32話 銃使いの男と少女 対 影の悪魔 3
突如として、俺とティアラを囲うように、影が襲いかかってくる。
「それじゃ、ティアラ任せたぞ」
「――――うん!」
俺とティアラは二手に分かれる。
悪魔の攻撃を分散させるためじゃない。
単純に、ティアラが考えた作戦の役割があるからだ。
そして、俺の役目は悪魔の気を引くことだ。
「おい! ガキ悪魔! こっちを見ろ! 俺はまだお前に殺されてないぞ!」
「あぁぁぁん? なら、殺してやるよ」
やっぱりそうだ。
あいつは、誰よりもプライドが高くて、すぐに頭に血が上るタイプだ。
後ろへと下がるティアラに伸びていた黒い影が、次の瞬間、俺を狙い始めた。
この量の攻撃、俺に捌けるか……。
「ふっ……」
「何を笑っているのだ?」
「ちょっとばかし、今の状況がおかしく思えただけさ」
「そうか……我も、貴様が死ぬ瞬間を見れることがとても嬉しいぞ! ギャハハハ!」
「そうかい……」
――――やれるな。
今までにないぐらい、俺は冷静だった。
攻撃がどこから飛んでくるのか、はっきりと見える。
さっきと違い、視界が広く感じた。
左の方から黒い影の刃が、飛んでくる。
俺は、一歩後ろに下がって躱す。
次に背後から、同じような刃が迫ってきていた。
――――まだ、行ける。
俺は、わざと地面に仰向けで倒れる。
悪魔の予測が外れたのか、俺の顔をすれすれに影の刃が通過していく。
「おい、それで全部躱したと思ったのか?」
仰向けに倒れた俺が、素早く起き上がろうとしたその時、悪魔の笑い声が聞こえた。
「貴様はもう、逃げ道はないぞ」
気づけば、俺は影の刃に囲まれていた。
今、俺に向かって飛んできた刃は二本だけ、残りは全部、このために残してたのか。
つまり、影は悪魔の予測で動いている。
軌道を先に決めて、曲げたり動かすのは直前だから、真っ直ぐにしか飛んでこない。
それが、わかったところで、これは躱せないんだが……。
だけど――――
「じゃあ、死ね人間」
悪魔が呟き、手で攻撃の合図をする。
四方八方を囲む、影は真っ直ぐに俺の方に飛んでくる。
そんな時だった。
一つの小さな火が俺の前に落ちてきた。
「グラット! 見つけた!」
ティアラの声に俺は、笑みを浮かべる。
「悪魔、どうやら俺はまだ、死なないようだぜ」
小さな火の明かりが、俺を照らす。
すると、真っ黒だった影が薄くなる。
影の刃は、小さな火を目の前に、消えていく。
「な、なんだと……」
赤い瞳を丸めて、悪魔は言葉を呟く。
悪魔の能力の正体は簡単だ。
ただの影と影の中にある空間を操っているのだ。
それに、気づいたのはティアラだった。
どうやら、俺がスタングレネードを使った時、一瞬、影が消えた瞬間を見たのだ。
そこで、ティアラは能力の弱点に気が付いた。
最初の作戦では、スタングレネードを使う予定だったが、それだと俺らも巻き込まれてしまう。だから俺は一つ提案した。
それが、この小さな棒についた火である。
影の攻撃から、この小さな明かりが、盾のように守ってくれている。
これは頭薬が木の棒の先に付いた道具だ。摩擦で簡単に火がつく。
この国から生まれた文明の一つである。
「グラット大丈夫ですか!」
ティアラが急いで、近づいてくる。
俺は苦笑いを浮かべて、答えた。
「あと少しでやばかったが、大丈夫だ」
「そっか、それならよかった」
「別によくはないよ。死にかけたし」
「貴様ら……」
俺とティアラが、話していると、悪魔が怒り狂ったような顔でこちらを見ていた。
「絶対、殺す……殺す……殺す!」
さっきの俺のように、殺すを何度も呟く悪魔。
そんな悪魔に向かって、俺はいつも通りの軽口のつもりで言った。
「もう、お前じゃ俺たちは殺せないぜ」
そう言いながら、俺は魔法で松明を出す。
俺の魔法は武器を出すだけじゃない。周りの道具も出せるのだ。
この能力が使いこなせるようになって、初めて触れた火付け棒もまた、魔法で出す。
そして、近くの壁で棒の先を擦り火をつけた。
その火を、片手に持った松明につけて、周りを照らす。
「ティアラ、準備はいいか?」
「いつでも大丈夫です。外しません」
隣で悪魔に向かって、ティアラが弓を構える。
確認した後、俺は松明を真上に向かって放り投げる。
真っ暗だった地下室が、ぱっと明るくなる。
すると、悪魔が纏っていたであろう影の鎧が、透けて、中が見えてくる。
中には、もう一人の悪魔がいた。
同じ見た目をした分身を、自分の体に纏っていたのか。
「なんだ……!?」
悪魔の視線が、宙に舞う松明の方を向いている。
気が、明かりの方にいってる間に、ティアラは矢を放つ。
真っ直ぐとティアラの矢は、悪魔の胸に突き刺さる。
「――――がはッ!?」
「俺の……いや、俺たちの勝ちだ」
松明は床に転がる。
素早くティアラが魔法で火を消した。
すぐに消さないと、周りに広がってしまうからだ。
俺は、火付け棒に火を灯して、ゆっくりと悪魔に近づく。
「それじゃ、兵器を返してもらおうか。それは、俺の家族の物だ」
「まだ……まだ……まだ……」
白い球体を握りしめて、悪魔は唇を強く噛み締めて、呟いている。
「我は……我は、悪魔の王になるんだ……だから、まだ、まだ、まだぁぁぁぁ!」
悪魔が叫ぶのと同時に、影が周りの物を掴む。
「まだ、我は死んでたまるかぁぁぁ!」
持ち上げられた数多くの物体が、俺とティアラに向かって放り投げられる。
すぐに、頭を守り、俺はティアラの方に駆ける。
体で、ティアラを投げられる物から守る。
腕に背中に、雨のように落ちてくる物が、ぶつかる。
地下室には、物が落ちる音がたくさん響き、ぴたりと止まった。
「はあ……はあ……大丈夫か……ティアラ」
「私は大丈夫です。そんなことより、グラット、あなたが」
「俺も、大丈夫だ……。頭は守ったからな……」
俺は、笑ってみせる。
被っていた帽子がぼろぼろになっていた。
「はあ、はあ……そんなことより、あの悪魔はどうした?」
「逃げてしまいました」
「そうか……兵器が持ってかれたか……」
あれは、作っちゃダメなやつだ。
未だに、なぜじじいが兵器を完成させたのかわからない。
でも、あれは……。
親父の言葉が脳裏で蘇る。
――――これはな! 俺たち家族がこれからも幸せに生きていくために必要な、武器なんだぜ!
あの言葉は、多分、王から完成させれば、大量の硬貨を貰う約束をしていたのかもしれない。
だけど、子供の俺にとっては、この先の未来を明るく想像できる言葉だった。
「グラット、諦めてるんですか?」
ぼろぼろの俺をティアラが見上げていた。
「だって、逃げたらもう……」
「安心してください。私が取り返しに行きます」
ティアラは、真剣な眼差しで、真っ直ぐに言った。




