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22話 銃使いの男は殺意が湧く

「はあ……はあ……」


 ティアラと一緒に、工房の近道を走っていく。

 眩暈がするぐらいに、視界が揺れている。

 

 人生で、こんなに全力で走ったのは初めてだ。


 じじい……生きてるよな……。


 自分の家が、自分の居場所が近づくにつれて、不安が立ち込めてくる。


 そうして、見慣れた建物が見えてきた瞬間、俺は自然と身を引き締めた。


「着きましたね」


 強張っているような表情で呟くティアラ。


「そうだな。中には多分シャグラットとかいう悪魔がいる。気を付けるぞ」


「はい」


 俺たちは、工房の扉の前で武器を構える。


「行くぞ」


 俺の合図に頷くティアラを確認して、扉を開けた。


 耳に響くような不協和音。

 机や道具、完成した武器がそこら中に散らかっている。

 

 工房は、すでに荒らされていた。


「な、なんだこれ……」

 

 俺は、見たくもない光景を目の前にして、思わず声が漏れてしまう。

 

「ひどい」


 こもったような声でティアラも呟く。

 

 落ち着け……工房が荒らされたぐらいで動揺しすぎだ。

 じじいが、生きてるなら俺はそれでいい。


 自分勝手なじじいと話したいことがあるんだ。


 俺は、そんな思いで工房の奥へと入っていく。


 色々な道具が散乱している上を慎重にゆっくりと歩く。

 そうして、見えてきたのは……。


「は……?」


 工房の汚れた床に倒れるじじいを呆然と眺める。

 

 月明かりが差した。

 赤黒い液体がじじいを中心に広がっていた。


「グラディオおじいさん……間に合わなかった……」


 ティアラの口から、悔しさが滲んだ声が出た。


「もっと、早く来ていれば……」

 

 俺はその液体に両手で触れた。

 ティアラの声が遠くになっていくような気がした。


 まだ温かく、そこからは金属のような臭いがした。

 掌が赤黒く染まっているのを見て、目を丸くする。


 視界が、世界が、激しく揺れていた。

 酒を飲んだかのように、おぼつかない足取りで、俺はじじいに近づく。

 一歩進むたびに、液体を踏む音が鳴る。


「まただ……また、勝手に家族が消える」


 俺の周りから、何も言わずに勝手に……。

 親父だって、お袋だって、じじいだって、みんな勝手に消える。


 そして、俺はいつも取り残されるんだ。

 

 この世界は、俺に何を求めてるんだ?

 俺が望むものすべてを奪いやがって……。

 

 最初から俺はこの世界に求められてないのか?

 

「そうなのか……」


 じじいの亡骸を見て、俺は呟く。

 昔からあった虚無感が、俺をじわじわ飲み込んでいった。

 

 俺の問いに答えてくれる者は誰もいない。

 そして、自分の中に一つの答えが出た。


「そうか……」


 魔法で手元に銃を作って、俺は立ち上がる。


「ティアラ、行くぞ」


「え、どこに……?」


 ティアラのそんな疑問に、俺は地下の入り口に指をさして答える。


「シャグラットとかいう悪魔をぶっ殺しに」


 敵が残っているのは、わかっている。

 理由は単純だ。

 

 まだ、気配がある。

 俺は昔から、そういうところだけは勘はいい。だから、敵に背後を取られてもなんとなくわかってしまう。


 工房の地下を睨んだ。

 

 俺の命なんて構わない。

 相打ちでもいい。

 必ず、ぶっ殺してやる。


 これは、じじいを殺されたことへの復讐じゃない。

 俺が、この世界に抱いてきた殺意をぶつけるだけの戦いだ。


「じじい、ごめんな。俺はそこまで義理のいい男じゃない」


 俺とティアラは、そうして地下へと足を踏み入れた。

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