39話 銃使いの男は目的を決める
「それじゃ、私は城に戻りますね」
「お、おう……」
気を遣ってか、ティアラは、ピスタール王の横を通り、その場を離れる。
そして、ティアラの背中が見えなくなった頃、ピスタール王が俺の横に立った。
膝をつき、手を合わせ、じじいの墓の前で何かを祈っている。
これが、王族の死者に向ける礼儀らしい。
「で、なんだ? 王様。今更、俺の親について話したいって」
訝しむように、俺はピスタール王を見つめた。
ピスタール王は、ゆっくりと立ち上がり、じじいの隣の墓を見下ろして、言った。
「ずっと、話すタイミングを探していたが、なかなかできなくてな」
「前置きはいい。早く話してくれ」
「わかった。二つだ。二つお前に話す」
そう言って、ピスタール王は話し始めた。
「一つ目は、お前の父、グランツの死因についてだ」
「それなら、魔性病だろ? それ以外にないだろ」
「いや、そういうことじゃない。お前の父がどうして、魔性病になったかについてだ」
少し、頭に血が上り、乱暴な言葉遣いで、俺は返す。
「それだって、知ってる。お袋が魔法使いで、それのせいで――――」
「――――違う。魔法使いと結ばれたって、子供を作ったって、魔性病にはならないんだ」
「は……?」
「お前の父が、魔性病になったのは、魔石から出る魔力の光を浴び続けたからだ」
その答えに、俺は言葉を失ってしまう。
だったら、どうして……お袋は追放されたんだよ……。
そんな俺の様子を気にすることなく、ピスタール王はさらに続ける。
「当時、グランツは我の父、ピーランド王から兵器を作るように命を受けていたはずだ。グランツは兵器を完成させるために、多くの魔石を使って、何度も、何度も、失敗し、それでも完成させようと魔石に向きあった」
「それで……魔性病になったと?」
未だ吞み込むことができない事実に、混乱する。
それでも、ピスタール王は淡々と告げた。
「そうだ……」
「な、なら、どうしてお袋は追放されたんだよ!」
「それが、二つ目の話だ」
少しの間をあけて、ピスタール王は再び口を開く。
「お前の母、ルーリアは魔性病を理由に追放されたが、実のところ我の父、ピーランドが魔法使いを嫌い、魔性病の正体を知っておきながら、それを理由に追放したんだ」
返す言葉もなかった。
父が死んだのも、母が追放されたのも、全部、この国のせいじゃないか……。
この国のせいで、俺はずっと一人ぼっちだったのかよ。
煮え切らない気持ちが、頭の中で怒りに変わっていく。
俺は拳を強く握り、唇を噛んだ。
「――――グラット、国の失態でお前の家族を壊してしまった。申し訳ない」
気づけば、ピスタール王は深々と頭を下げていた。
謝られても、俺の中の怒りは収まらない。
それでも、俺は深呼吸をして、城壁に向かって、叫んだ。
「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
どこまで、届くかわからない怒りの咆哮が響いていく。
俺はもう子供じゃない。だから、王様を責めることも、殴ることもしない。
だって、俺はすでに次の目的を決めたのだから。
「はあ……はあ……」
「すっきりしたか、グラット」
「いや、別に……今も、まだ怒りは残ってるよ」
「そうか……本当に申し訳―――」
「もう、いいよ。俺はお前を見くびっていたよ。お前は今、この国を変えようとしてるんだよな? 全部、聞かせろよどんなふうに変えていくのか」
「あぁ……お前とは腐れ縁だし、特別に話してやろう」
俺は、肩をすくめてピスタール王に返す。
「俺は、そんな仲良いつもりないけどな。てか、特別とか言って、ティアラ達には話してるんだろ?」
言うと、ピスタール王はいたずらな笑みを浮かべて笑った。
こいつは昔から変わんねーな。
☾ ☾ ☾ ☾
ピスタール王は、俺にとって唯一の友達だったのかもしれない。
めちゃくちゃ嫌いだったけど。
嫌いな理由はたくさんあるけど、一番はあいつの偉そうな性格である。
たくさん、無駄に話していたあの頃は、今思えば一人ぼっちじゃなかったのかもしれないな。
唯一、一日に一回は話しかけてくれる友達がいたから。
俺は、この国がどう変化していくのかという話を聞きながら昔を思い出していた。
出会いは、工房に前国王ピーランドと一緒に来た時だったけな……。
その時はまだ、親父もじじいも元気で、お袋もいたから楽しかったな。
空を見上げて、遠い過去を思い浮かべると、あの時に戻りたいなと思う。
戻れたら、俺はもっとお袋に甘えていただろうし、親父にふざけた話を持ち込んだだろうし、じじいの背中を見ながら武器を作る姿を眺めていたかもしれない。
そんなことを思うと、ちょっぴり風が冷たく感じる。
「で、これから先、この国は魔法使いも多種族も共存する国になるんだ!」
「なるほどな……」
兵器を完成させた理由、この国がどう変わっていくのか、ピスタール王の目的、すべてを聞かされ、自分の中で何かが繋がっていくように感じた。
じじいはティアラに、魔法使いとこの国が良好になることを願ってると言っていた。
つまり、それは……俺と同じように、家族とまた暮らせることを望んでいたのかもしれないな。
「ちなみに今じゃ、魔性病にならないための対策もしてあるから、我が考えたこの国の未来は近いぞ。そのうち、国境で魔法使いが足を止めなくても簡単に国に入れるようになるかもしれないな!」
「それはいいな……俺はずっとお前が嫌いだったけど、今はその気持ちがちょっと変わってきたよピスタール」
多分、こいつはずっと俺に対して、対等に接してくれていた。
それは多分、孤独だった俺にとっては、とんでもなくありがたいことだったのかもしれない。
そう思うと、自然に口から言葉が零れた。
「……ありがとな」
俺の言葉に、ピスタール王は笑みを浮かべて、同じ空を見上げた。
しばらく、沈黙が落ちて、ピスタール王が俺に聞いてきた。
「それでグラット、これからどうするんだ?」
「俺は、もう決めてあるぜ」
「ん?」
「俺は、あいつらとまた旅に出る。そして、追放されたお袋を探す。後……」
そこで、俺は親父の言葉を思い出す。
過去に、俺は聞いたことがあった。どうして、親父はお袋を選んだの? って。
純粋な気持ちで聞いた言葉に、親父は笑って答えた。
――――それはな、この世界で一番、美しいと思ったからだぜ!
昔は、その言葉の本当の意味はわからなかった。
だけど、今ならわかる。
じじいに進められて出た短い旅路の中で、俺は多くの美しい女性に出会ったから、わかってしまう。
この世界には、美しい女性が溢れている。その中で、俺は一輪の花を見つけるのだ!
「俺の将来の花嫁を見つける旅だ!」
「ふっ、実にお前らしいな」
「俺はもう過去に囚われないって決めたんだ。これからは、夢を追いかけて、前しか向かないぜ」
そうかとピスタール王は肩をすくめて、笑っていた。
その後、俺たちは墓の前で笑顔で駄弁った。
親父、じじい。俺は、前に進むよ。




