティアラについて行こうと決めた理由、それは妖精として、誰よりも強く、誰よりも優しくなりたかったからだ。
妖精は、人に優しく、人より強くなくてはならない。
妖精の森、フェアーリアにいた時、キューは自分の弱さをこれでもかと思い知らされた。
毎日、魔物に襲われ、そのたびに他の妖精に助けられ、何度も笑われた。
情けなくて、弱くて、毎日涙を流していた。
そんな時、ティアラに出会った。
戦う時に、震えながらも立ち向かおうとするその姿にキューは感銘を受けたのだ。
自分もこんなふうになりたいと心からそう思ったから、キューは今この場にいる。
――――キュー大丈夫ですか?
「キュキュキュー!」
任せろ! そう言って、キューはティアラの寝るベッドと、フィストが寝るベッドの間に立つ。
まん丸とした体から、管のように細い線を伸ばす。
それが、ティアラとフィストを同時に触れる。
マナフィリムの特性、それは吸った魔力を譲渡することができるところだ。
それに加えて、普通の魔力や悪魔の魔力とは違い、神の魔力はそのまま流すことができる。
つまり今、キューはティアラの中で抗っている神の魔力をフィストにも流し、悪魔の力に抵抗させようとしているのだ。
――――これで、起きるかはティアラたち次第ですが、私たちはそれを信じましょう。
「キュー!」
初めてできた人間の友達のために、キューは動いていた。
これからもずっと一緒に、心地の良いティアラの頭の上で楽しい旅をするために




