31話 銃使いの男と少女 対 影の悪魔 2
ティアラに突き飛ばされて、俺は悪魔の攻撃を間一髪で躱す。
俺を狙っていた黒い刃物は、ティアラの胴を貫通していた。
床へと転がり、俺は素早く起き上がり、ティアラの方に駆けた。
「おい! 大丈夫か! ティアラ!」
倒れ込むティアラを持ち上げると、手に、温かい感触が伝わってくる。
これは、さっきじじいの血に触れた時と同じだ。
周りの音が消えた。俺はぽつんとその場に座り込んでいた。
俺を飲み込んでいた闇が、より深くなっていく。
心の中を埋めていた唯一の存在がなくなり、ぽっかりと穴が開く。
何も、なくなってしまった……。
俺の周りは、いつも勝手に消えていく。
この世界はやっぱり、俺を必要としていないらしい。
怒り以上の何かが爆発しようとしていた。
俺は、その場にティアラを置いて、立ち上がる。
「――――痛った……」
倒れた悪魔が起き上がり、ぐちゃぐちゃにした顔が修復していく。
「俺は、絶対にお前を殺す」
俺が睨みつけ、殺意を向けると悪魔は笑う。
「ギャハハハ! いくら我に殺意を向けても、お前じゃ無理だ!」
「――――グラット!」
俺は、魔法で銃を生成し、銃口を向ける。
絶対に許さない。
「――――グラット!」
悪魔が、俺を嘲笑している。
俺を蔑むような、赤い瞳がこちらを見ていた。
引き金を引こうとした時、俺の足が何かに掴まれる。
「――――グラット! こっちを見て! 私、作戦があるから!」
足元に視線を向けると、そこにはティアラが足にしがみついて、俺を見上げていた。
生きてる……。
「ティアラ……お前、大丈夫なのか?」
呆然と見下ろす俺とは違いティアラは必死に叫んでいた。
「そんなこと話してる暇はない! 急いで、動いて!」
暗闇に慣れた目には、俺たちを飲み込もうとする影が、はっきりと見えていた。
すぐに俺は、ティアラを持ち上げて、後ろへと回避する。
いくつもの黒い刃物が、俺たちを刺そうと襲ってきた。
ぎりぎりで、それを躱し、悪魔の目を狙って銃を撃った。
「クッソ、躱されたか」
視界が見えない内に、俺とティアラは物陰に隠れた。
俺は、改めてティアラに確認するように、小さな声で問う。
「大丈夫なのか、ティアラ?」
「大丈夫です。背中にちょっと大きな傷ができたくらいです」
「そ、そっか……それは、良かった」
なぜだか、俺の声は震えていた。
涙が勝手に溢れてきていた。
不思議そうにティアラは俺を見た。
「グラット?」
「大丈夫だ。心配するな……ただ安心しただけだから」
「そっか……!」
ティアラは笑顔を浮かべた。
穴の開いた心に、何かが戻ってきていた。
よかった……よかった……。
俺は、深呼吸をして、もう一度冷静になる。
そうして立ち上がり、悪魔の方へ行こうとするとティアラが止める。
「待ってください。作戦があります」
「作戦……?」
「私とグラットがいれば、必ず成功する作戦です! 今、落ち着いて一度、聞いてください」
「そんなことはない。俺は至って冷静だ」
「嘘です! さっきから、グラットは周りが見えてません。グラットがいれば成功する作戦なんです。グラットが必要なんです!」
必要……俺が……?
世界から、見放された俺が、必要……。
なぜだか、そんな言葉の一つに、俺は今まで感じたことがないような、温かさを感じていた。
「そうか……」
俺は、誰かに必要とされたかったんだな。
今まで感じていた虚無は、この世界から必要とされていないと、俺が勝手に思い込んで作り出していたものだったんだ。
そっか、そうだったんだ。
親父は、何度も言ってくれていた。
お袋も、同じように何度も言っていた。
ただ、俺が忘れていただけだったんだ。
――――俺たちの可愛い息子、グラット!
病気を抱えながらも、小さい頃の俺と遊んでくれた親父が言った。
――――愛してるよ。グラット。
別れ際に、悲しそうな顔でお袋が言った。
俺は、そんな親からもらった言葉を、一人ぼっちになった孤独感で忘れていた。
ごめんな……親父とお袋とじじい。
俺は、バカ息子だよ。
だけど、もう忘れないから、見ていてくれ。
俺の生き様を。
☾ ☾ ☾ ☾
「作戦はいいですね。グラット」
「おう! しっかり頭に入れたぜ」
「それでは、やりましょう!」
俺とティアラは、悪魔の正面に立った。
殺意より、何より、俺は今、隣に立つティアラのために戦おうと、悪魔と向き合っていた。
「我に、何度立ち向かおうと無理だ。死ぬ未来は変わらないぞ」
「どうかな、俺も今、死ぬ未来は見えないんだ」
「ギャハハハ! なら、見えるくらいの絶望に落としてやる!」




