29話 悪魔は見つける
グラットとティアラが、グラディオの工房にたどり着く数十分前に遡る。
工房では、夜にもかかわらず作業をするグラディオがいた。
鉄を叩く音が響いていた。
そんな中、工房に鉄を引っ搔いたような、不快な音が響く。
この時間に客は来るはずがない。それは、日々を工房で過ごしていたグラディオが理解している。
「誰じゃ」
危険を察知したのか、普段は呼ばれない限り顔を出さないグラディオは、自分から出向く。
奥から、顔を出した時だった。
明かりのない工房の中を、這うように黒い影がグラディオに向かって動く。
一瞬で、その影はグラディオの体に纏わりつき、拘束した。
「な、なんじゃ!?」
「命が助かりたかったら、今すぐ兵器の在りかを言え」
「お主は何者……」
体が宙に浮き、グラディオは目の前の存在を睨む。
「我は、悪魔の王になるシャグラットだ」
額に一本の角を生やし、鋭い牙と鋭い爪を持つ、少年のように小柄な悪魔。
これでも、何百年も生きて、人を殺してきた悪魔だ。
だが、グラディオには、その姿に幼さを感じた。
シャグラットの目的は、初めから変わっていない。
兵器を手に入れ、国を一つ滅ぼし、さらにピスタニア王国を乗っ取ろうとしていたのだ。
それらの功績を積むことで、シャグラットはギルガッドがやられたことで空いた第七悪魔の座を奪おうと考えていた。
「お主は、若いな……」
シャグラットの本質を見抜いたように、グラディオが言った。
「なんだと、貴様、我を見下しておるのか? 貴様より長く生きているんだぞ」
「だとしても、お主は若い。そこまで生きて、未だ自分のことしか、考えてないんじゃないか?」
シャグラットは言葉に詰まってしまう。
悪魔として生まれてから、人を殺し、他の悪魔と同じように、上を見上げてきた。
誰よりも上を目指し、強さを求めた。
そうしているうちに、シャグラットの強さを認めた二人の部下ができた。
それが、今のシャグラットを作っている。
幼いまま、狂気を学び、狂気に染まった。それ以上のことも、それ以下のこともシャグラットには必要なかった。
この世界は強さがすべてなのだ。
ヴェレットもキャビランも、自分の強さを見せつけるための道具でしかない。
「そんなことはない。我は……我は……」
返す言葉が見つからない。
ヴェレットの剣技もキャビランの能力も、シャグラットは認めていたから、部下にした。
最初はそんな純粋な気持ちがどこかにあったはず。
それなのに、シャグラットはグラディオに返すことができない。
「我が……我が、王になればそんなことどうだっていい。その一歩として、兵器を探しているんだ!」
「そうか……なら、お主は王にはなれん。わしは、民のために動く本物の王を知っとる。だから、無理じゃ」
「我は、悪魔だ。悪魔は世界を滅ぼすために存在する。民? 国の平和? なんだそれは! 悪魔の王は世界の破滅を目指せるならそれでいいのだ!」
「なら、悪魔の王は存在自体間違っとる」
「なんだと……貴様はさっきから我を怒らせているのか? いいから、速く兵器の場所を吐け!」
焦りはなかったシャグラットは、グラディオの言葉により煮えくり返るほどの怒りを感じていた。
それでも、グラディオは冷静でいた。
「兵器の場所は吐かん。悪魔もこの世界を滅ぼせん。悪魔は人間を舐めすぎじゃ」
「もう、うるさいよ。死ね」
黒い影が鋭い刃物のように形を変えた。
そして、そのままグラディオの胸を貫いた。
「う……!?」
工房の奥の方へとグラディオを投げ捨て、シャグラットは自分から影を伸ばし、工房の中を荒らし始める。
「兵器はどこだ……こうなるなら、キャビランを連れてくればよかった。でも、ヴェレットだけにすると、すぐに作戦より戦闘を楽しもうとするから、止める奴はいた方が良いか」
そして、シャグラットが伸ばした影が地下への通路を発見する。
「そこか……」
工房の奥の方へと進み、グラディオの横を通っていく。
「人類を舐めるなよ……悪魔」
そんな、グラディオの言葉を無視してシャグラットは地下へと進んでいった。
グラディオはそこで、意識がなくなり、強く握った拳のまま静かに永遠の眠りについた。
☾ ☾ ☾ ☾
地下へと進んだシャグラットはようやく、兵器を目の前にした。
白い球体に触れると、紫色のラインが光る。
「これが、兵器か……これさえ、あれば……」
シャグラットは思わず、笑いが漏れる。
これからのことを想像すると、我慢ができなかった。
「ギャハハ! これで、我は上に行ける! 最強の悪魔へと……」
――――パン! パン! と銃声が二発響く。
シャグラットの顔に二発の銃弾が貫通する。
「あぁぁん? 誰だ貴様」
その銃弾は、シャグラットには効いていない。
数秒で貫通した部分は治っていた。
「俺は、お前を殺す者だ……」
ただ、怒りに震え、男の瞳には殺意しか宿っていなかった。
銃を構え、グラッドは冷酷な声で言った。




