38話 銃使いの男は墓の前で笑みを浮かべる
俺たちは、悪魔との戦闘で動けないほどボロボロだった。
その中で、ルークが一番ひどく、未だに起き上がらない。
フィストも傷を負い、無理をしたせいか、体がズタボロのまま、眠りから覚めない。
唯一、次の日も起き上がり、動けたのは俺とティアラだけだった。
俺も、半日は体が痛くて動けなかったが、動かないといけない理由があったので、少し無理をして、起き上がった。
ピスタール王に夜にあった騒動の報告は、ティアラに任せ、城を出た。
俺は、じじいを墓に埋めないといけなかった。
工房の裏の道を真っ直ぐ進むと、見上げても頂上が見えないほど高い城壁があり、その前には、親父の墓があった。
ピスタニア王国では、城壁の前に死者を埋める風習があった。
理由は、死んでも国を守ってくれる力になると考えられているらしい。
俺は、シャベルで親父の隣に穴を掘り始めた。
じじいを埋める作業に三日かかった。
体の痛みで作業効率が悪かった。
そうして、今、ようやく完成した墓の前で、俺は呆然と立ち尽くしていた。
「じじい、気持ちよく眠れよ……」
最初に見たじじいはただ血を流し、横たわって死んでいるように見えた。
だけど、改めて見ると、じじいはどこかやり切ったような表情をしていた。
その顔は、職人として生きてきた男の最後として相応しいと俺は思った。
「俺が、死ぬときはどんな顔してるのかな……」
青い空を見上げながら、そんな想像をしていた。
「グラット……」
すると、後ろから弱々しく、今にも消えてしまいそうな声が俺を呼んだ。
振り向くと、ティアラが悲しそうな表情をして、立っていた。
「どうしたティアラ?」
「私……私……ごめんなさい。もっと速く駆けつけていれば、まだ助かったかもしれないのに……私が弱いから……」
ティアラは、このじじいの死に責任を感じてるのか。
あの時は、真っ直ぐ前を向いていたけど、時間が経って、より責任を感じてしまったのかもしれない。
涙を浮かべるティアラに、俺は笑いながら返す。
「ティアラのせいなんかじゃないぜ。どんなに強くても、間に合わなかったさ」
実際、悪魔はとんでもなく強く、どんなに俺たちが強くても、足止めはされていただろう。
俺なんて、悪魔に勝ったことが奇跡なんじゃないかと思ってしまうほどだ。
「それにじじいは、それを受け入れてた。多分、自分は長くないと思っていたのかもしれないな。まあ、じじいはこんな死に方は受け入れてないだろうけど、死ぬということはわかっていたと思うぜ」
だから、俺に旅することを進めたのかもしれない。
いつまでたっても、一人ぼっちで狭い世界の中で絶望する俺を見てられなかったのかもしれない。
喉の奥の方に詰まった言葉を吐き出すように、ティアラは言う。
「私は、それでも悔しいです。守れなかったのが……」
「そっか……でも、それはティアラだけのせいじゃないぜ。俺だって、あの悪魔に対抗する手段がなかった。だから、一人だけのせいじゃない」
俺は、ティアラの方を向いてはっきりと話した。
俺と違って、ティアラはまだ幼い。そんな年で、あまり人の死の責任まで背負ってほしくないと思った。
「弱いのは、俺も一緒だから、あまり考えすぎるなよ。それと、墓の前では笑っていた方がいいぜ」
「それは、なんでですか?」
「死んだ人間が、もしここから見てるなら、笑ってる顔の方が嬉しいから」
これは、じじいの受け売りである。
親父が死んだときに、涙が出なくて、墓の前でどんな表情をすれば良いのかわからなかった俺に、じじいが教えてくれた言葉だ。
ぐすっと鼻をすすって、ティアラは涙を流しながら笑顔を作った。
「そうですね!」
そんな表情が、温かいと思った。
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「グラットは悲しくないんですか?」
涙を流していたティアラは、目の下を腫らして、俺に聞いてきた。
「そうだな……悲しいよ。だけど、俺はもう泣かないよ。だって、もういっぱい泣いたから!」
そう言って、俺は高笑いをする。
あんなに泣いたから、もう涙は枯れてしまったようだ。
だけど、心残りはあった。
それは、悪魔との戦いが始まる前に、改めてじじいに聞こうと思っていたことだ。
「なんで、じじいは兵器を完成させたんだろうな?」
俺は、空に向かってぼそっと呟く。
すると、隣でそれを聞いていたティアラが答えてくれた。
「ピスタール王はこの国の技術の進歩のために、それ以上に魔法使いや獣人族、他の種族を受け入れて、生活も商業も発展させるのが目的だって、言ってました」
ティアラは一度区切って、呼吸を整えた後に続ける。
「そして、グラディオおじいさんは、魔法使いとこの国が良好な関係になることを願ってるって言ってました。だから、多分、グラディオおじいさんはそのために兵器を完成させたんだと思います。そこにどんな深い考えがあったのか、私はわからないですけど……」
そんな、ティアラの話を聞いて、俺はまさかと思う。
じじいはもしかして、俺と考えていることは同じだったのか?
魔法使いを受け入れるこの国のために、動いていたということは、じじいはまさか……。
「――――よお、グラット。三日ぶりだな」
そこまで想像して、俺は考えるのをやめた。
理由は、後ろから話しかけられたからだ。
声からして、誰だかわかってしまう。
「なんか用でもあるのか、ピスタール王」
振り向くと、赤いマントを靡かせて、高貴な服装をしたこの国の王様がいた。
「ああ、ちょっと話がしたくてな」
「そうか、で、なんだ?」
単刀直入に俺は、ピスタール王を詰める。
一切、怯むことなく王様は、態度はそのままに言った。
「グラット、お前の父、グランツと母、ルーリアについて、話したい」




