表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
60/64

25話 猫耳少女 対 剣士の悪魔 3

 私とヴェレットは、また睨み合っていた。


 さっきと違うのは、ヴェレットが私に本気で向き合っているというところだ。


 相手の足は、後数秒もすれば再生するだろう。

 

 柄を握る両手が震えている。

 自分が強くなったとわかっても、恐怖は拭えない。

 でも、それは大事なことだとお父様が言っていた。


 それは――――命を大切にしている証拠だからと。


 だから、私はこの恐怖を忘れない。


「フィスト、本気の勝負をしよう。私はもう、あなたをへなちょこと呼ばない」


「そう、それは良かった。命がかかってなかったら、楽しい勝負になったかもね」


「そうね……それでも、私はこの戦いを楽しむよフィスト」


「そう……」


 相手の狂気が、私を包もうとしている。

 抵抗するために、頭の中でティアラを浮かべた。

 

 私は今、戦いを楽しむために戦っていない。

 今を生きるために、ティアラと一緒に旅を続けるために戦っているんだ。


「それじゃ、本気で行かせてもらうわ」


 ヴェレットは微笑み、最初に動き出した。


 赤い眼光が、線を引くように真っ直ぐと私に向かってきていた。


 縦に振り下ろされた剣を、私は剣を横に構えて止める。

 ヴェレットは体勢を変えて、蹴りを入れてこようとした。


 だが、それはもう見た。


 私は、すぐに力の抜けた相手の剣を弾き返す。

 脇腹辺りを狙った蹴りを私は、低い姿勢で躱した。

 

 ヴェレットの足が私の頭の上を通りすぎた。

 その瞬間を狙い、私は剣を振るう。


 体制を崩し、私の剣を躱すことはできない。

 横に薙いだ剣が、ヴェレットの首を捉えていた。


 ――――なんだ!?

 

 だが、その刹那、私の剣は弾かれてしまう。

 

 何が起こったのか、私はすぐに理解する。

 私の剣を振る速度よりも、ヴェレットが空中で体勢を立て直し、圧倒的力によって剣を弾く方が速かった。


 地面を滑り、私は後ろへ下がる。

 ヴェレットの剣を受けた手は痺れていた。

 

 剣を受けるだけで、ここまで響くのか……。


「これが、ヴェレットの本気……」


「そうだよ。あなたは、私の力と速さにどれだけついてこれる?」


「私は、弱いよ。だけど、諦めは悪いから、死なない限り戦う」


「それじゃあ、最後まで戦おう」


 ☾ ☾ ☾ ☾


 私とヴェレットは次に、速さでぶつかっていた。

 四方八方に、飛び交い空中で斬り合う。

 壁を蹴り、何度も火花が散る。


 速さは互角、力は圧倒的に相手が上回っていた。

 私は壁にひびが入る力で、壁を蹴り、勢いよくヴェレットとぶつかる。


 剣と剣がぶつかり、鋭い金属の音が響いた。


 私は、押し返そうと力を入れるが、やはり力では勝てない。

 逆に押し返され、私は地面へと叩きつけられる。


「――――がはッ!」


 さらに、ヴェレットはそんな私に追撃してくる。

 空から勢いよく振り下ろされる剣に気づき、私はすぐに避ける。

 間一髪、躱すことができて、私は距離をとった。


 だが、体力は限界に近づいていた。


 肩で息をして、私は目の前の敵に剣を向ける。


 そろそろ決着をつけないと、確実に負ける。


「フィスト、楽しいね」


 ヴェレットが、外で走り回る子供のように笑っていた。

 

 震えて、恐怖を感じているのに、この感情はなんなのだろうか。

 私は今、生きるために、ティアラとこの先の旅を続けるために戦っているのに、この高ぶる感情はなんなのだろうか。


 ヴェレットの狂気染みた表情に引かれるように、私は笑みを浮かべていた。


 私は今……。


 ――――この恐怖を楽しんでいる。


 懐かしいな、この感情……子供時、お兄様と剣で手合わせをした時を思い出す。

 あの頃は、純粋に楽しんでいた。


 けど、今はダメだ。


「すう……はあ……」


 深呼吸をして、私は心を整える。

 

「ヴェレット、そろそろ決着をつけよう。次で私は限界がくる」


「いいだろう。なら、私の本気の剣を受けてみなさい」


 私は一度、剣を鞘に納める。

 そうして、構える。

 鞘に刺した剣の柄を片手で握った。


 ヴェレットは、剣を両手で握る。

 そうして、天に構えた。

 地面にひびが入るぐらいの力が溜まっている。


「ふう……」


 私は、この剣の性能に気づいた。

 戦いの中で、私はずっとヴェレットに勝つ唯一の方法を考えていた。

 

 その時、浮かんだ答えはとても簡単だった。

 

 この剣は、頑丈で鋭い。そして、片手で持てるくらい軽い。

 

 お父様が私のために頼んで作ってくれた剣。


 それに気づいたのは、ピスタニア王国にきて、剣の正体をグラットに教えてもらった時だ。


 私が速く動けば動くほど、この剣は切れ味が増す。

 

 そして――――今、その性能を生かす時なんだ。


 必ず、勝ってティアラたちと旅を続ける。


「それでは、ヴェレット行きます」


「フィスト、勝負だ」


 その声に合わせて、今までにないほど、足に力を溜めて地面を蹴った。

 私は一直線に、ヴェレットに突っ込む。

 

 私たちの距離が、剣を振れば届く距離になった。

 その刹那、ヴェレットは剣を振り下ろす。


 とてつもない剣の振りの速さと力を感じる。

 

 それに合わせて、私も鞘から剣を抜いた。


 ゆっくりと流れる刹那の時間の中、私とヴェレットは交差する。


 ――――抜剣。

 

 そして、私は横に剣を振りぬいた。


 地を揺らすような轟音が響いた。


 私は、剣を鞘に納めて振り向く。


「フィスト、やるな。負けたよ」


 ゆっくり振り向くと、剣と胴から下を切り裂かれたヴェレットが地面に転がり、空を見上げていた。


 私は、歩くことさえままならない足取りで、ゆっくりと近づく。


 すると、ヴェレットはゆっくりと胸の辺りを指さす。


「私の弱点はここだ。ここを刺せば、再生が止まり、死ぬ」


「私に弱点を教えて、いいの?」


「いいさ、私は真の勝負で負けたのだから」


「そっか……」


 お父様も敗北は死と言っていた。その言葉だけ、私は好きになれない。

 だって、敗北が死だなんて、悲しい。

 

 だけど、私は決着をつけようと思った。

 だって、敵はそれを望んでいたから。

 

 微笑みながら、仰向けに倒れたヴェレットに言った。


「案外、人みたいな弱点なんだね」


「そうかもね。でも、私はそういう自分の体が好きだ」


「そっか……」


 ヴェレットの胸に私は、剣を突き立てる。


 そして、心の奥に感じた悲しさを言葉にする。


「もし、ヴェレットが悪魔ではなく、獣人だったら私たちは剣士同士のライバルだったかもね」


「ふふ……そうかもね」


 微笑みを零して、ヴェレットは目を閉じた。


 私は、それを見て、ゆっくりと胸に剣を刺す。


 そして、ヴェレットは黒い靄になって消滅した。


「はあ……はあ……流石に、もう立てないな」


 安心感からか、体の力が一気に抜けて私はその場に膝をつく。

 今までにない戦闘に全身が悲鳴を上げていた。

 息をするだけで、体に痛みが走る。

 

 思いっきり、地面に体を預けて空に浮かぶ月を見上げた。

 

 後は、頼んだよティアラ。


 私はただ、次に目を開いた時、ティアラの笑顔が目の前にあることを信じて、意識から手を放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ