奴隷少女は迷う
次の日、私とルークは旅服を求めて、ウェルトを歩いた。
その後、服もすぐに選び終わり、昼も済ませて、一緒に街を見て回ることにした。
「やっぱ、人が多いですね」
「そうだね。ティアラ、はぐれないように気をつけよう」
「はい!」
今日も太陽が元気に顔を出し、建物の間から見える、澄んだ空にぷかぷかと雲が浮かんでいる。
そんな、景色を見ていると、自然に体が軽くなったように感じた。
賑やかな街で、ルークに手を引かれながら、踊るようにステップを踏むように歩き進む。
商業都市ウェルトは、街の中心を交差する大通りが四つに分かれ、方向によって、店舗の種類の多さが変わってくる。
東方面には武器屋がたくさんあり、そのまま街を出るとビスタリア大森林という魔物がたくさん生息する危険な森がある。次に私たちが向かう方向である。
西方面には食系の店が多く美味しそうな匂いを漂わせ、南方面には、すべての種族に合わせた装備品や服がたくさん並んであり、北方面には、日常品や道具とかがランダムに売っている。
今日、私たちは南方面で服を選び、西方面で昼を食べて、今は北で色々な道具を見て回っていた。
キラキラと宝石が並んであったり、なんだろうと首をひねってしまうほど不思議な形をした道具が並んであったりと見るもすべてが新しい物で楽しい。
その中で、私は一つの看板に興味が湧く。
「あれって、もしかして本のお店ですか?」
「あ、そうかもね。行ってみる?」
「行きたいです!」
静かにぽつんと建てられた看板から老舗の雰囲気を感じる。
店構えに、私は少し緊張する。
深呼吸をした後、扉を開けたら、思わず私は目を見開いた。
「うわあ……! こ、こんなにいっぱい本がある」
一歩踏み出すと、たくさんの棚にたくさんの本が並んでいた。
埃が舞う店内は、私の目にはキラキラしているように見える。
たくさんの本を一つ一つ、見ていく。どれも、興味が惹かれる。
そんな時、一冊の本に目が留まった。
「なんだろうこの本……」
気づけば、手はその本に触れていた。
ゆっくりとその本を取った。ちょっと重いけど持てないほどではない。
丁寧に私は、本を捲った。
「この本……」
広げた本には、空に浮かぶお城の絵が描かれていた。
そして、端っこには『空飛ぶ神秘的な城』と文字で書かれていた。
「この絵、綺麗……」
あまりの美しい絵に見惚れ、私は呆然とする。
他にページを捲れば、たくさんの景色の絵が乗っている。
私がたまたま、手に取った本は世界の景色が絵で描かれている本だった。
次に私の目をとめたページには、黄金の畑と夕日の絵が描かれていた。
横には『黄金の景色』と書かれている。
この絵って……お父さんとお母さんが言ってた。
もしかして、この絵の場所って本当に……。
横で同じように、見ていたルークが口を開いた。
「すごいね。この絵って実際にある場所なのかな?」
「あると思います」
疑問気に問いかけてくるルークに、私は確信に似た気持ちで言う。
だって、私が旅に出たいと思ったのは、親がこの景色のことを言っていたからだ。
他にも、空に浮かぶ国の絵や、真っ白な雪国の絵、緑に囲まれた滝の絵、他にもたくさんある。
そして、とある絵にページを捲る手が止まる。
「この絵って……もしかして」
そのページには、大きな月に手を誰かが手を伸ばし、届きそうになっている絵だった。
「どうしたの?」
「この絵はもしかしたら、月に手が届くかもしれない大きな塔の上で描いた絵かもしれません」
「確かに、月が大きく描いてあるね。でも、本当にこの絵場所があるなんてわからないよ?」
「私はあると思います。お父さんとお母さんは、言ってました。この世界は広いから、なんでも存在するって、だから私はそれを信じたい」
まだ、あるかも、ないかもわからない。
だけど、お父さんもお母さんも、世界は広いと言っていた。
その言葉が、私に夢をくれた。
世界を旅するって夢を。
「私は、この景色と同じ場所を探して、この景色を実際に見てみたいです」
「なら、一緒に行こう」
ルークが即答する。
「これから、長い旅をするんだ。必ずたどり着けるよ。僕だって、その本の絵に描かれている勇者の剣って絵の景色の場所に行ってみたいんだ」
「私も行ってみたいです!」
笑顔で私は、囁くように答えた。
「よし、とりあえず、この本買おうか」
「え、良いんですか?」
「大丈夫、お金の心配はないよ」
鼻を高く、自慢するように言う。
「旅をするために、たくさん稼いだんだからね」
言いながら、ルークは本を店員に渡した。
「この本ください」
店員のおばさんが、ゆっくりと受け取る。
「はいよ。これは、金貨三枚だよ」
金貨ってことは……。
私はルークから教わったお金の金額を計算する。
銅貨が百枚あって銀貨一枚分だから、金貨は……。
声すら出ない金額に私は目を丸くする。
そんな、私の横で、さらっとおばさんに金貨を三枚ルークは渡した。
「え……良かったんですか?」
「いいさ。この本で旅の目的地がわかるなら、安いよ」
「そ、そうですか?」
「うん」
こっちに不安を与えないためなのか、素の笑顔なのか、今の私にはわからない。
だから一旦、頭の隅に置き、ルークの顔を見ないで答える。
「なら、良かったです」
そうして、一冊の本を手に入れて、私たちは本屋を出た。
☾ ☾ ☾ ☾
昼が過ぎ、街の賑やかさに拍車がかかる頃。
一旦、私とルークは宿に戻るために街を歩いていた。
私たちが歩く道は、小さな穴に糸を通すように狭く、混みあっている。
「ティアラ、手を離さないでね」
「は、はい……」
たくさんの種族に揉まれながら道を進んでいく。
あ……目がくるくるする。
賑やかで楽しそうなのは良いけど、このままだと私、つぶれちゃう。
そんなことを思いながら、ルークに引っ張られ、群れの隙間を縫っていく。
そんな時、突然ぎゅっとした圧に潰されそうになり、ルークの手を放してしまう。
「あ……」
「ティアラ!」
ルークの必死な声が聞こえて、手を伸ばす。
「ティアラ、手を握って!」
その声を信じて、精一杯に手を伸ばすして、握ろうとするが私はなにも掴めなかった。
徐々にルークの声が遠ざかり、気づくと私は一人ぼっちで道の真ん中に佇んでいた。
「ルーク?」
あれ?
辺りを見渡しても、ルークの姿がない。
ただ、人が流れていく。
この感じ……知ってる。
「ルーク、ルーク……ルーク!」
名前を呼ぶたびに、心の中で不安が広がっていく。
青い空の色も、だんだん影に染まっていく。
「ルーク!」
「うるせ! 邪魔だ」
通りがかりの人に怒号を浴びせられ、私は委縮してしまう。
「ご、ごめんなさい……」
顔も見れずに、小さな声で謝る。その人に聞こえてるのかわからない。
心の中で、さっきまで楽しかった記憶が一気に薄くなって、自然と怖いと思った。
目頭が熱くなり、視界が歪んでいく。
ぽつぽつ。
顔を涙で濡らしながら、ふらふらと歩き始めた。
☾ ☾ ☾ ☾
小さい頃、お母さんもお父さんいなくなって、近くの街をふらふらと歩いていた。
行く当てもなく、彷徨いながら、今日みたいに一人ぼっちで怖いと思いながら。
そんな時だっただろうか、突然、男の人たちに担がれ、奴隷になったのは……。
今回も、そんなふうになってしまうのだろうか。
頭の中で、あいつの顔が浮かんでくる。
「戻りたくないよ……」
気づくと、噴水広場にうずくまるように座っていた。
ここ、見たことあるような、ないような……。
ウェルトに初めて来た時、ここでルークと一緒にレインボーサンド食べた気がする。
でも、確信はなくて、顔を膝に埋める。
……怖くて、動けない。
呼べば、飛んでいくって言ってたのに……。
街の賑やかな音が、遠ざかっていくような感覚になる。
私は、また奴隷に戻ってしまうのだろうか。
「戻りたくない、戻りたくない……」
そう何度も、呟いた。
暗い闇の中で、私はぽつんとしていた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
近くで声が聞こえて、顔を上げてみる。光が差し込み、目を細める。
光に目が慣れてくると、目の前で女の子が、不思議そうな顔で私を見下ろしていた。
「どうしたの?」
「わ、私」
震える口調で、助けを乞うように言う。
「迷子になっちゃった」
言葉にすると、また涙が流れてくる。
私よりも年が下の女の子に、こんなこと言ってなにやっているんだろう……。
すると、ぽんぽんと小さな手で頭が撫でられる。
「大丈夫だよ。一緒に探そう!」
「え、いいの?」
「良いよ。私、この街詳しいからすぐに見つけちゃうよ!」
「本当に……?」
「うん! だから、任せて!」
差し伸べる小さな手を握り、私は立ち上がった。
「私、シャーデっていうの、よろしくね!」
「うん。私、ティアラ。よろしくね」
今なら、なんとかなりそうな気がしてきた。
前とは違う。だって、はぐれたけどルークも、一緒に探してくれるシャーデもいる。
だから、大丈夫、一人ぼっちじゃないから。




