奴隷少女は探す
光沢を帯びた長い金髪とひらひらなスカートを揺らし、堂々と私の先を歩くシャーデ。
とりあえず、シャーデに北の大通りまで案内してもらうことにした。
もしかしたら、ルークが戻ってきて、私を探しているかもしれないと思ったからだ。
北の大通りは、時間が経ったからだろうか、前に来た時よりは人が少なくなっている。
「シャーデちゃん、こんにちわ」
店を構えて、大きな壺を置いているおじさんが、シャーデに声をかけてきた。
「おじさん。こんにちわ!」
笑顔でシャーデも返す。
この子、さっきから色んな人に声かけられてるけど、何者?
「壺のおじさん」
「ん? どうしたんだい?」
「とんがり帽子を被った男の人、見なかった? さっきから、ずっと探してるんだ」
シャーデが聞くと、おじさんはあーと思い出しように声を上げる。
「それなら、さっきその男から、青髪の女性を見なかったかって聞かれたな」
「そうなの!」
「見てないって答えたら、中央の方に走って行ったぞ。もしかして、そこにいる君を探してたのかな?」
「そうかも! ありがとう! ティアラ中央に戻ってみようか」
私は頷き、おじさんにお辞儀する。
「ありがとうございます」
「おう。良い壺だから、今度買って行ってくれよ! 値は高いけどな」
「は、はい……」
多分、買わないけど……。
私は苦笑いを浮かべて、その場を離れた。
☾ ☾ ☾ ☾
「それっぽい人、いないね」
「そうだね……」
中央の、十字路に戻ってきたがルークはいない。
「もう少し、探し回ってみよう!」
「うーん……」
私は、シャーデの提案に悩む。
もし、すれ違っているなら、ここで止まっている方が良いのかもしれない。
だけど、ずっと待つのは不安な気持ちもある。
もしかしたら、見つけてくれないかもしれない。でも、ずっと、ずっと、ここに立って待っているのは嫌だな。
「どうしたの? 行かないの?」
「行きたいけど……すれ違っている――」
「――なら、行こう!」
「え⁉」
「行きたいんでしょ! なら、行こう!」
シャーデに半ば強引に、手を引っ張られ、再開した。
まあ、いっか。今は、少しルークが見つかるような気がするし。
その後、シャーデに引っ張られて連れていかれたのは、南方面の大通りだ。
色んな種族が自分に合った服や装備を探し、あっちこっちで品定めをしている。
私も、今日ここで旅用の服を求めて来た場所だ。
だから、なんとなく、ここの大通りは覚えている。
買いに来た時より、行きかう種族の数も少なく、辺りをしっかり見渡せた。
「うーん。ここにはいなそうだね」
一通り、大通りを見て、私は言う。
とんがり帽子を被っているルークだから、わかりやすいと思うけど、そんな姿はない。
「そうだね。なら、次!」
また、引っ張られるようにシャーデについて行く。
狭い、一路を真っ直ぐに進むと次に見えた景色は、面構えが凶暴な種族が歩く大通りだった。
ここって、もしかして……。
辺りを見て、すぐに場所の答えが出る。
武器屋の看板がたくさん並んであったり、ナイフや銃を置いて売ってる人もいた。
ここは、東の大通りだ。
ルークも私に気を遣って、ここだけは来なかった場所。だって、怖いから。
「お嬢ちゃんたち、どうしたんだ?」
ドスの効いた声が聞こえて、私は顔を青くする。
振り返ると、顔に傷跡をつけ、小さくなる私を猫背で獣が見下ろした。
「迷子か?」
この種族は、ウルフ族だ。
鋭い牙がきらりと光って、今にも私を食べてしまいそうだ。
青白い毛並みに、鋭い爪、鋭く獲物を捉えたように見る眼光。
「ウルフのおじさん?」
シャーデが恐怖もせず、笑顔で近寄っていく。
「どうしたんだ?」
「とんがり帽子を被った人見なかった?」
「あー……それなら、さっき必死で走ってる姿を見たぜ。あっちの方に行ったかな」
鋭い爪で指した方は、方向的に、西方面だ。
「ありがとう!」
「お嬢ちゃんたち、ここは怖い人がたくさんいるから気をつけろよな。でも、みんないい奴だけどな。見た目怖いから」
「うん! ありがとう」
笑顔で頷き、シャーデは未だに震える私の手を握った。
「よし、ティアラお姉ちゃんあっちの方に行こう!」
「う、うん……」
私は、言葉がうまく出てこなくて、ぺこりと頭を下げると、ウルフのおじさんは軽く手を振った。
悪い人じゃなくて良かったと私は安堵しながら、西の大通りに向かう。
だんだんと美味しそうな匂いが近づき、鼻を包む匂いがお腹の辺りまで充満した頃、西の大通りが見えた。
ぎゅるるるっと、私とシャーデのお腹の音が同時に鳴った。
私は、お腹を手で撫でる。
「お腹すいたなあ……」
お昼を食べた後は、休まず歩き回ったりしてるから、無理もない。
「私も、お腹すいたぁ~」
匂いに誘われ、ふらふらと二人で進む。
気づくと、この匂いの根源であるお店の前に立っていた。
あ、美味しそう……なんの、お肉だろう。
お肉が四つ串に刺さっていて、それを火で焼いている。
「「美味しそう……」」
思わず、私とシャーデの口からよだれと言葉が出る。
ち、違う……!
私は今、ルークを探してるんだ。私の手にお金があったら買ってるけど、今は違う。
「シャーデ、行こう。探さないと!」
「あ! そ、そうだった!」
シャーデもはっとして、口から垂れたよだれを拭く。
匂いの誘惑を振りき、私たちはまた西の大通りを進む。
「美味しそう……」
次に気づくと、次は串に刺したお魚焼きの前に立っていた。
「ち、違う……!」
☾ ☾ ☾ ☾
たくさんの誘惑から逃れ、私とシャーデはウェルト中央の十字路に戻ってきた。
「どうしよう。ルーク見つからない……」
空の色がだんだんと、夕日の帳を下ろし始めている。
さっきまで、感じなかった不安がまた戻ってきた。
「大丈夫! 私、最終手段があるの!」
「そうなの?」
「うん。だから、ついてきて!」
シャーデは笑顔で、私の手を握りゆっくりと歩く。
少し歩くと、目の前には大きな煉瓦で建てられた塔が聳え立っていた。
これって、時計塔だ。
「ここの、塔の上から探せば絶対に見つかるよ!」
「確かに、そうだね」
この上からなら、ルークのとんがり帽子もわかりやすく見えるかもしれない。
期待を胸に、塔を登った。
てか、そんな最終手段があったなら、最初から出せばいいのに……。
螺旋の階段を何段も何段も踏み、そろそろ足の限界もきていた。
「はあはあ……」
「早く! 早く! 暗くなる前に!」
シャーデが疲れを感じさせない、勢いでどんどん先を行く。
私もなるべく、急いで登るがシャーデに追いつくことはない。
子供の体力って無限なのかな?
「はあはあ……」
階段を一段登るたびに、足が悲鳴を上げた。
足に傷がある痛みではなく、今日一日歩き続けて足に疲れがきてる痛みだ。
疲れたけど、この痛みはなんだか、自由な証のようにも感じる。
ようやく、最後の一段を登り、膝をつく。
「はあはあ、もう歩けない……」
「ティアラお姉ちゃん! こっちきて!」
シャーデが元気にはしゃいでいる。
「今、行くからちょっと待って」
息を整え、ゆっくりとシャーデの横に立つ。
「わあああー!」
目を見開き、驚きと歓喜が混じった声を出す。
「綺麗……」
今日一日、歩き回った都市が、沈みかけの太陽に照らされている。
街は夜の準備を始めようと、所々で光が灯る。
空と街が茜色に染まり、綺麗な景色を作り出していた。
私はそんな景色を見ながら、今日あったことを一つ一つ思い出しながら思う。
楽しかったなぁ……。
今までは、今日が早く終わればいいと思っていた。けど、今日は、今日が終わってしまうのが寂しく思える。
自然と、ふふっと笑い声を漏らしていた。
「どうしたの?」
笑い声を聞いたシャーデが、不思議そうに私を見上げた。
「えっと、今日が楽しかったなって思って」
「そうだね! 私もそう思う!」
白い歯を見せて、にっと笑うシャーデ。
「てか、ルーク探さないと! もう暗くなっちゃう」
「そうだね。暗くなっちゃう」
思い出したように、私とシャーデは街を見渡す。
目立ちそうなとんがり帽子が見つからない。
どうしよう……見つからない……。
気づくと私の真上の空は暗くなっていた。
どうしよう、どうしよう。
焦って、探すがルークの姿がない。
その時、一つのことを思い出す。
もしかして、今なら聞こえるかな……私の声。
すうと息を大きく吸い、私は遠い空にも届くような声で叫ぶ。
「ルぅーーーーーーークぅーーーーー‼」
一度の叫びが、何度も街に繰り返し反響する。長く長く、伸びてこの声はどこまでも、遠くに届いているような気がした。
声が徐々に小さくなり、私は咳込んだ。
「げほ、げほ、これで聞こえたかな」
塔の壁に体を預けて、ぐったりと地面に座った。
「ティアラ、声大きいね! すごい!」
「そ、そうかな?」
シャーデの言葉に私は苦笑いする。
その時だった。
街から、一本の線のように空に向かって、光が飛んだ。
そして、その光は同じ高さまで飛ぶと、こっちの方に向かってくる。
光に目を細め、気づけば目の前に……。
「ようやく見つけたよティアラ!」
とんがり帽子を風で揺らしたルークが、安心したように私を見下ろしていた。




