42話 少女はとんがり帽子の魔法使いに起こされる
――――ティ、ラ……ティア、起きてく、さい。
もう、目を開けなくても、誰が私を呼んでいるのかわかる。
途切れ途切れに聞こえる、透き通るような声の正体は、長い青髪の女性だ。
ゆっくりと目を開くと、柔らかくて優しい淡色に包まれている。
仰向けのまま、その女性を見上げた。
ここはまるで、誰かの懐の中のように、温かくて心地いい。
「今日は、なんですか?」
少し、ぶっきらぼうに私は話しかけた。
正直、今は誰かと話したい気分じゃない。
ルークのことで頭がいっぱいだから、そっとしといて欲しかった。
――――ティアラ、あなたはこれ、ら強くなれ、す。
「え?」
珍しく、はっきり聞こえた言葉に私は耳を疑う。
――――あなた、まだ、強くなれます。
私が……強くなれる……。
「そ、それは、なんでですか?」
私は必死になって、叫ぶような声で聞き返す。
すると、優しい笑みを浮かべて、青い髪の女性は答える。
――――あなたはまだ、神のちか、を扱いきれて、ません。
「どうやったら、私に神の力を扱うことができるんですか?」
――――それは、あなた次第。
「私、次第……」
呆然と自分の掌を見つめた。
これから、私はもっと強くなれる。
みんなを守ることができる。
だけど、どうすれば強くなるかはわからない。
でも、やるべきことは決まっている。
考えるよりも先に、行動しよう。
強くなる方法に今は、答えはいらない。動けば必ず、答えはいつか出る。
ルークなら必ずそうするから。
私を見下ろす青髪の女性は、微笑む。
――――あとは、頑張って、ティアラ。
その言葉に、どこか懐かしい気持ちになる。
翼を動かし、女性は飛んでいく。
そんな姿を見送り、思った。
私が下を向いていたから、励ますために出てきてくれたのかもしれない。
ルークが心配な気持ちは変わらないけど、それでも、少し心が軽くなったような気がした。
ありがとう……天使様……。
私は、心の中で青髪で私そっくりの女性をそう呼ぶことにした。
☾ ☾ ☾ ☾
「起きて! ティアラ、起きて!」
「うぅ~ん……何度も呼ばないでよぉ……」
「ティアラ、起きて!」
「うぅ……」
呼び声に起こされて、ゆっくりと目を開ける。
ぼやける視界の中、とんがり帽子とエメラルドのような緑の瞳が私を見下ろしていた。
目を擦り、私はゆっくりと起き上がる。
「誰ぇ……」
「ティアラ、僕だよ」
「え……」
驚きと期待感があるこの変な感情の中、私はゆっくりと声の方に視線を向けた。
ベッドの傍で、優しい笑みを浮かべてルークが立っていた。
「ルーク……?」
「そうだよ。僕だよ」
明瞭になった視界で、私は一度ルークを下から上までゆっくりと見る。
ボロボロだった服が綺麗になって、体中にあった傷も綺麗に治っていた。
私は、ベッドから飛び出し、ルークに向かって一直線に飛びついた。
「ルーク!!!」
「うわ!?」
私の勢いに押されて、ルークは尻餅をつく。
「いってて……」
「お、起きてる! 傷も治ってるし、服も綺麗になってる!」
「まだ、腕の傷が完全に治ってないけど、ほとんどの傷は魔法で治したし、服も魔法で綺麗にしたからね」
腕いっぱいに抱きついて、私は一度ルークの両肩を手で握り、放してみる。
「ルークだ……ルークが起きてる……」
「ティアラ、一旦、落ち着いて」
「落ち着けません。私……私」
目頭が熱くなって、涙が一気に溢れてくる。
嬉しくて、嬉しくて、この感情を抑えることはできない。
私はまた、ルークに抱きつき、泣き叫びながら声を上げる。
「私、ルークがもしかしたら起きないかもしれないって思って、心配だったんですから!」
温かいルークの掌が、寝起きでぼさぼさの私の頭を撫でる。
「心配させて、ごめん。ティアラをそんな気持ちにさせてたんだね。でも、大丈夫だよ。僕はティアラを一人にさせないから」
そんな言葉を耳にして、私は震える口調で鼻をすすりながら、ルークの顔を見つめて言った。
「私、本当に心配だったんですからね」
真剣な眼差しを向けると、ルークは頬を赤くして目線を逸らす。
頬を掻きながら、ルークは微笑む。
そして、ルークは意を決したように私を見つめ返して言った。
「ありがとう、ティアラ。だけど、もう僕は君を一人にさせない。約束だ」
改めて、言われた言葉に私は顔が熱くなった。
この感情の名前を私はまだ知らない。
心臓の鼓動がうるさいくらいになって、全身が熱くなるようなこの感情をまだ知らない。
だけど、自分のわからないこの感情も、再び始まる旅の中で知っていくんだろうなと思った。
今は、ただ純粋にルークと旅を続けられることを喜んだ。




