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二章終幕 少女たちは汽車に乗り込む

 白いカーテンの隙間から伸びた日差しが、顔に当たり目を覚ました。

 ぼやけていた視界が、ゆっくりと明瞭になっていく。

 布団から出ると、ちょっぴり肌寒い。

 

 太陽が昇り切っていないため、まだ、空は少しだけ暗かった。

 ベッドの中で、フィストのいびきが聞こえてくる。

 そんな中で、私は旅用にウェルトで購入した寝間着から、旅服に着替え始めた。

 

 青色の服に、上からフード付きの白いコートを着て、防寒用の黒い下穿きを穿く。

 部屋の中の壁にはめるように設置してある鏡の前に立って、寝起きでぼさぼさな髪を櫛で整える。

 そして、改めて自分の姿を確認して、笑みを浮かべた。


「うん! 準備できた!」


 私の青い髪がきらきらと光っていた。

 気づけば、太陽が完全に顔を出し、空は青く澄んでいた。


 自分の準備が終わり、私はベッドに近づく。

 フィストが気持ちよく寝ている横に立ち、私は声を上げる。


「フィスト、起きて! 朝だよ!」


「ん……う、うん」


 私は、フィストの両肩を掴み、体を揺らす。


「起きて! 起きて! 出発だよ!」


「わわわわわかってるよよよよ」


 震えるというより、揺れているような声でフィストは返事をする。


「なら、まずは布団から出て!」


 私は思いっきり、布団を捲り上げる。

 

「さ、さぶい……」


 ベッドの上で座りフィストは、呟く。

 髪もぼさぼさで、目も開ききっていない。いつもしっかりしているフィストとは思えない姿だ。


「ほら、出発の準備するよ」


 私は、フィストを無理やりベッドから引きずり降ろして、鏡の前に座らせる。

 ぼさぼさな髪を櫛で流すと、猫耳がぴょこぴょこ動いた。

 気持ちよさそうに反応する猫耳を見ると、可愛いと思った。


「それじゃ、次は着替えだよ」


「それは、自分でできる」


 髪を梳かしている時に、目が覚めたようだ。

 頬を赤くして、恥ずかしそうにフィストは着替え始めた。


 そうして、私たちは旅の準備を終えて、部屋の外へと出た。


 ☾ ☾ ☾ ☾


 部屋の外で、ルークとグラットに鉢合わせて、そのまま食堂で朝を食べた。

 その後、ピスタール王と城を出て、駅舎に向かった。


 朝のピスタニア王国は人が少なく、静かだ。

 そんな閑散とした街の雰囲気とは逆に、私はわくわくしていた。


「ティアラよ。そんなに、汽車に乗るのが楽しみか?」


 前を歩くピスタール王が私に声をかけてきた。


「はい! とっても楽しみです! 初めて乗るので!」


「そっか、そっか。それなら我も嬉しいぞ。汽車を作ってよかった」


 高笑いをするピスタール王の言葉に、ふと疑問が浮かぶ。

 

「どうして、汽車なんてものを作ったんですか?」


「それは、この世界を繋げるためさ。この先、きっと世界中の人間が一つにつながる時代が来る。それに、備えているんだ」


「へえ……」


 この王はやっぱり、初めからずっと考えていることが一貫しているんだな。

 

 最初からずっと、国のことを考えている。

 そんな、ピスタール王の背中はどんな人より、大きく思えた。


「そのためには、まず、ビスタリア大森林にも線路を伸ばしていきたいなと思う。そうするには、ビスタリア大森国と話さないといない。先は、長いな……」


 遠くを見つめるピスタール王は、どこまで見えているのか気になった。

 その時、後ろからフィストが声を上げた。


「それなら、大丈夫だと思います」


「ん……? それはどういうことだ?」


 ピスタール王は足を止め、フィストの方を見た。

 フィストは、真面目な表情で答える。


「私はビスタニア大森国の王女、フィストです。今の王が私の兄、グレイストです。兄ならきっと、ピスタール王の話を聞いてくれると思います」


 今のフィストは、友達としてではなく、ビスタリア大森国の王女としてのフィストだ。

 そんな姿が、かっこよく見える。


「そうか……それなら、一度ビスタリア大森国に出向いてみるのも良いかもしれん」


「その時は、私の兄……いや、王をよろしくお願いします」


 人の王と獣人族の王女が向き合い、言葉を交わした。

 私は今、ピスタニア王国とビスタリア大森国が手を取り合う瞬間を目にしたのかもしれない。


 ☾ ☾ ☾ ☾ 


 駅舎に到着すると、それなりに人が集まっていた。

 これから動く汽車に乗り込む人たちなのかもしれない。


「わあ……やっぱり、すごいなあ……」


 人生二度目の汽車を目の前にしても、やっぱり言葉を失うほどの迫力がある。


「これから、これに乗るんだ!」


 目をキラキラさせていると、後ろからルークが話しかけてきた。


「僕もわくわくするな」


「そうですよね! やっぱり、わくわくしちゃいますよね!」


「ティアラ、あんまり子供みたいに騒がないでよ」


 隣にいたフィストがやれやれと肩をすくめて、言った。


「別に良いでしょ。楽しみなんだから! フィストだって昨日、子供みたいに喜んでたくせに」


「う、うるさい。それでも、私はティアラみたいに騒がないし」


「おーい! お前らここから乗るみたいだぞ!」


 グラットが、汽車の入り口に片足を突っ込んで、手を振っている。

 私たちは、グラットの方から中に乗り込んだ。


 窓際の方に私とフィストが向き合うように座り、その横にルークとグラットが座った。

 窓の外では、ピスタール王が私たちの出発を遠くから眺めていた。


 それを見つけたグラットが、窓から顔を出して、叫ぶように言った。


「ピスタール! 帰ってきたら、酒を飲もう!」


 その言葉に、ピスタール王は笑みを浮かべた。


「おう! 後、旅の話も聞かせてくれ、我はお前を友として、待っている!」


 二人の会話が終わった頃、汽車が大きな音を立てて動き出した。


 ガタン、ゴトン。


 私は窓から身を乗り出し、ピスタール王に手を振った。


 汽車は徐々にスピードを上げて、走り出し、気づけばピスタニア王国は遠くにあった。そんな国に向かって、私はまた手を振った。


 ピスタニア王国が変わっていくように、私も変わっていく。

 どんなふうに自分が変わっていくのか、今は、わからなかったけど、この長い旅路が終わるころに、答えは出ているだろう。


 窓から吹いてくる風に、心地よさを感じて、目を閉じた。


 今はただ、今を楽しもう。

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