43話 少女はとんがり帽子の魔法使いと街を歩く
ルークは目覚めてから、フィストと同じようにお腹が空いていたらしく、朝からバクバクとご飯を食べていた。
食べ終わると、お腹に入れすぎたのか、しばらく横になった。
太陽の位置が、西の方へと傾いた頃、ルークが起き上がって言った。
「ティアラ、今から一緒に街を歩かない?」
突然の提案だったけど、私は快く笑顔で返した。
何より、ルークから誘ってくれたことが嬉しかったのだ。
「行きます!」
☾ ☾ ☾ ☾
ピスタニア王国の城から西へと進んでいく。
空はすでに、ほんのりと青にオレンジが混ざっていた。
王宮区画には、武器商人や武器職人がたくさん集まり、武器を売ったり、作ったりしている。
素材を運ぶために、大通りの真ん中を馬車がたくさん行ったり来たりして、せわしなく騒がしい。
そんな街が、今まで見てきた街とは違い、私は好きだ。
時間が経てば、この国はまた、私の知らない姿をしているのだろう。
そんなことを思うと、私は自然と口を開いていた。
「ルーク、私は今より、もっと強くなりたいです。だから、もっと魔法を教えてほしいです」
天使様に強くなれると言われた時から決めていた。
強くなるなら、やっぱりルークから色んな魔法を教わるのがいいと。
隣を歩くルークは、私に視線を落として聞き返してきた。
「それは、どうして?」
「それは……私が弱くて、何も守れないからです……」
「もしかして、グラディオが死んじゃったのを後悔してる?」
「それもあります。だけど、フィストとルークが大きな傷を負ってしまったことや、悪魔を逃がしてしまったこともあります。私が強ければ、もっと最小限にできたって思うと……このままじゃダメだと思って」
「そっか……」
ルークは、人差し指を立てて言った。
「ティアラが強くなりたい理由はわかったよ。だけど、ティアラには一つだけ約束してほしい」
「それって、何ですか?」
「それはね。この先、必ずあの夜のような状況がやってくる。その時、自分の力だけじゃなくて、僕たちの力も頼ってほしいってことだよ」
私はルークの言葉に、首を傾げた。
意味がわからないわけではない。だけど、なんで今、それを言われたのかわからなかった。
ルークは、優しい笑みを浮かべてわからない私に、答えてくれる。
「今のティアラは、強くなったらなんでも一人で動こうとしちゃいそうだからね」
ようやく約束の言葉の意味がわかった。
私が強くなったら、後悔したくないから全部自分で動こうとしたかもしれない。
それに対して、ルークは私に一人だけじゃないよと言ってくれたのだ。
「僕たちだって戦えるから、強くなってもちゃんと頼ってよ。それが約束」
私は足を止めて、ルークを真っ直ぐに見つめる。
「わかりました。一人じゃ戦いません」
「うん。なら、次の旅の道のりで魔法を教えるよ」
ルークの言葉に、頷いて、私は砕けたように笑みを浮かべて、再び歩き始める。
「でも、強くなるまでは、多分、頼りっきりになりますけどね」
「そうだね。だけど、ティアラは考えて動けるから、それだけでも戦力だよ」
言って、ルークは微笑んだ。
☾ ☾ ☾ ☾
王宮区画を進み、城壁を潜る門の下まで来た。
脇には、城壁の中に続く扉があり、入ると、上に上るための階段があった。
「ここに何があるんですか?」
ルークに連れられてきたから、気になってしまった。
「僕も初めて行くからどんな景色が見れるかわからないけど、想像通りなら綺麗だと思うよ」
「それは、期待しちゃいます!」
わくわくとしながら、長い螺旋状の階段を登り始めた。
「はあ……はあ……」
「まだ、半分も登れてないよ」
先を登るルークが、私に向かって煽ってくる。
「う、うるさいです」
汗が、頬を伝い落ちていく。
上を見ると、まだまだ続く階段に絶望した。
でも、これぐらい登れないと強くなれない。頑張ろう。
私は、一心不乱に階段を登り続ける。
ルークの煽り声を無視して、上を向くと諦めてしまいそうになるから、下を向いて、何も考えずにただ登り続けた。
足に痛みが走るが、それも次第に慣れてきた。
そうして、上っていると、私の視界にオレンジ色の光が差した。
視線を上げると、ゴールが見えた。
「ティアラ、もう少しだよ!」
「はあ、はあ……わかって……ます」
ふらふらしながら、一段一段階段を踏みしめて、上っていく。
微風が肌を撫でて、もう少しだと感じる。
すると、視界の中にルークの足元が入って、顔を上げる。
ルークが、いつも通りの笑顔を浮かべていた。
「よく登ったね」
「はあ、はあ……頑張りました」
しばらく、階段の段差に座って休憩した。
呼吸が整ってきた頃、私たちは外に出た。
「わあ……!」
外に出た瞬間、飛び込んできた景色に私は目を見開いた。
二枚の城壁に隠れるように、太陽が半分だけ顔を出していた。
色とりどりの屋根が夕焼けに照らされ、きらきらとしている。
強く風が吹き抜けて、私の青い髪が靡いた。
いつも見ている太陽なのに、今日はいつも以上に輝いて見えた。
「綺麗ですね……」
景色に見惚れながら、私は言った。
「そうだね」
ルークも同じように、景色に見惚れていた。
しばらく、私たちは静かに景色を見つめる。
そんな時に思う。
私は、この綺麗な景色を守るために、あの夜戦ったんだと。
もし、あのまま悪魔を逃がして、兵器を持っていかれていたら、この景色はなくなっていただろう。
色々後悔はしたけど、それ以上に守れてよかったなって思った。
そんなこと、思っていると、ふと思い出す。
「ルーク、あの本持ってますか?」
「一応持ってきてるよ」
ルークは背負っていたバックパックから、本を取り出して、渡してくれる。
この本は、商業都市ウェルトで購入した景色の絵がたくさん載っている。
私は、パラパラとページを捲って、とあるページで手を止めた。
そこには『未来へと繋ぐ夕日に輝く街』というタイトルの絵があった。
私は、今見ている景色と、絵の景色を重ねてみた。
「これだ……」
街並みは絵とは違うけど、この絵の面影が、今見ている景色に残っている。
時間が経って、街は変化したんだ。
この絵を描いた人もそれをわかっていたから、こんなタイトルにしたんだろう。
絵に描いてある過去のピスタニア王国も好きだが、私は今見ているピスタニア王国の景色が好きだ。
この絵のように何かに残したいと思ったが、私にはその手段がなかった。
だから、私の記憶にこの景色を残しておこうと思った。
どんなに変化しても、私がここに立てば、必ず今の景色を思い浮かべるだろう。
この先、この国はどんなふうになるのかな。




