9話 少女は異変に気付く
景色を見終わり、私たちはゆっくりと街の中を歩いていた。
とんがり帽子をプルプルと小刻みに風に揺らされながら、ルークがアンナに話しかける。
「アンナちゃん」
「なんですか?」
「僕たちこれから、ご飯を食べて、宿に泊まりたいんだ。美味しいご飯が食べられる場所と気持ちよく眠れる場所に案内してほしいな」
「かしこまりました! それでは、案内させていただきます!」
ルークの言葉に、アンナは笑顔を浮かべる。
その姿に私はやっぱり、違和感を覚えた。
街ゆく人は、ニコニコと裏表ない笑顔を浮かべているのに、アンナはどこかぎこちない。
人というのは、表と裏がある。
ルークにも、フィストにも、グラットにも、人として表と裏がある。だから、色々な表情を作る。
だから、私が変だと思っているのは、街の人である。みんな表情が一つしかない。
それに比べれば、アンナはまだ人間として自然だ。
どこか不安を感じるようなアンナの表情に、私は少し心配してしまう。
けれど、私がアンナに対して言えることはなかった。
言ったところで、余計なお世話かもしれないし、この国ではこれが普通かもしれない。
私が余計に踏み込むためには、もっと事情を知らなければならない。
まあ、みんな楽しそうだし、その必要もなさそうだ。
私たちはアンナに案内されて、宿へと向かった。
☾ ☾ ☾ ☾
街の中央地点から少し外れた場所に、アンナが案内した宿はあった。
中央地点と比べて、夜道を照らす明かりが少なく、人影もほとんどない。
この静けさが逆に夜っぽくて、私はようやくこの国に来て安心する。
ここまで、街がキラキラしていて、たくさん目移りしたし、たくさん歩いたから疲れたのだ。
「ここが、宿です!」
アンナが指さす方を見ると、大きくて、蜘蛛の糸を引いた建物があった。
街の中の綺麗なレンガの建物とは、全く違くて不安な気持ちが広がっていく。
ルークも戸惑いながら、アンナに言葉を返す。
「こ、ここ?」
「そうですよ! ここが、宿です! ご飯も食べられます!」
建物の扉を開き、アンナはどうぞと言って、私たちを中へと誘導する。
せっかく案内してくれて、断る理由もないので、私たちは警戒しながら中へと入った。
私たちの中でフィストが一番警戒していた。
だけど、私たちの警戒心はすぐに解ける。
理由は、外の雰囲気と違って、中は明るく普通に良い宿のように思えたからだ。
「あれ、綺麗……」
ぼそっと私が呟くとアンナがそれに反応する。
「よく建物の見た目から勘違いされるけど、中は綺麗に掃除してるんですよ!」
アンナの言う通り、室内は蜘蛛の巣どころか埃すらなく、細かいところまで掃除が行き届いているようだ。
「あら、旅人さん連れてきてくれたのアンナ!」
宿の奥から、顔を出したのは頭を三角巾で縛ったおばさんだった。
引きつったような表情で笑みを作って、アンナは言葉を返す。
「そ、そうだよ! 私、部屋に案内するから、お母さんはご飯の用意して!」
「わかったわ。部屋の案内はよろしくねアンナ」
「うん!」
ここって、アンナの家なんだ。
会話の感じだと、家でもあるし、私たちのような旅人が泊まる宿でもあるって感じかな。
私たちは、案内されて部屋に向かった。
アンナのお母さんの表情も一つだけで、少しだけ不気味に感じた。




