24話 猫耳少女 対 剣士の悪魔 2
私と女の悪魔は睨み合っていた。
赤い瞳が暗闇の中で光っている。
「それでは、行きます」
悪魔とは思えないほど律儀に、合図を出す。
それを聞いて、私は剣の柄を両手で強く握りしめた。
悪魔は剣を回転させ、鞘に納め、構える。
刹那の静寂。私は生唾を飲み込む。
――――ゴクン。
私が先に踏み込む。
距離を詰めて、剣を振り下ろす。
その一瞬、赤い瞳が線を引くように滑らかに流れ、動く。
気づけば、私の剣は地面に突き刺さっていた。
「獣人さん、あなたじゃ私に勝てない」
耳元で囁くような声で、呟かれる。
素早く、剣を持ち上げ横へ薙ぐ。
だが、私が斬ったのは残像だった。
背後に回られたと思い、すぐに振り向く。
いない……。
敵の気配が消えてしまった。
「は?」
その瞬間、頭の中に一つの答えが浮かぶ。
まさか――――。
私は、敵の行動に気づき素早く、その場から走り出した。
私たちの前に現れた時の敵の目的を考えれば、その行動は必然なのかもしれない。
最初から、悪魔たちはこの大通りの先にある工房に人を通さないのが目的だった。
つまり、あの女の悪魔の狙いは先へ行ったティアラたちだ。
私が、弱いから悪魔がこっちに見向きもしない。
まずは、私があの悪魔を振り向かせないといけない。
片手で握った剣を見て、思う。
私に、そんなことできるだろうか……。
そんなことを思いながら、ティアラたちの方へ全力で駆ける。
そして、すぐに私は悪魔に追いつく。
――――見つけた。
同じような速さで走る悪魔に向かって、突撃するように剣を振るう。
「そっちには、行かせない」
「私に追いついてきましたか」
私の剣に、すぐに反応し鞘に納めた剣を抜く。
剣と剣がぶつかり、火花が散る。
やっぱり、そうだ。
私は力では負けてるけど、一直線の速さでは負けてない。
勢いのままに押し込み、悪魔を建物の方へと追いやった。
が、悪魔は体勢をすぐに立て直し、建物の側面に着地するように飛び移った。
そして、次の瞬間には壁を蹴って、別の壁へ飛び移った。それを、何度も繰り返す。
どうやら、速い動きで私を混乱させたいらしい。
「あなたを殺さないと、私は先へ進めないようですね」
どこからともなく、悪魔は話す。
「でも、へなちょこなあなたに私は、止められない」
言い方にムカッとするが、私は落ち着いて敵の動きを捉える。
「絶対に止める!」
右から左へ、正面から背後へと何度も飛び移る敵に、私は集中する。
どこから、攻撃してくる……。
気配が四方八方から感じて、全く捉えられる気がしない。
すると、背後からの刺すような殺意を感じる。
即座に、振り向き剣を構える。
けど、遅い。
急所は外れたものの、脇腹に斬られる。
危ない……反応が、少し遅かったら斬られていた。
さらに、悪魔は攻撃の手をゆるまない。
次に、頬、腕、太ももと傷をつけられる。
反応はするも、速い攻撃に対応できない。
「あなたそろそろ限界が、近いんじゃない」
悪魔の言う通りである。
切り傷の痛みによって、集中力が徐々になくなっていく。
このままじゃ、私は敵に真っ二つにされるだろう。
何か、手を打たないと……。
攻撃のタイミングさえ、わかれば……。
私は、一度目を閉じる。
お父様が言っていた。
視界だけを頼りに戦うなと、全身で気配を感じろと……。
肌で感じる気配、耳で感じる音の気配……もっと気配を鋭く感じるんだ。
壁を蹴る音がする。まだ、攻撃をする気配はない。
まだ……まだ……まだ……。
――――来る。
右側で、壁を蹴る音がして、攻撃の気配を肌で感じる。
すぐに、その方向に体を向けて剣を向ける。
目を開くと悪魔は、私の首を狙って剣を振っていた。
すぐに、剣を構える。だが、遅い。
構えた剣を掠めて、敵の剣は私の耳を斬った。
「くっ……!」
これじゃ、遅い。
もっと、速く。
私は、また目を閉じた。
集中……集中……集中……。
その時だった。
今まで、感じたことないような感覚になる。
いや、違う。この感覚はさっき、ゆっくりと感じたあの瞬間と似ていた。
音がゆっくりと聞こえてきた。
――――来る。
素早く、振り向き目を開く。
敵の動きがゆっくりと見える……。
次は、私の胴を狙っているようだった。
それに合わせて、私も剣を構える。
力を抜いたようにゆっくりと私は横に剣を薙いだ。
私と悪魔が交差する。
悪魔の剣が、掠めた。
そして、私は剣を振りぬいた。
しばらくして、背後から悪魔が口を開いた。
「私の足を斬るとは、やるな。攻めているのに、守りに入ってしまった。この感覚、久しぶりだ」
悪魔はなぜか微笑んでいた。
ゆっくりと私は振り向くと、片足で立っている女の悪魔がいた。
斬った足は、私の後ろで黒い靄となり消滅した。
「もう、その攻撃は通用しない」
「……一つ聞いて良いか?」
「なんだ?」
「名はなんという」
その問いに、私はしっかりと答えた。
「私はフィスト。獣人の剣士だ」
「私は、ヴェレット。悪魔の剣士」
ヴェレットは剣先を私に向けて、言った。
「ここからが本番だフィスト。楽しもう」
そう言って、ここまで見せていた無情の表情が、口角を少しだけ上げて笑っていた。
どうやら、この戦いに喜びを感じているらしい。
悪魔の目的の妨害は、今、真の勝負へと変わっていた。




