8話 少女たちは夜の街を回る
私たちはアンナに案内されながら、ルーンナイトリス王国の街を歩いていた。
街の形は、他の国と変わりなく、特徴といえば夜なのに明るいところだろう。
それと、どこを歩いていても見える時計台があることだ。
私が、時計台を見つめていると、アンナが説明してくれる。
「私たちの国はずっと夜が続くので、みんなあの時計で時間を確認して生活してるんです! ずっと夜だけど、みんな規則のある生活を送っています!」
「へえ……」
ずっと夜だと、生活時間狂っちゃいそうだけど、ずっと暮らしていればそれに慣れるのかもしれない。
「ちなみに今は、時計の針が右に傾いているので、私の感覚では夕方ぐらいです」
「すごい。あってるよ」
「そうなんですか?」
「ん?」
私の言葉に、アンナは不思議そうな顔をする。
その姿に、私も首を傾げた。
どういうことだろうと思い、聞き返そうとすると、一つ目の目的地に到着する。
「ここが、この国一番の酒場です!」
建物の入り口に酒場の看板が立てられ、その横に地下へと続く階段があった。
グラットは、誰よりも先に酒場の入り口に立つ。
「ここが、国一番の酒場か! すごく雰囲気があるな……」
よだれを飲み込み、グラットは期待に目を輝かせている。
その様子を横から見ていたフィストが釘を刺すように言う。
「グラット、あなたまさか、今から飲もうとしてるんですか?」
「別にいいだろ! 嬢ちゃんが今は夕方って言ってるし、飲むには丁度いい時間じゃないか!」
「私たちこれから、まだ国を回るのに? 飲んだあなたを運ぶことはできませんよ?」
「えぇ……」
グラットの方が年上のはずなのに、フィストの言っていることの説得力が高すぎて、しっかりしているように見えてしまう。
つまり、フィストは酒のことしか考えてないグラットに、私たちのことも考えてと言っているのだ。
その様子を見ていたアンナが、パンっと手を叩き、提案する。
「なら、この酒場で瓶一本の酒を買うのはどうでしょう! そしたら、宿の中でも飲めますよ!」
「おお! それは、いいな! なら、酒瓶買ってくるぜ!」
「はあ……これだから、飲みおやじは……」
肩をすくめるフィストの背中を見て、私はルークに声をかける。
「ルークは言わなくていいんですか?」
いつも通りの優しい笑みを浮かべて、ルークは口を開いた。
「僕は、みんなが楽しんでくれるならそれでいいよ。僕もそれが楽しいし」
「そっか……でも、自分の選択もしっかり口にしないとダメですよ」
「それもそうだね。なら、僕はティアラと……」
そこまで言って、ルークは言葉を止める。
表情を見ると、顔が赤くなって、指で頬を掻いていた。
私はそれに気づき、恥ずかしく思いながら、ルークの耳に口を近づけて伝える。
「私もルークと一緒に旅ができて嬉しいです!」
「そ、そっか……」
こんな恥ずかしいこと、大声で言えない。
しばらくして、酒場からグラットが酒瓶を三本持って出てきた。
☾ ☾ ☾ ☾
その後、私たちはフィストが行ってみたいと言った歴史展示場に訪れ、この国の歴史を見て回った。
ルーンナイトリス王国が夜になった理由、それは月の神を信仰しているからだ。
青髪で、美しい容姿を持って、弓で邪悪な存在から守ってくれるらしい。
この国では、神に邪悪な存在から守ってもらうために、夜の結界を張っている。
つまり、この夜の結界はフィストの国と同じように、守りの意味があるのだ。
なんだか、神を描いた絵は夢に出てくる、あの羽を生やした人に似ているような気がした。
そして、最後に私が行きたいと言った景色の良い場所へと、アンナに案内された。
レンガで舗装された階段を息を切らしながら登ると、そこには絶景が広がっていた。
汗ばんだ肌に、微風が当たって気持ちよく感じる。
呼吸を整えて、改めて私は景色に目を向けた。
「綺麗だな……」
夜空に星が煌めき、眼下では夜空を反射する湖のように街の明かりが煌めいていた。
なんだか、私は今、空を飛んでいるようなそんな浮遊感すら感じる景色だ。
「ここで、酒飲んだら最高なんだろうな」
グラットが酒瓶を持ち上げる。
それを見たフィストが、ムッとした表情をする。
「飲まないでくださいよ」
「流石に、飲まないよ。でも……ちょっとだけなら」
「ダメです」
「はい……」
「ティアラ、この景色を見てどう思った?」
隣に並ぶように景色を見ていたルークが話しかけてきた。
私は思ったまんま答えた。
「この景色を見ていると、空を飛んでるように感じます」
「僕は初めて、空を魔法で飛んだ時を思い出したよ」
「それはどういうことですか?」
「なんだか、この景色見てると懐かしさを感じるんだよね。なんでだろ……」
遠くを見つめるように、ルークは景色を眺めていた。
ルークにも初めての経験っていうのはあるわけで、初めから魔法を操るのが上手かったわけじゃない。
ルークは今、そんな過去を振り返っているのかもしれないと思った。
私たちは、しばらく静かにその景色を見つめた。




